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アリーの殿軍

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第一章

               アリーの殿軍
 アリー=イブン=アビー=ターリブは預言者ムハンマドの年下の従弟である娘婿でもある、禿げあがった頭と広い肩と頑丈な身体を持っている。
 彼はムハンマドの言葉に従い彼の妻ハディージャの次にムスリムとなった。それ以来常に彼と行動を共にしていた。
「そなたは神の獅子だ」
「アッラーのですか」
「そうだ、まさにな」
 ムハンマドはアリーにこう言った。
「私にとっても頼りになる」
「そうした者ですか」
「そうだ、そなたがいるから私は安心出来る」
 ムハンマドはアリーに微笑んで話した。浅黒い肌で毛深く胸まで髭を生やした彼を。
 ムハンマドは当初メッカで布教していたがそれをメッカの者達に嫌われ命を狙われた、それで彼は信者達に言った。
「今はメディナに逃れよう」
「はい、さもないとです」
「預言者も危険です」
「一時あの街に逃れ」
「そして力を蓄えるのですね」
「そのうえでメッカに戻る」
 この街にというのだ。
「いいな、今メディナは二つに分かれているが」
 部族間の抗争が起こってだ、当時のアラビアではよくあったことだ。
「それを仲裁してだ」
「そうしてですね」
「あの街をアッラーの街として」
「そのうえでメッカに戻る」
「そうされるのですね」
「一時この街を後にするだけだ」
 ムハンマドは信者達に確かな声で話した、そしてだった。
 七十人程の信者達を数人ずつに分けてメッカを去らせた、だがムハンマドは自分が最初に行きはしなかった。
 信者達にだ、彼は笑って言った。
「私がここで死ぬことはない」
「アッラーがそう定められている」
「だからですね」
「そうだ、だからだ」
 こう信者達に言うのだった。
「まずはだ」
「我々が、ですか」
「先にメッカを出てですね」
「メディナに向かう」
「そうしていいのですね」
「そうだ、メディナで会おう」
 ムハンマドは自分はアリーと共に残り先に信者達を行かせた。そして自分とアリーだけになった時にアリーに言った。
「ではそなたもだ」
「いえ、ここはわしがです」
 アリーはムハンマドに強い声で答えた。
「引き受けます」
「そうするのか」
「はい、ムハンマド様は先にです」
「メディナに向かえというのか」
「そうして下さい、後のことはわしが全てしておきます」
 こう預言者に言うのだった。
「ですからムハンマド様は」
「そうか、ではな」
「はい、メディナで会いましょう」
 アリーは笑って言った、そしてだった。
 アリーはムハンマドを先に行かせて一人となった。するろ彼はまずはムハンマドの部屋に入って悠然と寝た。
 ムハンマドの命を狙う者達はムハンマドが逃げたと思った、だが。
 ベッドに誰かがいるのを見て笑って言った。
「よし、ムハンマドはいるな」
「うむ、まだメッカにいるな」
「もう逃げたと思っていたが」
「まだメッカにいる」
 ベッドで寝ているのがムハンマドと思ってのことだ。
「ならいい」
「寝込みを襲ってもいいが」
「今は準備が出来ていない」
「明日殺すとしよう」
「よい刀を用意しよう」 
 こう言ってだった。
 彼等は今は手出しをしなかった、だが。 
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