蒼と紅の雷霆
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蒼紅:第十二話 憎悪
最後の宝剣持ちの能力者であるエリーゼを倒してからは比較的、穏やかに時間を過ごせるようになった。
そしてシアンとテーラはGVとソウに気付かれないように2人から貰った宝石で細工をしていた。
「テーラちゃん、そっちは出来そう?」
「私も後少しですね…手作りのペンダント…受け取って貰えればいいのですが」
「うん…」
シアンとテーラはどうやらそれぞれがGVとソウから貰った宝石でペンダントを作っているようだ。
ペンダントなら持ち運ぶ際に邪魔にならないし、お守りになるのではないかと思ったのだ。
元々こういう細工が得意だったシアンだが、テーラは細工をやったことなどないために苦戦している。
「シアン。ここはどうすればいいのですか?」
「あ、ここはね」
普段はテーラが教える側なのだが、テーラが細工に初挑戦のために今回はシアンが教える側となっている珍しい光景となっている。
「ふふ、何か不思議な感じ。普段は私がテーラちゃんに教えてもらっているのに」
「そうですね…細工と言うのは意外に難しいのですね…シアンがいなければ出来なかったかもしれません」
難しいが、こうやって少しずつ完成に近付いていくのは素直に嬉しいと感じる。
「皇神にいた頃、これが私の趣味だったの…これをしている時だけ、無理やり歌わされることを忘れることが出来たから」
「シアン…」
「あ、ごめんねテーラちゃん。でも今は凄く幸せだよ。GVやお兄さん、テーラちゃんとの生活が凄く楽しいの」
シアンの言葉にテーラは目を見開いた。
「私もですか?」
「うん、テーラちゃんがいなかったら…私、GVやお兄さんが帰ってくるまで…1人だったから、2人が帰ってくるまで、テーラちゃんが話し相手になってくれたり、第七波動の使い方を教えてくれたり…おかげでミッション中に歌がより鮮明に聞こえてくるようになったんだって」
「そう…ですか…私がシアンの力になれたのなら良かったです。」
今ではシアンとテーラは逆転姉妹のような関係である。
妹のような姉のシアンと姉のような妹のテーラと言ったところか。
「そう言えば、テーラちゃんってお兄さんいるんだよね?どんな人なの?やっぱりGVのお兄さんみたいに優しいの?」
「え?お兄様…ですか?…そうですね、お兄様はとても優しく、博識で私の自慢のお兄様です。GVとソウとは違って私達に血の繋がりはありませんが、同じ時間を過ごして、同じ草を噛み、泥水を飲んで生き延びた孤児同士で…義兄妹の誓いを交わした家族です。」
「孤児…お父さんとお母さんは?」
「あれは私が能力者であることが分かると私を捨てて逃げました。しばらくは孤児院で育ちましたが、経営者の方が亡くなったことで孤児院が閉鎖された後はお兄様や孤児仲間と身を寄せ合いながら生きていましたが…私のいた故郷では能力者は迫害の対象であり、謂れのない暴行を受け、そして碌に食べることも出来ず、私の孤児仲間達は1人、また1人と…死んでいきました…残ったのは私とお兄様だけになり、そのお兄様も飢えで倒れ、そして無能力者がそんなお兄様に果物を与えたのです…毒入りの物を…」
「そんな…」
「お兄様は何とかそれを吐き出したことで九死に一生を得ました。この時に今より幼かった私でも悟れました。無能力者と能力者は分かり合えないのだと…」
絶句するシアンに語り続けるテーラの表情は冷たい物になっていく。
「でも…全ての無能力者の人がそうじゃないでしょ?モニカさんみたいに」
「そうですね、彼女の人柄は私も好ましいと思います。無能力者なのが惜しいくらいに…ですが、シアン…モニカさんみたいな人がどれだけいると言うのですか?私は…もう無能力者を信じることは出来ません…人は自分とは違う存在を受け入れることは出来ないということは皇神で利用されていたあなたも分かっているのではありませんか?」
「でも…皇神にも…親切にしてくれた人が…」
「あなたはごく一部の無能力者のために今、この瞬間にも心ない無能力者に迫害され、食べる物も眠る場所もなく苦しんでいる同胞に迫害を受け入れろと言いたいのですか?」
「…!」
冷たい表情でシアンを見つめるテーラにシアンの表情が強張る。
少しして、テーラは首を横に振ると細工を再開した。
「…すみません、シアン。細工を続けましょうか……」
「う、うん…」
しばらく2人の間に会話はなく、黙々と作業を続ける。
「…出来た……」
「私も出来ました。」
シアンはGVから渡された4個の宝石、テーラはソウから渡された3個の宝石を使ったペンダントを手に取って出来映えを見た。
「あの…テーラちゃん…」
「怖がらせてすみませんでしたシアン…さっきのことは…忘れて下さい…」
申し訳なさそうに謝罪した後にテーラは部屋を後にした。
「………(皇神にいた頃は自由が無くて無理やり歌わされるのが嫌だったけど、私は食べる物も寝る所にも困ったことは無かった…私…本当に何も知らないんだ…この世界のこと…GV達のこと…)」
GVもソウもあまり良い境遇ではなかったことは教えて貰ったが、ストリートチルドレン前は何をして、何をされていたのかは知らない。
せめて、今の家族のことは知りたいと願うシアンであった。
そして、シアンとテーラはそれぞれの相手に手作りのペンダントを渡した。
「これは…」
「俺達が渡した宝石か?」
自分達がミッションの最中に見つけた宝石が使われているペンダントを見つめるソウとGV。
「うん、あの宝石で作ってみたの。せっかくGVから貰った物だけど…あなたに何かしてあげたくって…」
「私はリボンのお礼も兼ねてですね。ペンダントなら邪魔になりませんからお守りにでもなるかと…」
「………有り難く受け取る。」
「ありがとう、シアン…このペンダント…大切にするよ」
2人はシアンとテーラから手作りのペンダントを受け取ったのであった。
「ねえ、GV…この世界のこと…外国のことを教えてくれないかな?」
「え?」
突然のシアンの願いにGVは目を見開く。
「どうしたの?急に…」
「テーラちゃんからね…過去のことを少し聞いたの…私…何も知らないんだなって…能力者があまり良く思われてないってことは分かってたけど…外国じゃ食べるものも眠る場所もなくて死んでいく人がいるんだって知らなかったの…」
皇神に幽閉され、満足な知識を得られない環境だったとしても自分はこの世界のことを知らなさ過ぎた。
「シアン…」
「だから教えてGV…私…知りたいの…何も知らないままなのは嫌なの」
決意が込められたシアンの目を見て、GVは頷いた。
「…分かったよシアン。でも僕も外国の情勢についてはあまり分からないけど…それでも良いかな?」
「うん、よろしくお願いしますガンヴォルト先生」
「いつも通りでいいのに…」
GVは苦笑しながらシアンに外国の情勢について教えていくのであった。
「はあ…」
「どうしたテーラ?」
溜め息を吐いているテーラを見て、ココアを飲んでいたソウが尋ねる。
「いえ、シアンに少し大人げないことをしてしまいました」
「大人げないと言ってもシアンの方が年上のはずなんだがな…それで?何をしたんだ?」
一応シアンは13歳なのでテーラより2個上なのだが、それよりもテーラが落ち込んでいる理由を尋ねる。
「私のお兄様の話になり、お兄様のことを教えていたのですが、私の実の家族の話になって…」
「気持ちを抑えられなくなったのか」
「はい、シアンの言う通り…確かにモニカさんのように素晴らしい人格者がいることは認めます。ですが、私は過去に迫害されてお兄様を殺されかけたこともあって、無能力者を許すことは出来ません」
拳を握り締めるテーラにソウは彼女の頭に手を置いて口を開いた。
「別に許さなくても良いだろう」
「え?」
予想外の言葉にテーラは目を見開いてソウを見上げる。
「お前が憎いと思うなら憎めばいい。その憎しみは、気持ちはお前の物だ。憎む資格は充分ある…それなのに何故それを他人にとやかく言われなければならない?それにお前の境遇は理解出来る。俺も基本的に無能力者は憎いからな」
そう言って頭を撫でるソウ。
「ありがとうございます…」
「別に礼を言われることでもない…このペンダントは嬉しかった…ありがとう…」
不器用な礼にテーラは微笑みを浮かべたのであった。
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