世界に痛みを(嘘) ー修正中ー
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シャンドラの|灯《ひ》をともせ
前書き
クリケットの声優さん、ナルトのうちはマダラも演じてるやん
そりゃ、大物感溢れるキャラだと感じるわ
神の地全土を太陽の光が照らし出す。
既に夜は過ぎ、朝日が昇り始め、陽光が一人の男を照らしていた。
「よもや私ですら想定していなかったぞ」
今、空島の神である神・エネルが突如、ルフィ達の前に現れていた。
「まさか、あのノーランドの子孫が遠路はるばる我が空島へ来ているとはな」
シチューの鍋を放り投げ、エネルは笑う。
実に愉しげに、エネルは狂気の笑みをその顔に張り付けている。
「紹介が遅れたな、私は神・エネル」
「神だ」
エネルは黄金の"のの様棒"を回し、ただ一人、クリケットを見据える。
「神、だと……?」
「然り。ノーランドの子孫、名はクリケットだったかな?」
両腕を大袈裟に広げ、エネルはクリケットを歓迎するかのような姿勢を見せた。
「数奇な時期に空島観光に来ている青海人の存在を知り、下界の様子を探ってみれば……」
「まさか、その中にあのノーランドの子孫がいるではないか!」
独特的な笑い声と共に自称神と豪語するエネルは高笑いし、のの様棒を手元で巧みに回す。
「神とは、大きく出たな」
そんな中、アキトはエネルに臆することなく対面し、睨み付ける。
アキトはエネルがこの場に現れた瞬間から眼前の男が自身とは全く異なる価値観を持ち、対立を避けられない存在であると肌で感じとっていた。
「ヤハハ、そう睨むな。青海の戦士よ」
アキトの視線を軽く受け流し、エネルはまるで面白いモノを見つけたと言わんばかりに、口元の笑みを深める。
「確か、名はアキトといったか?」
「聴いていたぞ、貴様とシュラの戦いを。お前達の戦闘は実に退屈しのぎには丁度良いものだった」
エネルはかつての部下をまるでゲームの駒の様に話し、アキトの実力を賞賛する。
"聴いていた"という言葉からアキトはエネルが見聞色の覇気遣いであるという自身の推測が正しかったことを確信する。
「エネル、貴様がこの場に現れた目的は何だ!」
一向に本題を切り出さないエネルに業を煮やしたガン・フォールが声を荒げ、睨み付ける。
「貴様に用はないのだがな、ガン・フォール……」
水を差されたと言わんばかりにエネルは不機嫌な様子で頭をかき、貝より"玉雲"を取り出し、その雲の上に飛び乗った。
「さて、どこから話したものか……」
エネルは頬を掻き、ルフィ達を見下ろす形で自身の計画の全容を語り出していく。
「先ずは、私が追い求める"夢の世界"、限りない大地について説明しよう」
エネル曰く、エネルの故郷である空島・"ビルカ"には"神"が還る場所がある。
神が存在し、見渡す限りの果てしない大地こそが限りない大地であると言われている。
神の地などという矮小な大地を奪い合うなど、滑稽の一言に尽きる、エネルはそう豪語した。
「そう、私の目的は"還幸"だ」
それがエネルの最終目的、神が存在する場所である限りない大地への到達に他ならない。
「……400年の因縁、シャンドラの灯、黄金の大鐘楼、まったく貴様ら人間はいつも些末事に執着する」
先程、クリケットに対して歓迎の意を表していたエネルが呆れ果てた様子で深く嘆息し、説き伏せる様に言葉を紡いでいく。
この瞬間、神であるエネルは黄金の大鐘楼だけでなく、クリケット達を取り巻く事情まで熟知していることをルフィ達は知った。
「だが、喜べ」
「私がその矮小な呪縛から貴様を解放してやろう」
誰もがエネルの真意を理解することが出来ず、神の言葉に耳を傾ける。
「神には神の、人には人の、地には地の摂理というものが存在する、そうは思わんか?」
そこでエネルは終始、無視を続けていたガン・フォールに向き直り、底冷えのする笑みを浮かべた。
その笑みからは狂気が見え隠れし、ナミとビビは眼前のエネルの存在そのものに恐怖せざるを得ない。
「まさか、貴様……」
「その顔を見るに私の考えをある程度理解したようだな、元神ガン・フォール」
知られざるガン・フォールの素性の暴露にその場の誰もが瞠目し、当人を見る。
ガン・フォールは憎々し気にエネルを睨んでおり、その様子からエネルの言葉が真実であることを示していた。
「そもそも、これまでの人間共の価値観が間違っていたのだ!!」
エネルは両腕を大きく広げ、天を見上げ、声を張り上げる。
「人であるにも関わらず何故、空に生きる?」
「何故、雲でもないのに空に生まれる?」
「青海に存在すべき島が何故、空に存在する?」
「何故、自然の摂理に反する空島という存在に誰一人として疑問を抱かない?」
エネルは眼下のルフィ達を見据え、衝撃的な言葉を口にした。
「そうだ!私が神として自然の摂理に従い、この空島そのものを本来あるべき姿に戻してやると言っているのだ!!」
空島に生きとし生ける全ての存在を空より引きずり落とす、エネルはそう言っている。
「ああ、そう、貴様のかつての部下である神兵だが、これまでの献身を讃え、奴らに私の真の目的を伝えたのだ。だが、奴らは血相を変えて私に敵意を向けてきたのでな……」
エネルは心底可笑しいと言わんばかりに腹を抱え、笑う。
「手始めに滅ぼしてやった」
「彼らの帰りを待つ家族がいるのだぞ……」
それがどうした、と言わんばかりにエネルは嘲笑を続け、ガン・フォールを見下ろす。
この瞬間、エネルという存在の危険性及び思想の凶悪性をルフィ達は理解した。
「既に時は満ちているのだ」
「黄金の大鐘楼など私にとって通過点に過ぎん。私の真の目的は更にその先にある」
エネルの真の目的は限りない大地であり、黄金の大鐘楼など前座に過ぎない。
「そこで、だ。サトリとシュラを撃破した貴様らの戦績を讃え、私と共に限りない大地へ旅立つことを許そう」
「話のスケールがでか過ぎるわ。本当に限りない大地へ辿り着くことが可能なの?」
ロビンが当然の疑問をエネルへと投げ掛ける。
「言ったはずだ。時は満ちた、と」
エネルは人差し指を顔の前に掲げ、遠方の彼方を見据えた。
突如、空島全土が崩壊するかの如く揺れが生じ、大地がひび割れる。
神の地から鳥達が飛び立ち、生きとし生ける全ての生物が逃げ去っていく。
「箱舟"マクシム"」
「この舟で限りない大地へ到達する」
その名を"デスピア"、絶望という名のこの世界の救世主
箱舟"マクシム"は空を浮遊し、雷雲を空へと放つ。
その身に膨大なエネルギーを内包し、激しい気流を含んだ雷雲は瞬く間に白々海の上空を覆い、スカイプア全土を闇と共に支配していく。
「大人しく私の計画に賛同しろ。そうでなければ、貴様らの辿る道は死に他ならない」
エネルの語りが終わり、辺りに静寂が訪れる。
この場の誰もがエネルの凶行とも言っても過言ではない計画に驚きを隠せなかった。
「返答を聞こう、青海人。貴様らの返事は?」
『断る』
ルフィ達が口をそろえ、エネルの提案を一蹴する。
ルフィ達にエネルの常軌を逸した計画に賛同する理由など当然、あるはずもなかった。
「そうか、ならば死ぬがいい」
その言葉を皮切りにエネルの右手の掌に莫大なまでのエネルギーが集束し、眩いまでの光を解き放つ。
提案を一蹴した時点でエネルにとってルフィ達の存在は路上の砂利に等しく、滅ぼすべき存在と化していた。
脆弱な人間では到底、御し切ることなど不可能なエネルギー、これぞ正しく神の力
これこそが空島全土を支配し、神として君臨し続けてきた力に他ならない。
その身から雷が迸り、右腕そのものが雷のエネルギーへと変換されていく。
エネルはその莫大なエネルギーを秘める雷の本流を巨大化させ、ルフィ達へと射出した。
「神の裁き」
蒼色の輝きが周囲一帯を支配し、波動砲に等しいエネルギーが大地を抉り、大気を振動させる。
大地が爆ぜ、抉れ、神の地そのものが一瞬で消滅した。
大地から爆炎と爆煙が天へと立ち昇り、幾本もの木々が壊れ、木片が飛び散っていく。
瞬く間に、見渡す限りの大地が一直線に抉れ、剝き出しの大地が現れた。
エネルは満足気な笑みを浮かべ、雷と化してその場から姿を消すのであった。
▽▲▽▲
故郷である神の地を取り戻すべくシャンディアの戦士達が空の雲を駆け抜ける。
戦士の一人、ワイパーを先頭にシャンディアの戦士達はエネルの撃破を目的に神の地へと辿り着く。
そして、彼らが神の地へと足を踏み入れた瞬間、幾本もの雷が天より落とされ、シャンディアの戦士達の姿が消えるのであった。
ルフィ達を排除し、箱舟マクシムの下へと帰還したエネルは心綱を遣い、空島全土の様子を探る。
雷の体を利用することで電波を読み取り、空島に生きとし生ける全ての生き物の声を聞き取っていた。
「ヤハハ、シャンディアの連中が遂に来たか」
玉座に座り、エネルはワイパー達の来訪を歓迎する。
「だが、少しばかり遅かったな」
しかし、既にエネルの関心はワイパー達から消えている。
自ら勧誘に出向いた青海人と決別した今、エネルがシャンディアの連中を待つ意味もなかった。
「沈め」
右腕を掲げ、天へと雷を飛ばす。
途端、雷鳴が轟き、膨大なまでのエネルギーが今まさに神の地へと到着していたシャンディアの戦士達を襲った。
唯一、ワイパーだけが神の裁きの裁きから逃れることに成功したことに気付いていたが、エネルにとって最初からワイパーなど敵ではない。
故に、エネルはワイパーを敢えて見逃し、次なる目的地へ向かうべく姿を消した。
神の地に煙が立ち昇る。
エネルが放った神の裁きにより森林は焼かれ、大地は抉れていた。
その中から、五体満足のルフィ達の姿が現れる。
見れば周囲がドーム状の不可視の力で包み込まれ、エネルが放った莫大なエネルギーの本流を防いでいた。
依然として空中にて放電する雷は弾かれ、大気が爆ぜたかのように一瞬で周囲の煙が吹き飛ばされる。
全滅すると確信していたガン・フォール及びピエールは瞠目し、荒れ果てた森林を見渡す。
周囲一帯の大地は無残にも抉れ、焦土と化していた。
「……」
エネルの正面に佇んでいたアキトは己の左掌を見詰めている。
漸く力が戻った
ドラム王国で負担が激しいあの力を使用して以降、出力が大幅に落ち、全力の能力の行使が制限されてきた。
しかし、それも漸く終わり、本来の力を発揮することが出来る。
「た、助かったわ、アキト」
ナミは安堵から大きく息を吐き、アキトに脱力する形でもたれ掛ける。
「あれだけの規模の雷のエネルギーを使うことを考えると、恐らく彼はゴロゴロの実の能力者ね」
そんな中、ロビンは冷静にエネルの能力は自然系でも頂点に位置する雷の力であろうと推測していた。
突如、この場に出現したのも雷の速度による高速移動であろうとロビンは分析する。
ロビンから焦っている様子は見られず、最初からアキトがエネルの力を無効化することが出来ると確信していたかのようだ。
そんなロビンの無言の信頼とも呼ぶべき態度にアキトはどこかこそばゆい気持ちを感じる。
だが、今はエネルの対処が先だ。
アキトは私情を捨て、エネルの能力について分析し、ロビンと同じ結論に至る。
どのような力にも弱点となる穴が必ず存在するものだ。
アキトはゴロゴロの実の能力の弱点を模索する。
正直なところ、ゴロゴロの実とジカジカの実の能力の相性は決して悪くない。
しかし、ジカジカの実がゴロゴロの実の能力の天敵となり得る力ではないことも事実だ。
覇気の熟練度もロギアの能力者を撃退するレベルにまで習得している状況ではない今、ゴロゴロの実と対となる能力が必要だ。
「そうなると船長さんのゴムゴムの実が有効ではないかしら?」
アキトと同じ結論に至ったロビンがルフィを見据える。
「船長さん、あの神・エネルの相手を頼めないかしら」
「おう、任せな!」
気合十分な声でルフィはロビンの頼みを意気揚々と承諾した。
しかし、絶縁体のゴムは雷を完全に遮断するわけではなく、あくまで雷を通しにくい性質を持つに過ぎない。
悪魔の実にその法則が成り立つのかは不明であるが、助言しておくに越したことはない。
ゴムの能力を過信しないようにアキトはルフィに忠告し、森林の奥を見据える。
アキトが森林の奥を見据えたのと同時に、森の奥から5名のスカイピア神兵が現れ、ルフィ達を取り囲んだ。
「そこまでだ、青海人共!」
その長き耳朶を揺らし、神兵達はルフィ達を睨み付ける。
「神よりお前達には手出しはしないように忠告されていたが、お前達を改めて危険分子だと判断した」
「故に、お前達、青海人共は我々が排除する」
神兵がそれぞれの掌に仕込んだ貝を構え、ルフィ達へと牙を向く。
意気揚々と撃退しようとしていたルフィとゾロを手で制し、アキトが前へ進み出た。
少しばかり試したいことがある。
人がいる方が絵になるだろう、と考え、アキトは神兵5名を迎え撃った。
アキトは両手を左右に素早く伸ばし、引力の力により神兵2名を強制的に引き寄せる。
その力はドラム王国以降、弱体化していた力とは一線を画すものであり、抵抗も許すこともなく、2名の神兵を骨が軋むと錯覚させる程の力で引き寄せた。
アキトは即座に周囲を一瞥し、宙へと軽く跳躍し、背をのけぞる形で引き寄せられた神兵の側頭部を蹴り抜ける。
続けて、宙を蹴り、残党である神兵2名の手首をへし折ることで貝を無力化し、顎に掌底を叩き込むことで意識を刈り取っていく。
最後に、未だに仲間達が一瞬で無力化された状況に理解が追い付いていない最後の神兵の懐に一足で近付き、純粋な身体能力による掌底を叩き込んだ。
アキトは為す術無く地面と平行して吹き飛ぶ神兵の背中へと回り込み、両手を地に付け、上空へと蹴り飛ばす。
上空にて体勢を立て直したアキトは神兵の背中から生える羽を掴み、受け身を取る時間すら与えることなく、既に意識が朦朧としていた神兵を高速回転の状態で眼下の地面へと叩き付けた。
その神兵は頭から地面に突き刺さり、大地はその威力に亀裂を生み出している。
「ナイスぅー、アキト」
「スカッとする一発だったな」
ルフィとゾロが軽快な笑みを浮かべながら、アキトとハイタッチを交わす。
アキトもノリノリな様子でそれに応えた後、神兵達から貝を根こそぎ奪い取った。
「いや、何もそこまでしなくても……」
「とても頼もしいけど、流石に敵に同情しちゃうわ……」
「そうですか?私はアキトさんのスタンスが正しいと思いますが……」
「私もそう思うわ」
神兵達の惨状にナミとウソップが涙を禁じ得ない様子で口元を手で覆う。
ビビとロビンの2人だけはアキトを否定せず、共感の意を示している。
「青海人のあの男性、とても容赦ないのである」
ガン・フォールとピエールは戦慄した様子で身震いし、アキトに対して少しばかりの恐怖を感じていた。
「先ずは、この邪魔な彼らを片付けるわね」
「ロビンは相変わらず達観してんなぁ」
ロビンが神兵達を地面から咲かした手でこの場から転がし、片付ける様子をウソップは涙ながらに見詰める。
「頼もしいじゃぁないか、ガン・フォール殿」
「ノーランドの子孫殿……」
呆然とするガン・フォールにクリケットが笑いながら話しかけ、背中を叩く。
ピエールはマシラとショウジョウの2人が宥めていた。
「よし、それじゃあ、野郎共。この島がかつてのジャヤであったことが分かった以上、俺達がすべきことは分かるな?」
そんな混沌とした雰囲気の中、ルフィが仲間達へと問い掛ける。
「俺達は黄金の鐘を追い求め、空島へと辿り着いた」
「ひし形のおっさん達の夢が間違いではないことを証明するためにだ」
黄金郷は空にあったのだと証明するために突き上げる海流を乗り越え、クリケット達と共に遂に空島へと辿り着いた。
「それがもう目前にまで迫っている」
ルフィはアラバスタに乗り込んだ時と同じく左腕を突き出す。
アキト達も同じくそれぞれの左腕を前へと突き出し、ルフィの左手へと重ねた。
「俺はあの雷野郎を潰す」
「俺達の中で一番機動力があるアキトは遺跡を探索するロビンの力添えを頼む」
ルフィは船長として仲間達に空島での役割を分担していく。
機動力だけでなく、防御力に秀でたアキトの手助けがあれば、ロビンの遺跡探索もスムーズに進むと考えてのルフィの判断だ。
「ナミとビビの2人もアキトと一緒に行動し、黄金の探索に当たってくれ」
非戦闘員であるナミとビビの両名もアキトとの行動が決まる。
ナミとビビの2人はルフィの役割分担に歓喜し、密かにガッツポーズを取っていた。
「ゾロとサンジは俺と一緒に行動してほしい」
「「了解、船長」」
戦闘員であるゾロとサンジはルフィと共にエネル及び残りの神官の打倒に動き出す。
「それじゃあ、俺達もアキトの兄ちゃんと共に行動することにするぞ、マシラ、ショウジョウ」
「「御意」」
「吾輩とピエールは民達の避難に取り掛かるのである」
ガン・フォールは先代の神の最後の務めとして島の住民達をエネルの脅威から救うべく、別行動をとることを決意する。
彼の相棒であるピエールは頼もし気に鳴き、何時でも出発出来るように羽を羽ばたかせていた。
チョッパーはもしもの場合を考え、ガン・フォールと共に空島の民達の救助に当たる。
ウソップはチョッパーの援護を名乗り出ていた。
「エネルが空島を落とすまで時間は余りない。勝負は一瞬だ」
「だが、勝つぞ!!」
船長であるルフィの言葉にアキト達が首肯し、それぞれが自身の役割を全うするべく行動を開始する。
エネルが空島を滅ぼすまでに幾ばくかの猶予もなく、刻一刻とタイムリミットが迫っていた。
▽▲▽▲
神の地をワイパーがただ一人駆け抜ける
シャンディアの戦士はワイパー以外、既に全滅していた。
クソ、エネルめ……!
途中で倒れた者を見捨て、仲間を踏み越え、ワイパーは雲の道を突き進む。
それは一瞬の出来事であった。
シャンディアの戦士・カマキリが雷に打たれ、その身を焼かれた。
二丁の銃の使い手であるブラハムが空からの落雷に倒れた。
鉄製のバズーカの使い手、ゲンボウが墜落した。
シャンディアの戦士達に天より降り注ぐ雷が直撃し、為す術無く次々と倒れ伏していった。
大戦士カルガラは言った。
"シャンドラの灯をともせ"
大戦士カルガラが遺した唯一の無念を今こそ、果たす。
黄金の大鐘楼を鳴らし、シャンドラの灯をともすのだ。
故に、エネル、お前が邪魔だ
我らが宿願を阻む者は何人であろうと排除する。
ワイパーはいつ何時、誰が現れようと即座に排除出来るように風貝にガスを貯め、迎撃の用意を行う。
「見つけたぞ、ワイパー!神・エネルの命に従い、貴様を……」
「邪魔だ!!」
ワイパーの前方に神兵長ヤマがその巨体を揺らしながら、現れる。
しかし、ワイパーはヤマの前口上に耳を傾けることもなく、燃焼砲の業火を放った。
吹き出すガスに乗り、青白い炎が現れ、ヤマの巨体を炎上させる。
燃焼砲の炎は背後の大木を貫き、大地に大穴を開けた。
行く手を阻んだヤマは燃焼砲の炎に焼かれ、煙を上げながら、無様にその巨体を大地へと墜落させていく。
ワイパーは仕留めたヤマに見向きもせず、エネルの下へと向かう。
「あんな雑魚に時間を浪費してる場合じゃねェ。少しでも体力を残して……?」
先を急ぐワイパーの視界に奇妙な光景が映る。
それは途方も無い巨体を誇る大蛇が不自然に動きを止め、涙を流している光景であった。
「……」
そのただならぬ光景にワイパーは大蛇を凝視し、進行方向でもあるため大蛇の下へと進む。
雲の道を突き進み、大蛇の下へと辿り着いたワイパーは周囲を見渡した。
依然としてその場から大蛇が動くことはない。
見れば大蛇の眼下には青海人と思われる数人の人間が佇み、大蛇は一人の青海人へと視線を注いでいた。
その男は逞しい上半身を外気に晒し、栗を頭に乗せ、煙草を口にくわえている。
青海人と大蛇のいざこざか、と思い、足早にその場から立ち去ろうとするワイパーであったが、何故か眼下の光景から目が離せなかった。
その青海人の男に謎のシンパシーを感じるワイパーであったが、足を止めることはない。
やがて、頭上のワイパーの存在に気付き、その青海人の男が此方を見上げてきた。
その青海人の男と一瞬、視線が交錯するも、ワイパーはエネル打倒を目指し、雲の道を突き進んでいくのであった。
後書き
神兵長ヤマさんはよく燃えるねェ!
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