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【完結】Fate/stay night -錬鉄の絆-

作者:炎の剣製
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第008話 3日目・2月02日『志郎と凛のそれぞれ(後編)』

 
前書き
更新します。 

 
翌日、朝一で志郎はセイバーに剣の稽古をしてもらっていた。
今日は土曜日だが学校はあるから朝一からやっていて30分くらいだろう。
今まで稽古相手といえば表向きは藤村大河でそれ以外は一人でもくもくと鍛錬と研鑽を積むくらいだったからだ。
竹刀を構えて志郎はセイバーに向けて切嗣に教わった暗殺武術や技法などを練り混ぜながらあらゆる角度から打ち込みに行った。
だが、

「甘い」

ペシッ! とセイバーに竹刀で頭を叩かれて志郎は痛そうに頭をさすっていた。
志郎はやはり小細工はあらゆる戦場を駆けてきたセイバーには効かないと深く痛感した。

「シロ、動きは中々のものでしたね。
身体強化の魔術は使わないところ最初はただ打ち合うだけかと思っていたのですが、まさか打ち込むと同時に平行して足技や自身の体格を利用して私の懐に潜り込んでくるとは思っていませんでした。
ですがその動きは正当なものではありませんね? 見た限りではちらほらと独特の動きも含まれていましたしね」
「いたた……うん、お父さんが死ぬ前までに知りうる知識と戦闘技術はあらかた叩き込まれたの。
銃器の技術や相手をどう自分の有利な状況に持っていくかとかのあらゆる戦略…後、かじった程度だけど交渉術も教わったかな?」

普通にそんな物騒なことを語る志郎にセイバーは少しばかり戦慄を覚えた。
そして性格の表裏がまったく分からなかったキリツグとは違い、純粋にそれを行えるだろう技術を持つ志郎がどれだけとんでもない存在なのかと思い、同時にこんな純粋な志郎に聖杯戦争の下準備とはいえそんなものまで文字通り“叩き込んだ”と言うキリツグに一種の怒りを覚えていた。

(確かに私のキリツグに対しての誤解は解けましたが…恨みますよ、キリツグ?)



その後、何度か打ち合って汗も掻いたので志郎はお風呂に入った後に朝食の準備を開始した。
そしてこれから来るであろう衛宮家の日常風景の象徴である間桐桜と藤村大河の二人にどうやって話を通すか話し合っていた。
服装に関しては、セイバーは白のブラウスに青いジャンパースカートを着ていて清楚なイメージを持っていた。
それとは対照的にキャスターはあまり目立ちたくないのか、やや地味目に正装に似た上下紫の服装を着ていた。それでもやっぱり綺麗なものは綺麗なんだけど。
これで問題はない。
次にどうして二人がこの家にやってきたのかというと、お父さんの知人で頼ってきたのはいいけれど当のお父さんはもうこの世にいないので路頭に迷っていたので私が当分この家にいていいですよ、という話に落ち着いたと説明する予定。
最後に名前だけどこれがやっぱり一番悩んだ。
クラス名をそのまま名乗るわけにもいかず、セイバーは『アーサー』とは別にアルトリアという真の名があるから誤魔化しは効くが…。
キャスターに関してはメディアと名乗ればそのまま真名に直結してしまうから。
私が悩んでいるとキャスターが話しかけてきた。

「志郎様、私のことも考えてくださるのは嬉しいのですが私の正体は明かさない方がいいと思います。
少しばかりお聞きしましたが志郎様のご学友である間桐桜という少女はもしかしたらマスターの一人かもしれないのでしょう?」
「う、うん…まだ断定はできていないけど桜は魔術の才能を持っているから確率は五分五分といった感じ…」
「でしたら、尚更私は姿を見せない方が得策だと思います。セイバーだけ姿を見せておけば私が志郎様のサーヴァントだという線はないと相手は思うかもしれませんから」
「なるほど。今現在シロのサーヴァントは私達二人だという事実はイリヤスフィール以外知らないはず…確かにそれは名案だ、キャスター」
「でも…」

私はどうにも納得が出来ないでいたがキャスターの意見ももっともなのでそれ以上は言葉を摘むんだ。
そこで私のことを気遣ってくれたのかキャスターは笑みを浮かべて、

「大丈夫ですよ、志郎様。私は今の現状だけで十分幸せなのですから…ですから顔を上げてください」
「うん…でも食事は作り置きしておくからちゃんと食べてね?」
「はい。ありがとうございます。それではセイバー、表での志郎様のことは任せましたよ。私は裏方に徹しますから」
「お任せを。シロは必ず守ります」
「それでは私は気づかれないように自室で礼装の作成や町の探索作業を行っています」

キャスターはそれを告げると自室に入っていった。

「…キャスター」
「シロ、心配要りませんよ。キャスターは心の底から笑顔を浮かべていましたから…」
「うん、セイバー……理由がもう一つできたね。キャスターが表に出られるようになるように聖杯戦争、勝ちにいこうね」
「はい。もとよりそのつもりです。ではそろそろ居間に向かいましょう。お話の二人が来られる頃でしょう」

それから私は桜と藤ねえにセイバーのことを紹介した。
当然クラス名ではなく『アルトリア』として。
理由を話した後に藤ねえがわなわなと震えていたのが怖かったけど小声で「女性同士なら大丈夫かな?」と言って少し渋ったが泊める事を了承してくれた。
桜も特に異論はないらしく普通にセイバーに話しかけていたことから大丈夫だろうと思った。
それで朝食も済ませた後、セイバーだけ(キャスターもだけど)家に残して学校に向かった。
セイバーは後から追ってくるということなのでどこかで待機しているのだろう。
魔力殺しの礼装も装備しているからアサシンのサーヴァント以外ならそうそう気づかれないと思う。




──Interlude


遠坂凛は朝一から少し頭を悩ませていた。
まず学校に張られていたお粗末ながらも殺傷性は抜群な結界。
アーチャーがいうにはこれは魔術ではないらしい。
これから導き出される答えは“宝具”。
そしてこんなものを張れるであろうサーヴァントは“キャスター”。
だがキャスターのサーヴァントを名乗るものがこのようなものを展開させるわけもない。
よってキャスターの線は低くなり他のサーヴァントに絞り込まれる。
そして“ランサー”との戦闘。
次いで正体不明のサーヴァントとそのマスターが学園関係者かもという疑念。
しかもそのサーヴァントはランサーとまともに打ち合えたことからしておそらく最優のサーヴァント“セイバー”。
そのマスターもランサーが気に入ったと言うのだからおそらく優秀な魔術師。
最後に自身の使い魔を潰したアインツベルンのマスターとサーヴァント“バーサーカー”。
たった一日で一気に出現したサーヴァント達。
自身のサーヴァント“アーチャー”を加えれば分かっているだけですでに五体。
しかもそのどのサーヴァントも強力な力を秘めていることは確かなこと。
アインツベルンのマスターである“イリヤスフィール・フォン・アインツベルン”と名乗る少女はセイバーとそのマスターを殺しにいくといった。
だが、アーチャーに調べさせたところ交差点がなにか台風にあったかのように破壊されていて魔力の跡も残っていたと言うが、死体は見られないことからしてどちらも生き残ったことは確か。
綺礼がすぐに手を回して交差点を修復したというが、どれだけ激しい戦闘があったかのかと思うと眩暈すらする。
いくつかまるで押し潰したような跡もあったというからおそらくバーサーカーのあの巨大な剣によってできたものだろう。
…まだ情報が少なすぎるわね。真名はまだランサーしかわかっていないし。
そこで一度私は思考を停止させてクリアにする。
そして待機していたのかちょうどいいタイミングでアーチャーがポットとカップを持ってやってきたのでありがたく紅茶をいただく事にした。

「それで、凛。これからどうするのだね?」
「んー…そうね。まだ情報が少なすぎるからまずは学校に張られている結界から調べていくしかないかな?
それと衛宮志郎とも接触を試みようと思う。もしかしたら当たりかもしれないから…」
「そうか…」

するとまたキレのない返事がアーチャーから返ってくる。
一体どうしたというのか? 衛宮志郎とセイバーという単語が出るたびに反応する彼はなにかを知っているのか?
失った記憶が蘇りつつあるならそれはそれでよし。
それから私は身支度を整えてアーチャーを霊体化させて家を出た。
聖杯戦争中とはいえ学校にいかなければ怪しまれるのは必然。
そのこともアーチャーは渋々承知したので無言で私の後ろに着いてきている。



そのとうのアーチャーはあまりに自身の体験した聖杯戦争と違いがあることに表面上は鉄仮面を被って隠しているが内面は動揺していた。
新都でのガス災害が起きていないことからしてキャスターは違うものなのかという疑問。
確かに行方不明者は何名かいるがその数は少数にとどまっている。
学校の結界とランサーの登場は予想していた通りの事象だったが、あそこでは途中で介入者が入りそいつはランサーに一度殺されるはず。
そしてこの時点でセイバーはまだ召喚されていなかったはずだというのにランサーは逃がしたという。
最後にやはり重要なのは衛宮志郎という少女だ。
おそらくこの世界では■■はあの志郎という少女を助けたのだろう。
そして彼女は衛宮の名を継いでいるのだから、私と同じく巻き込まれる形でこの戦争に参加するはずだ。
だが、まだ正体は分からない。
まだ私のマスターである遠坂凛が協力者ではないのだからバーサーカーをセイバーと二人だけでいなす事は困難な筈なのに生き残ったという。
彼女は私とは違いまっとうな魔術師の道を進んでいるのか?
ますます訳が分からなくなってくる。
とりあえず現時点でわかることは、

(もう私の記録は当てにはならないということだな。厄介極まりないな…)

アーチャーは思考することを止めて凛に気づかれないようにため息をついた。



Interlude out──



私は学校につくなりやはり張られている結界に思わず吐き気を催した。
でもそれは一瞬だけですぐにいつもどおりに登校した。
だが視線を感じて目だけでその視線の先を追ってみるとそこには遠坂さんが立っていた。
…おそらく令呪の確認をしたいのかな?
でも今、私の令呪はキャスターのおかげでパワーアップした隠蔽魔術でキャスター級の魔術師以外は見えないようになっているから多分大丈夫。
感知もされないというから大丈夫、大丈夫。
だから冷静にいこう。不自然な行動をとった時点で怪しまれるのは明確。

「遠坂さん、お早うございます。今日も早いんですね」
「おはよう衛宮さん。ええ、少しばかり昨日は早く寝てしまって今日は早起きしてしまったのよ」
「そうなんですか」
「ええ。っと、それより衛宮さん、あなたもどこか疲れているようですからこれをあげるわ」

遠坂さんは私の左の手にアメをくれた。
そこでやはり令呪の確認をしたかったのだろうと確信する。

「え? アメ…ですか?」
「そ。暇な時に舐めてちょうだい。少しは気分がよくなると思うから」
「ありがとうございます。でも、なんで私に…?」
「気にしないで。日ごろからお世話になっているからそのお礼と思ってください」
「そうですか。それじゃ素直に受け取っておきます」
「ええ。それじゃ…」

遠坂さんはそれだけいってその場を立ち去って校舎の中に入っていった。
するとすぐに後ろから誰かが抱き付いてきた。
何事かと思って抱きついてきた人物を見ると相手は弓道着を着た美綴綾子だった。

「綾子、いきなりなに…? 驚いちゃったよ」
「いや、なに。お前も遠坂からアメを貰っていたからなんだったんだろうと思ってね」
「お前もって…他に誰か貰ったの?」
「ああ。間桐の奴がもらっていたね。当然妹の方な」
「そうなんだ」
「それより志郎ってもしかして遠坂の本性に気づいている口…?」
「本性…?」
「あ、志郎はまだ知らないか。これは失言だったな。ま、気にしないでいいよ。でも気をつけたほうがいいよ。アイツが本性見せる時は容赦ないから」
「ふ~ん? わかったわ、綾子。それより朝練はいいの?」
「あ、そうだった。もうすぐ予鈴もなるからあたしは戻らせてもらうよ」
「うん、頑張ってね」
「あいよ!」

綾子はとてもいい笑顔をしながら弓道場に戻っていった。
でも、時たまふらついている感じがする。
やっぱりこの結界の影響を少なからず受けているのかな?だとしたら急がなきゃ…。
それともしかしたら今日遠坂さんは仕掛けてくるかもしれない。一応下準備もしておこう。




──Interlude


志郎がそんなことを考えている間、先に校舎の中に入っていった凛はアーチャーに意見を聞いていた。

《それで衛宮志郎はどういった具合だった? 私としては白だと思うんだけど…》
《まだわからないな。私も一応ながらも霊体化状態で殺気を当ててみたが反応は見せていなかった》
《そう…アーチャーの殺気にも反応しないならますます白かも》
《いや、逆の発想も考えた方がいい。一般人が殺気を当てられれば鈍いものでも少しはなにかしら反応する筈だが彼女は“まったく”反応しなかったのだぞ?》
《あ…! 確かに、それだと不自然ね》
《そうだろう? これは今日中に正体を明かした方がいい。サーヴァントは連れていなかったが故意に連れていなかったかもしれない…》
《それじゃ仕掛けるとしたら放課後、か…。まだこの結界は発動はしなさそうだし今のうちってね。それじゃ私は放課後までにどう仕掛けるか考えておくからアーチャーは学校の結界の基点を探しておいて》
《了解した》


Interlude out──



こうして志郎と凛の二人のマスターはそれぞれ思惑を巡らせていった。


 
 

 
後書き
…一つ失態をしました。
今更になってアーチャーとランサーが戦ったのは2月2日の夜だったということに気づきましたが、ま、一日の誤差くらいはいっかと開き直りました。

それでは感想をお待ちしております。

 
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