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蒼と紅の雷霆

作者:setuna
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蒼紅:第八話 幻夜

 
前書き
断っておきますが、私はアキュラは嫌いではないです。

ただオリ主のコンセプトと言うか、キャラ的こういう辛辣対応になります。

彼として登場するあのキャラも今回は変化しています。 

 
ソウとGVが立ち去った後、2人の後ろ姿を見つめる影があった。

影は、皇神の能力者の爆発跡から何かの破片を拾い上げる。

「“宝剣”の破片サンプル。これで3個目か」

宝剣…皇神の能力者が自らの能力因子を封じ込め、制御するための触媒。

体内に能力因子を宿す通常の能力者とは異なり、皇神の能力者は一度、宝剣に体内の能力因子を移植することで、ある種のリミッターをかけ、暴走の危険性を抑えることで皇神により社会的立場を約束されている。

「有事の際のみ鞘抜くことを許された封印の剣…下らん玩具だ。いくら力を御そうとも、奴らが人に仇なす悪鬼羅刹であることに変わりはない…皇神も、能力者(化け物)も、神に代わり俺が裁きを下す…人間である、この俺が…」

そしてある日の夜更け、シアンも眠りに就き、GVもソウも就寝する為に寝巻きに着替えようとしたその時だった。

突如フェザーからの緊急入電が舞い込んできた。

『こちらフェザー!GV、ソウ。応答を!』

「モニカさん。こんな夜更けに…どうしたんですか?」

『ごめんなさい…2人共、あなた達に緊急のミッションをお願いしたいの…私達が追っていた皇神の能力者が、その近くに逃げたようなの。ジーノが追っていたんだけど負傷してしまって…』

『すまねぇ…しくじっちまった…』

「ジーノ…!」

ジーノは普段の態度は軽いが、その戦闘技術に関してはフェザーでもトップクラス。

そのジーノが負傷するということは相手はそれほどの強敵だということだ。

「…分かりました。そのミッションを引き受けます」

「全く…しっかりしろ。この馬鹿が、普段から腑抜けているからそうなるんだ」

『返す言葉もないぜ…でも奴は強ぇ…気を付けてくれ』

「ああ…ジーノはゆっくり休んでいて」

「…むにゃ…GV…お兄さんも…また出かけるの?」

シアンが眠そうに目を擦りながら顔を出す。

どうやら起こしてしまったようだ。

「確かこの近くに皇神の能力者が逃げ込んだんだったな…GV、お前はここに残れ。万が一、皇神の能力者にこの場所が知られたらシアンが危険だからな」

ソウはシアンの身の安全の為にGVに残るように言うと、GVは少し迷いながらも頷いた。

「分かったよ兄さん…気をつけて…」

「気をつけてねお兄さん…」

「ああ…」

隠れ家を飛び出していくソウ。

そんな兄の後ろ姿を見つめるが、しかしGVはあることに気付いた。

「あれ?シアン、テーラはどうしたの?」

シアンと同じ部屋で寝ているはずのテーラの姿が見当たらない。

「え?GVも知らないの?私が起きた時にはテーラちゃんはもういなかったよ?」

まさか、自分の所属している組織への報告だろうか?

こんな時にタイミングが悪いとGVは思ったが、シアンを残して捜しに行くわけにはいかないのでソウとテーラの無事をシアンと共に祈るしかない。

そして飛び出したソウが辿り着いた場所は歓楽街であった。

『突然の頼みでごめんなさい…あなたに頼みたいのはその近くの歓楽街に逃げこんだターゲットの捜索…ターゲットは、あのジーノを負傷させた強力な能力者よ。くれぐれも気をつけてね…ターゲットの名前はパンテーラ。能力者狩り部隊を率いる部隊長…私達との戦闘から逃れて、どうもその辺りのビルの屋上を転々としているようね…パンテーラの指揮する部隊も動き出しているわ。くれぐれも気をつけて』

「あの馬鹿を負傷させる程の相手か…」

性格は合わないが、ソウはジーノの実力だけは認めているのでジーノを負傷させるような相手に警戒心を強める。

そしてビルの上を飛び移っていく。

『その高さから落ちれば、いくらあなたでも無事では済まないわ。落ちないように気をつけて』

「何のための雷撃鱗のホバリングとマッハダッシュだ」

マッハダッシュとホバリングを駆使して安全に移動していくソウ。

歓楽街。

眠らない不夜の街…深夜にも関わらず、ネオンに照らされた街並みは、夜の闇の深さを感じさせない。

ビルの上からでも、この街の喧騒は伝わってくる。

皇神は…一般人がごく普通に生活していても武装部隊を展開するのはいくらでも、揉み消せる自信があるからだろうか…。

「皇神の連中らしいと言えばらしいがな」

しばらく進むと爆撃マシンの姿が見える。

『皇神の自律型爆撃マシンね…爆撃は雷撃鱗を張っていれば防げるわ。EPエネルギーの残量には充分に気をつけてね』

「そんなことは言われなくても分かっている。アシモフから嫌と言う程に聞かされているからな」

『えっ!?あの…別に、真似とかじゃないのよ…?ただ、…あの…あの人は私の憧れだから…その…し…自然と似ちゃうというか…何と言うか…』

「アシモフの名前くらいで何を慌てているんだ。自分の仕事に集中しろ、お前もあの馬鹿に偉そうに言えないだろうが」

『う…っ…か、返す言葉もないわ…』

ソウの言葉に呻くモニカ。

立ちはだかる皇神兵とロボットを返り討ちにしながら先に進んでいくソウだが、そう言えばまだ能力者の詳細を聞いていなかったとモニカを尋ねる。

「おいシープス3。ターゲットはどんな能力者だ?」

『かなりの実力者よ…詳細は分からないんだけど…幻惑系の能力を使うようね。性別は不明…』

「はあ?」

モニカの言葉を理解出来なかったソウは珍しく間の抜けた声を出す。

『それが…男だったり女だったりその日によって違うんだとか…恐らくそれも、幻惑の一部なんだとは思うけど…』

「…皇神の能力者にまともな奴はいないのか……」

ダッシュジャンプからの紅き雷霆のホバリングによる長時間滞空によってワイヤー装置に気を配らずとも進むことが出来る。

『流石ソウね、そのままゲートモノリスを破壊して次のエリアへ向かって』

「…………」

ゲートモノリスにショット連射を浴びせ、最後に雷撃刃での斬撃で破壊し、そのまま次のエリアに向かう。

そして次のエリアに入るとモニカから通信が入る。

『諜報班より入電…!ソウ、その近くにターゲットがいるみたい!』

「ようやくか」

駆け抜けると、そこには既に変身現象を起こしている女性の姿があった。

「あらあら…何て綺麗な子かしら…」

うっとりするようにソウを見つめる女性の姿にソウは妙な既視感を覚えた。

「お前が…パンテーラ…なのか…?」

「まあ…嬉しいわぁ、少年。私のこの美しき名前を知っていてくれたなんて…」

「…おい、お前…何処かで会ったか?皇神の能力者に知り合いはいないはずなんだがな…」

ソウの言葉にパンテーラは今までの作ったような表情ではなく自然に作られた綺麗な微笑みを浮かべる。

その微笑みに何故かテーラの微笑みが重なる。

「(テーラ…?)」

「さあ、どうかしら?それよりも始めましょう?私とあなたの愛の逃避行を!!ソウ…私を捕まえてご覧なさい?捕まえられたら…私の全身の愛をあなたに捧げてあげるわ」

そう言うとパンテーラは色っぽくウインクするとこの場を去っていく。

「お、おい!待て!!」

『ソ、ソウ…追い掛けない方が良いんじゃないかしら?少し危険な気が…』

「待てと言っているだろう!!」

モニカの制止を聞かずにパンテーラを追い掛けるソウ。

『ちょ、ちょっとソウ!?』

パンテーラはギリギリでソウが追い付かないくらいの速度でソウから逃げていた。

「さあ、こっちよソウ…私を捕まえてみて?」

手を此方に差し伸べるパンテーラをソウは腕を伸ばしてその手を掴む。

すると世界が反転した。

「これは…!?パンテーラの能力…これはまさかテーラと同じ…」

『ソウ!!後ろよ!!』

「隙あり」

後ろからソウを抱き締めてくるパンテーラ。

抱き締められているソウは体が思った通りに動かないことに驚愕する。

「体が思い通りに動かないのが不思議?これが私の能力…私の幻覚は神経にも作用するのよ」

そしてソウの頬に触れるパンテーラ。

「ソウ…あなたは本当に綺麗…」

そして幻覚が終わると、パンテーラは再び逃亡する。

「…何を考えているんだ…?」

取り敢えず見失うわけにもいかないためにパンテーラを追い掛ける。

「ふふふ…」

再び世界が反転し、ソウは何処から出てくるのかと周囲を見渡すと、すぐ横にパンテーラが現れて頬にキスを残して去っていく。

『え!?』

「…………」

「まだまだ逃避行は終わらないわ。愛し合いましょう、ソウ?お互いに…骨の髄まで」

幻覚が解けてはパンテーラを追い掛け、再び幻覚に惑わされると言うループを繰り返していく。

途中で宝石を回収するとパンテーラを追い掛ける。

『ねえ、ソウ…パンテーラのあなたへの接触が段々と過激になってきた気がするんだけど…』

ソウを見つめる表情と目には熱がこもっており、抱き締める腕に力が入っていくなどモニカはソウの身を本気で心配している。

「……………」

ソウは何も言えない。

パンテーラを見る度に妙なモヤモヤした感情が渦巻いている。

そして再び幻覚によって世界が反転すると、パンテーラが真正面から現れてソウを押し倒した。

「うぐっ!?」

パンテーラがソウの頭の下に腕を敷いてくれたから地面に頭をぶつけずに済んだ。

馬乗りにされ、組み敷かれたソウは身動き出来ずにパンテーラに見つめられる。

これは流石に不味いとモニカは危機感を抱き始めた。

「ソウ…本当に…綺麗…あなたの流れる銀髪…そして透き通った白い肌…そして宝石を思わせる紅い瞳…私は…あなたが…欲しい…」

そしてソウの頬に自分の唇で触れ、唇を離すと触れた唇を舐める。

『な…ななな…何してるのあなたは!?あなたは私と同じくらいの年齢でしょう!?年下のソウにそ、そんなはしたないことをするなんて…は、恥を知りなさい!!』

「あらぁ?その割には興奮してない?それに愛に年齢は関係ないわよ?」

『こ、こいつーーーっ…!!』

「そろそろ時間ね…さあ、ソウ…あそこで待っているわ…あなたと私の愛の巣で…ね」

そう言って去っていくパンテーラにソウは無言でゲートモノリスを見つめる。

『ソウ!パンテーラの所に行っては駄目よ!あなたの身が危険よ!!』

「そう言うわけにはいかない…あいつを放ってはおけない…何だ…?パンテーラを見てからのこの違和感は…?嫌な物ではないのは確かだが…」

ゲートモノリスを破壊すると奥に進むと、幻覚が解除された。

この謎の感情が分かることを願って、ソウは足を進めていくが、モニカからの通信が入る。

『…ソウ……班……と……り………テー………が………い……』

通信にノイズが混ざり始めて、ソウは表情を顰める。

「ジャミングか…」

「キャアアアアアッ!!」

「この悲鳴…パンテーラか!?」

急いで悲鳴のした方に向かうと、パンテーラがソウに背を預けるように力なく倒れた。

「お、おい…」

「あら…ソウ…ふふふ、少し…残念だわ…もう少し…あなたと…触れ愛…たかった…」

「召されよ能力者(化け物)…神の御許へ、貴様の能力因子(DNA)サンプル、有効に使わせてもらう…」

パンテーラの体が光となって目の前の少年の盾に吸収された。

「…何者だ…貴様は…?」

動揺を押し殺しながら目の前の甲冑(アーマー)を纏っている少年を睨むソウ。

少年もまた憎悪に満ちた目でソウを見つめる。

「紅き雷霆・ソウか」

「フェザーの新人…と言うわけでも無さそうだな。まあ、味方ではないのならこの場で即座に始末するだけだがな」

「…それはこちらの台詞だ。皇神も、フェザーも、能力者共は全て俺の敵だ。無論、貴様もな…紅き雷霆。贖え、罪を…」

「罪…?その発言からして無能力者のようだが…笑わせるな無能力者(屑)が」

互いに冷たい表情で銃を向け合う2人の少年。

どちらも瞳に嫌悪と憎悪を宿らせ、そして同時に引き金を引いた。

「消えろ…!!」

「滅べ…!!」

どちらも殺意を乗せ、ソウの銃からは雷撃ショットが放たれ、少年の銃からは特殊な製法で鍛造された銃弾が放たれた。

2つのショットは相殺されてしまう。

「何?」

まさか金属性の銃弾で自身の雷撃を通常弾とは言え相殺されるとは思わなかったソウが表情を顰めるが、少年の方もこの結果に表情を顰める。

「チッ、雷撃の通常弾でさえこのベオウルフでも相殺させるのがやっとか…いや、相手が蒼き雷霆の派生である紅き雷霆であることを考えれば上々か…」

「ふん、あまり調子に乗るなよ!!」

今度はチャージショットを放って少年を狙うが、少年は横に飛んでそれを回避すると盾を展開して構える。

「穿て…アロガントファング!!」

盾から見覚えのあるレーザーを発射してきた。

「これは…!!あいつの…」

ジャンプでレーザーをかわすと時間差でビットを出現させる。

「まだだ!!」

これまた見覚えのあるビットが発射され、ソウは雷撃鱗でそれを弾く。

「そいつはイオタとか言う奴の第七波動か?何故、無能力者の貴様が使える?」

「貴様ら兄弟が倒した能力者の宝剣の能力因子サンプルを解析したことで奴らの第七波動を擬似再現した物だ。この力で罪深き貴様らを討滅する」

「(つまり、GVが倒したデイトナとか言う能力者とストラトスの第七波動を再現した武器も使える可能性がある…か…)罪と言ったな?俺達能力者が罪と言うのはどういうことだ無能力者?」

他の疑似第七波動に注意を払いながらソウはショットを放っていく。

「知れたこと…人の世に蔓延る、人ならざる者。人外魔境、悪鬼羅刹…第七波動能力者…貴様らの存在そのものが人の世に対する冒涜であり、罪だ…。神に代わり、俺が裁きを下す。能力者(化け物)共は、俺が根絶やしにしてくれる。忌々しき能力者(化け物)の力を使ってでも…な」

「ふん…何を言い出すかと思えば神だと?笑わせるな無能力者。こんな腐り切った世界に神などいるわけないだろう。本当に神がいるのならとうの昔にこんな腐り切った世界は終わっている」

鼻で笑うとショットを連射していくが、少年も盾で防いで攻撃のチャンスを待つ。

「信心すら持たぬ…噂通りの害獣だな。焼き払え…ブレイジングバリスタ!!」

通常ではあり得ない異様な挙動をする矢が空気を爆ぜながら直進してくる。

「遅いな」

ジャンプしてからマッハダッシュでの超加速で少年の真上を通り過ぎて背後を取るとチャージセイバーを叩き込む。

「ぐあっ!?」

チャージによって威力が強化された斬撃が少年のアーマーの背部を斬り裂く。

そしてそのままショットを連射して追加でダメージを与えていく。

「この程度では俺は殺れないぞ?無能力者。俺達能力者が害獣だと?なら貴様らは無能力者は害虫だ。弱い癖に数だけは多く、鬱陶しい存在には似合いだ」

仰け反る少年に迷うことなく更にショットの雷撃を浴びせていき、絶え間ない連射に少年は盾で防ぎながらも後退していく。

「迸れ!紅き雷霆よ!!愚かな無能力者、貴様の傲慢を俺の紅き雷刃で叩き斬る!消え失せろ!!」

チャージセイバーを繰り出して少年を盾ごと仕留めようとするが、少年は体を捻って斬撃を受け流すと盾を展開してストラトスの疑似第七波動を放った。

「ほざけ…断罪するのはこの俺だ。紅き雷霆…!そして消えるのも能力者(化け物)である貴様だ…!!喰らい尽くせ!ミリオンイーター!!」

羽虫状のエネルギー体が放出される。

恐らく性質はオリジナルと変化していないはず。

雷撃鱗で弾くが、それが相手の狙いだった。

「喰らえ!!」

盾を構えた状態でのタックル。

雷撃鱗展開中はカゲロウが発動しないことは調べられていたのだろう。

「チッ!!」

回避が間に合わないなら受け止めるしかない。

紅き雷霆による身体能力の強化によって腕力は大幅に向上し、少年の出力に物を言わせたタックルすら受け止めてみせた。

しかし、流石に無事とはいかずにいくらか後退して盾を受け止めた片腕が痺れる。

だが、これなら当てられる。

「これで終わりだ!!迸れ、紅き雷霆よ!閃くは破滅の雷光!紅雷の刃よ、敵を斬り裂け!!ギガヴォルトセイバーーーーッ!!!」

至近距離でSPスキルの雷刃波を放ち、盾ごと少年を真っ二つにしようとするが、少年は咄嗟に後退して斬撃と雷刃波をギリギリでかわした。

しかし、肝心の主武装である盾が大きく破損してしまう。

「くっ…これ以上の戦闘は不可能か…だが、貴様のスペックは把握した。データとしては充分だ…一時離脱させてもらう。」

「貴様は何者だ?」

少年に対しての興味を殆ど失っていたソウだが、気紛れに聞いてみた。

「アキュラ…刻んでおけ…貴様ら能力者(バケモノ)共を神に代わって断罪する…“人間”の名を」

それだけ言うとアキュラは姿を消した。

「…ああ、覚えておくとしよう。虫酸の走る無能力者としてな」

蔑むように言いながらソウもこの場を離脱したのであった。 
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