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ある晴れた日に

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39部分:噂はそよ風の様にその十六


噂はそよ風の様にその十六

「名ショートだったってな」
「そうだったの」
「ああ。何か凄い昔みたいだけれどな」
「咲の話だとあれなのよ。ホークスのコーチやってた人の名前だからいいのよ」
「それが理由で付き合ってるのか?」
「それとこれとはまた別だけれどね」
 どうにもその辺りの事情が複雑であるらしい。
「それはまたね」
「元々の人間性が好きだってことか?」
「だから。咲は寂しがり屋なのよ」
 このことがどうしてもついて回るのが咲であるらしい。
「いつも側にいてくれるような包容力のある人がね」
「そういう事情があったのか」
「お父さん達もお兄さんも咲を可愛がってるけれどね」
「それでもってやつか」
「そういうことなの。だから色々あるのよ」
「そうだったのか」
 ここまで聞いて完全に納得した顔で頷くようになった正道だった。
「あんな乙女チックなのになったのにも色々あったんだな」
「他の皆もね。奈々瀬にしろ春華にしろ」
 彼女達についても話される。
「静華や凛も。あれでね」
「めいめい事情があるのか」
「事情ない人なんていないじゃない」
 未晴の言葉はその通りだが高校生のそれとは思えない大人びたものがあるのも事実だった。
「私も多分そうかしら」
「そうなんじゃねえの?」
 未晴を見ながら正道は述べた。
「あんただってさ。今の性格になったのはな」
「事情があるのね」
「あるからなるんだよ」
 これが正道の言うことだった。
「誰だってな。俺はそう思うぜ」
「そうなの」
「誰だって同じさ」
 笑ってまた言う正道だった。
「俺だってな」
「音橋君も」
「よく俺変だって言われるだろ」
「それは」
「いや、自分でもよくわかってるさ」
 否定しようとする未晴に笑顔で返す。
「そういうのはな。俺が一番な」
「別に。私は」
「それがいいんだよ」
 今度はこう言う正道だった。
「変っていうかな。個性があって当たり前だからな」
「個性が」
「正直に言うと変って言われると俺もあまりいい気はしないさ」
 流石にこれは否定した。
「けれど個性があるって思えばな。それでいいかなっても思えるさ」
「それでいいの」
「あんたもそうだよ」
 また未晴に声をかけた。
「今の自分が嫌だと思ってないか?そういうのないか?」
「別に。それは」
「あるんならそう考える必要はないさ」
「ないの」
「そうさ、全然な」
 ここでも笑顔になっていた。
「そういうのはないからさ」
「だったら私は」
「あんたはいい個性持ってるよ」
 未晴の個性を認めさえした。
「とてもいいな」
「私が」
「優しくてさ。だからあの連中だって周りにいるんだよ」
「目立たないし。地味なのに」
「俺はそうは思わないけれどな」
 彼はそれは否定した。
「それはな」
「けれど地味なんじゃ?」
「そうは思わないしそれはそれでいいじゃないか」
「ううん」
「わかったらじゃあ」
 彼は最後に言った。
「行こうか。すみれの所にな」
「うん」
 にこりと笑ってそのまま二人で花壇に向かう。二人はそこで楽しく花に水をやり肥料をやっていた。今は静かで楽しい日常を過ごす一同であった。


噂はその風の様に   完


                  2008・9・30
 
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