ある晴れた日に
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58部分:穏やかな夜にはその七
穏やかな夜にはその七
「バーモントカレーとかククレカレーとかにしようとも思ったんだがな」
「止めたの」
「ああ、流石に止めた」
そういうことらしい。
「カレーの王子様でよかったんだがそのままなのもどうかって思ってな」
「それでカレーの王様なのね」
「ああ。ハヤシライスの歌もあるぜ」
これは如何にもといった流れであった。カレーとくれば次に来るのはハヤシライスだ。どうしてもカレーの方が圧倒的にメジャーであるがそれでもハヤシは欠かせない。
「そっちは何よ」
「ハヤシライスの女王様とでもいうのかよ」
「やっぱりわかるか」
ずばり指摘されても悪びれた顔は見せない。
「その通りさ」
「センスねえなあ、おい」
「ハヤシライスの王女様のもじりね」
「女王様っていうと随分と危ない感じだけれど」
「何ならそれも聴くか?」
カレーの王様を曲だけ奏でながら皆に問う。曲自体は明るい、何処かインドを思わせるそのタイトルに相応しい曲であった。
「今すぐにやるけれどな」
「別にそれはいいわよ」
「ハヤシの時にしてくれよ」
「そうか」
「ところであんた」
明日夢が正道に尋ねてきた。
「ハヤシライス好きなの」
「ああ」
「それでそういう曲作ったのね」
「カレーもハヤシも大好きだ」
こう断言さえしてみせた。
「どちらもいいだろ?」
「まあね。カレーはカレー、ハヤシはハヤシでね」
明日夢も正道の今の言葉に頷く。
「いいのは確かね。うちのお店でも両方人気あるし」
「スタープラチナでもそうなのか」
佐々は今の明日夢の言葉に興味深そうに反応してきた。
「成程な。そっちでもか」
「そっちでもってことはあんたのところでも?」
「ああ。ハヤシも人気ある」
彼もこのことを言う。
「それも結構以上にな」
「美味しいからね、あれ」
「ただな。ハヤシは具が限られてるからな」
しかしここで困った顔にもなる佐々だった。
「薄くスライスした牛肉と玉葱とマッシュルームしかないからな、あれは」
「他に何を入れるのよ」
静華が目をいぶかしめさせて突込みを入れた。
「猪のハヤシとかいう冗談は止めてよけ」
「豚もな。どうもな」
猪を強引に豚ということにする佐々だった。
「ハヤシには合わないからな」
「そうなのよね。カレーと違ってね」
「少年もわかるよな。あれの難しさ」
「ええ、そこが難点なのよね」
「全くだぜ」
「カレーは結局何でもありなのよ」
明日夢もそういう意味では佐々と同志であった。
「楽っていえば楽よね」
「御前のところもカレーには五月蝿いんだな」
「カラオケの人気メニューだからね」
「だからか」
「食べ物が美味しいにこしたことはないから」
まさにその通りである。伊達にカラオケショップの娘ではなかった。
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