この素晴らしい世界に文明の鉄槌を! -PUNISHMENT BY SHOVEL ON THIS WONDERFUL WORLD!-
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十一丁
「この世界は、魔王軍のせいで人が死ぬ。それもたくさん」
「人って死んだらどうなると思う?」
「実はな、神様に会ってこの後の事を話し合うんだよ」
「記憶を捨てて同じ世界に転生するか。それとも記憶はそのままに肉体を捨てて天国へ行くか」
「そうやって世界は魂の数を一定に保っている。どんな世界でも」
「でもこの世界の住人は、魔王軍を嫌って天国に行っちまう。
そうしたら魂の数が減ってしまうんだ」
「だから神々は、別の世界で死んだ人間にチート能力を与えてこの世界に移民させることにした」
「女将さんのお祖父様がどんなチートを願ったかは知らないから予想だが、たぶんお祖父様は自分が向こうの世界で使っていた装備一式を持ってきたんだろう」
「さぁおまちかねの異世界の話だ」
「その世界には魔法が存在しなかった。魔力がそもそも無いのか、それとも昔はあったが消えたのか、それともそれとも誰もが持ってても扱う技術が失われたのかはわからない」
「魔法が無い世界。それでも人は必死に生きようとした」
「幸いその世界にはモンスターは居なかった。エルフもドワーフもワービーストも居なかった。人間は動物との生存競争だけしていれば良かった」
「魔法が無い世界で、治癒魔法もテレポートもテレパシーも爆裂系魔法もティンダーですら無い世界で、人は知恵を絞って己と種を護っていた」
「棍棒よりも石斧を、石斧よりも青銅の剣を、青銅の剣より鋼の剣を。
剣よりも槍を、槍よりも礫を、礫よりも弓矢を」
「布の服より革の鎧を、革の鎧より木の鎧を、木の鎧より青銅の鎧を、青銅の鎧より鋼の鎧を」
「ここまでは、きっとどんな世界でも同じだろう。この世界でも魔法が体系化されず、個人のワンオフアビリティだった時代の話さ」
「その後、異世界の人間は気が遠くなるようなトライアンドエラーで人間に出来ることと出来ないこと、道具の可能性、自然の摂理を解き明かし始めた」
「凍るとは何か? なぜ物は落ちるのか? 星々の動きの法則は? 炎って何? 毒って何? 人間って何で出来てるの? 世界の構成素材って何? 生とは? 死とは? この世の始まりは?」
「そんなバカみたいなトライアンドエラーの果てに、異世界の人間はこの世界よりも遥かに多くの知恵と技術を手に入れた」
「治癒魔法の代わりに人の手足すら絡繰で再現した。薬が発展し異世界では殆どの病気は治せるようになった」
「テレポートはできなくても、馬より速く走る車を、サメよりも速い船を、隼より速く飛べる道具を作った。
終いには海の底の深淵や月まで行った」
「テレパシーの代わりに世界の果てと果てでも話せる道具を開発した」
「ティンダーの代わりに一瞬で火を起こせる道具も作った」
「爆裂魔法系の代わりに爆発する薬を作った。さらには国一つを丸々一つ吹き飛ばした上に猛毒を撒き散らす道具を作った」
「そうそう、あとは時間を正確に記録する装置や数億…いやほぼ無限に等しい本を閉じ込めた手のひらサイズの板、幾億桁もの計算を一瞬で終わらせる機械なんてのも開発された」
「太陽を再現しようとしてたがそれはむりだったらしい。
まぁ、星々の世界を見れる装置なら有ったがな」
「そんな便利な道具が溢れ、その世界はこの世界よりも遥かに発展し、遥かに高い生活水準を実現していた」
「が、そんな技術は人間に牙を向く事もあった」
「鉱山の鉱毒はこの世界にもあるが、異世界では鉱山採掘も大規模だった。
だから多くの人が死んだ。
急激な発展の中、水銀やクロムといった鉱毒と同じような物が大量に発生し、多くの人が苦しんだ」
「人間は土地や資源を求めて森を切り開き山を崩し川をせき止め海を埋めた」
「結果、多くの動植物が絶滅した」
「大きくなりすぎた国同士の戦争ではさっきの銃という道具が使われた」
「銃だけじゃない。像より大きい車に人よりも長くて大きい銃を積んだ戦車。
音よりも速く飛んで爆弾を落としたりする戦闘機。
踏んだら爆発する地雷。
そして、国をも吹き飛ばす核爆弾」
「核爆弾の毒はじわじわと体を蝕み、ある日突然死ぬ人もいた。
地雷は撒いた側も把握しきれず今でも無関係の人が踏んで死んでいる」
「技術の発展で人は死ににくくなった。でも殺すための技術だって向上した」
「やがては仕事の内容すらも変わっていった。
複雑化し過ぎた社会では、己の仕事がどう作用するかもわからなくなった。
挙げ句の果てに、仕事や人生に意味を見いだせず自殺するものも居た」
「他者との繋がりは希薄になっていった」
「なのに他者を貶める方法は洗練されていった」
「便利な道具は、正しい方向にも間違った方向にも効果を発揮した」
「あの世界は便利だった。でも冷たかった」
「この世界は不便だ。でも暖かい」
「リーアが居てフェイベルが居て、めぐみんが居てゆんゆんが居てこめっこが居る」
「だから、俺はこの世界が好きだ」
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