濾過
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第三章
「人間トップになるとだよ」
「その時こそですね」
「身の回りを見られる」
「だからですね」
「身の回りは奇麗にしておかないと」
それこそというのだ。
「足元をすくわれるものだよ」
「では総理もですね」
「今が一番大事ですか」
「用心すべきですか」
「特にお金のことはね」
このことをここで指摘した。
「注意しないとね」
「岸さんがいつも言っておられますね」
「お金は奇麗にしておくべきだと」
「そう言っておられますね」
「そうだよ、本当にお金はね」
これはというのだ。
「注意しないと」
「それこそですね」
「何かあればですね」
「そこを突かれますね」
「そうなりますね」
「そうなるからだよ、何につけてもお金は」
それはというのだ。
「奇麗に。濾過しておかないと駄目なんだよ」
「では、ですね」
「総理もですね」
「お金のことは注意しないといけないですね」
「今こそ」
「田中君は宰相をすべき器だったしだ」
岸は田中の器は認めていた、それで言うのだった。
「宰相になって見事に働いている、資金もある」
「それもかなりですね」
「尽きることがない位ですね」
「かなりの資金がありますね」
「しかしそれが不透明過ぎる」
このことをとかく言う岸だった。
「濾過されていない、本当にこのことを衝かれると」
「あの人にとってまずいことになる」
「そういうことですね」
「そうなるよ」
岸は田中の資金に危惧をこれまで以上に感じていた、そしてこの危惧は的中した。
マスコミが田中の資金について調べそれが大きな汚職事件となった、田中は言うまでもなく失格した。
それでだ、岸は周りに言った。
「残念だが私が言った通りになったね」
「はい、そうなりましたね」
「総理は辞任されましたね」
「裁判になるとも言われています」
「逮捕も」
「首相経験者が逮捕されるか」
岸はこのことを考えて眉を曇らせた。
ページ上へ戻る