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蒼と紅の雷霆

作者:setuna
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蒼き雷霆ガンヴォルト爪
  蒼紅:第十九話 安穏

仲間達の元を去ってからGV達の逃亡生活はしばらく続いた。

怪我人を連れていたこともあって隠れ家に戻るのに相当の時間がかかったが、皇神とフェザーに調査の手が来る前に戻れたのは幸いだった。

隠れ家から必要な物を持ち出してからは身を隠しながら何とか過ごしていた。

しかし、何時何処で見つかるかもしれない不安を抱えながら逃亡生活を送るのは心身が疲弊していく。

特に怪我が完治していないソウや心の傷が深いGVは酷い。

紅き雷霆の能力で何とか助かったものの、アシモフの暴走状態の蒼き雷霆はソウの肉体に深刻なダメージを刻み付けていった。

そしてGV達は今…。

「皆さん、ご飯が出来ましたよ」

無能力者の少女の屋敷で穏やかに療養していた。

「ありがとう…オウカ…」

ぎこちなく笑みを浮かべるGV。

オウカと呼ばれた彼女はGV達が逃亡生活を続けていた際に不良能力者に絡まれていたのを見かねたGVが疲弊した体を押して助けたのだ。

ソウとテーラは能力者と無能力者のいざこざに関わるつもりはなかったのだが、結果としてGVの援護をする形になってしまった。

何せGVは疲弊しており、満足に戦える状態ではなかったからだ。

そして不良能力者を蹴散らした後に行く宛てもなかったGV達を自分の危険も省みずに匿ってくれたのだ。

無論、無能力者への嫌悪感を持つソウとテーラは難色は示したものの、ソウの怪我やGVの精神状態を考慮して、オウカの屋敷で暮らし始めた。

「ソウ、体の調子はどうですか?」

「問題ない、体は普通に動かせるくらいには回復した。俺の方よりGVの方が深刻だろう」

育ての親を自分の手で屠ったことはGVの心に深い傷を負わせていた。

「あの、ソウ…オウカは何故能力者である私達にここまでしてくれるのでしょうか?何故このようなお屋敷に1人で…」

「……あいつは孤独を知っている目をしていた。俺も少し気になってオウカに尋ねてみた。あいつは多くは語らなかったが、庶子なんだそうだ。幼少の頃から親から離されてここで暮らしていたらしい…無能力者は例え同じ無能力者でも都合が悪ければ淘汰するらしいな」

「ソウは彼女のことをどう思っているのですか?」

「…シープス3と同じで能力者への差別意識を持っていない稀有な存在だ。無能力者であることを考えても一定の好感は持てる…GVの件もあるしな」

傷付いたGVの心を癒してくれているのはオウカだ。

勿論シアンの存在もあるのだろうが、シアンはGVからすれば守るべき存在であり、オウカの温かで、母性に満ちた性格はGVの傷ついた心を癒してくれている。

「弟を支えて、慕ってくれている女を無能力者と言う理由で無下にするほど、俺も鬼ではないしな」

「優しいのですね…ソウ…全ての無能力者がオウカのような人ばかりなら…」

「第七波動の有無は大きい。第七波動があれば必然的に無能力者より出来ることが多くなるからな…個人ならまだしも集団となると厳しい。人の数が増えれば増えるほどに様々な思考を持った奴が現れる。俺とお前のように無能力者を憎む存在。GVとオウカのように分け隔てなく接する存在…そういう様々な思考を持った奴らが団結するには明確な理由が必要になる。」

「理由ですか?」

「そうだな、例えば今更だがテーラ。人殺しは罪となることは分かるだろう?」

「はい」

「しかしそれらを教えられても殺人は起きる。無能力者と能力者関係なくな…それはしてはならない明確な理由がないからだ。ただ教えられても完全な理解は出来ん。この国で能力者が多少の不便はあっても生活が出来ているのは能力者の有益さがある程度理解されているからだろう。頭には来るがな」

「…………」

「だが、このままでは無能力者と能力者の問題は何時までも付きまとうことになるな。例えどちらかが滅んだとしても」

「え?」

その言葉にテーラは目を見開いた。

「例え今の無能力者が滅んだとしても能力者同士の間に無能力者が生まれてくる可能性も低くはない。実際に無能力者同士で能力者、能力者同士で無能力者が生まれてくるからな…お前の組織は無能力者の殲滅を目的としているようだが、そういうことは視野に入れているのか?」

「…いえ、無能力者の殲滅を優先し過ぎてそういう所に考えが回りませんでした」

「…難しいものだな、無能力者がどれだけ憎くても無能力者からは逃れられない」

「……私達が憎むのは愚かな現在の無能力者です………少し…考えなくてはなりませんね(そろそろ計画を進めても良いでしょう…出来ればソウやGV達にも仲間になってもらいたいのですが…それは…難しいでしょうね…)」

そうして残りの時間が迫ってくることを感じながらテーラもまた食事に向かうのであった。

「美味しい…」

オウカの料理を口にするシアンは美味しい料理に表情を綻ばせる。

「そうですか、良かった…」

「あ、でも…この料理…味付けを変えたのかな?」

「はい、少し調味料を変えてみたのですが…」

「凄く美味しいよ、勿論前のも美味しかったけど…」

「………」

シアンは複雑そうにGVとオウカを見ていた。

自分はオウカのようなお腹も心も満たされるような料理を作ることは出来ない。

そしてGVを悲しみから引き上げて、立ち直らせてくれたのもオウカだ。

「(もし、私が子供みたいな見た目じゃなかったら…)」

せめて年相応の見た目ならGVの支えになれたのだろうか…。

「(私…オウカさんに嫉妬してるんだ…)」

傷付いたGVの心を癒してくれる包容力と母性はシアンにはないもの。

それを持つオウカにシアンは嫉妬を感じてしまう。

勿論シアンもオウカのことは嫌いではない。

オウカはシアンの好きな物を用意してくれたり、沢山のことを教えてくれる。

だからこそ、優しいオウカに嫉妬してしまうこんな自分が嫌になる。

「…?シアンさん、どうかされましたか?」

「シアン?」

「え!?う、ううん、何でもないの…」

GVとオウカの心配そうな表情を向けられたシアンは慌てて首を横に振った。

『GVとオウカが仲良くしてるから妬いちゃったのよねシアン?』

「そ、そんなことないよ!!モルフォは引っ込んでて!!」

「そんなこと言わずにモルフォさんもお話しませんか?」

『あら、ならそうさせてもらおうかしら……それにしてもオウカは無能力者…なのよね?』

そう、モルフォは第七波動であり、特別な措置か第七波動能力者でなければ認知することは出来ないはずなのだが、無能力者であるオウカはモルフォを認知出来ている。

「そう言えばオウカ…前に何もない所をじっと見ていたけど…もしかして…何か見えてたりする?」

「はい、実は私…昔から霊感があって幽霊とかそう言うのが見えるんですよ」

「『え?』」

「なるほど、あなたは霊感が強かったのですね。第七波動は霊的な物と無関係ではありませんから」

「確か、霊的遺物が起こす現象を元に皇神の能力者関連の技術が出来たんだったな…確かに霊感があればモルフォのようなタイプの七波動の認知は不可能ではないな」

「と言うことは幽霊は実在するということなんだね」

「はい、と言うより今でも近くにいますよ」

「『~~~っ!!』」

顔を真っ青にしたシアンとモルフォが縮こまっている。

シアンはともかくモルフォまでそうなったことに全員が思わず笑ってしまった。

そして更に時間は経過し、テーラはソウ達との交流を重ねていたが、そろそろ頃合いだと思って立ち上がり、別れを告げることにした。

「皆さん、私は自分の居場所に戻ろうと思います」

それを聞いたソウとGVは納得の表情を浮かべ、シアンはショックを受けたような表情を浮かべている。

「そうか、まあ…元の組織でも頑張るんだな」

「君には本当にお世話になったよ…本当にありがとう。」

彼女には沢山助けられたことにGVは感謝する。

「テーラちゃん…本当に行っちゃうの?」

「はい、私には私の帰りを待ってくれている仲間と家族達がいますから………これ以上ここにいると決心が鈍りそうなので…」

テーラの小さな呟きは誰にも拾われることはなかった。

「テーラさん、寂しくなりますね…」

「オウカ…お世話になりました。全ての無能力者があなたみたいな人ばかりならと思いました…あなたの未来に多くの幸福があることを願っています」

自分の敵意に気付いていたのに臆せずに接してきた彼女にテーラは敬意を抱いて接する。

「お世話になりました…皆さん、本当にありがとうございました。どうかお元気で」

それだけを言うとテーラは屋敷から去っていった。

「テーラちゃん…」

シアンにとって家族と言えた少女がこの場を去ってしまったことは少なからずショックを与えた。

「シアン…」

「別れは何時でも起きる。テーラとの別れもそれだ…だが、二度と会えなくなるわけでもない。生きてさえいればまた会える」

「お兄さん…うん」

シアン達はテーラの後ろ姿が見えなくなるまで見つめていた。

そしてテーラはある場所に辿り着くと、仲間達に通信を送る。

「テンジアンお兄様、G7のみんなも…聞こえますか?」

『ああ、聞こえているよパンテーラ…アスロックとニムロドはここにはいないけどね』

テンジアンと呼ばれたテーラ…パンテーラの義兄は通信に応えた。

「そうですか…少々予定が狂いましたが、皇神において最も厄介な紫電は倒れ、宝剣や皇神の能力者関連の技術を持ち出すことにも成功しました。」

『そうか、君も無事で何よりだ……そちらで何かあったのかい?以前より良い表情をしている』

「…こちらで沢山の出会いと経験をした…からですねきっと…お兄様、私達エデンの創る未来のことで若干の修正が必要になるかもしれません。」

『どういう意味なんだ?』

パンテーラはテンジアンにソウとの会話の内容を話した。

『成る程…確かに能力者同士の子供には無能力者が生まれることもある…無能力者の完全排除には大きな問題だ。』

「はい、そこで私は能力者同士の間に生まれた無能力者を受け入れようと思います…私達は人間です。生まれた子供が無能力者だからと迫害しては、それでは私達も私達を迫害した無能力者と同類となってしまいます…」

『確かにそうだ。我々は奴らとは違う』

迫害の苦しみは誰よりも理解出来るからこそ、パンテーラの言いたいことは理解出来る。

「はい…エデンのみんなの中にはこの考えを受け入れられない人もいるかもしれません。ですが、それは時間をかけてやっていきます。皇神を完全に打倒し、全ての技術を吸収すれば無能力者を能力者に変えることも出来るはずです…」

『パンテーラ……良い経験と出会いに恵まれたようだね…その国の言葉で“男子三日会わざれば刮目して見よ”と言うのがあるらしいが、女性にも適用されるようだ』

「もう…お兄様は…」

少し膨れるパンテーラにテンジアンは微笑んだ。

今まで迫害によって悪い意味で子供らしさを失ってしまった義妹の年相応の表情に嬉しさを覚えたのだ。

『分かった、エデンのみんなには僕から伝えておこう…アスロック達にもこのことをね』

「ありがとうございます…お兄様…さあ、私も…行かなくては…」

計画に向けて動き出したパンテーラ。

GV達の安らぎの時間が終わるまで…後…。 
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