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戦国異伝供書

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第四十二話 信濃の南その十

「それならばじゃ」
「幾ら堅城でもですな」
「攻め落とさねばならん、その為に時がかかるやも知れぬ」
「そのことも考えて」
「そうじゃ、長尾家とはな」
「長くはですな」
「戦えぬ」
 到底と言うのだった。
「我等はな」
「そうなりますな」
「それでじゃ」
 昌幸は言葉を続けた。
「何とかせねばならぬ」
「長尾家をこそ」
「あの家を敵の中に置けば」
「我等に来ることも少なくなる」
「そうしておいてな」
 そしてというのだ。
「我等は長尾家が戦っている間にな」
「上洛ですか」
「急がねばな、また言うが織田家がじゃ」
「気になりますか」
「織田吉法師殿は傑物」
 このことが間違いないからだというのだ。
「今川殿は苦戦するか」
「悪ければですか」
「負ける、退けられてじゃ」
「織田殿が美濃を手に入れれば」
「我等は行く手を塞がれる」
 上洛のそれをというのだ。
「そうなるからじゃ」
「急いで美濃を手に入れる」
「今川殿が織田殿と戦っている間にな」
「そうそう敗れるとは思えぬにしても」
「今川家は百万石じゃ」
 昌幸は今川家の力もわかっていた、それですぐに答えたのだ。
「兵は二万五千」
「織田家より有利ですな」
「しかも軍師に太原雪斎殿もおられる」
「盤石と言えば盤石ですな」
「確かにな、しかしな」
「やはり織田家は強い」
「まさかとは思うが」
 それでもというのだ。
「今川家が一戦でじゃ」
「その戦で敗れ」
「滅亡するなり大きく力を削がれるなりしてな」
「そのうえで」
「力を失ってな」
「そうしてですか」
「織田家がそこからじゃ」
 今川家に勝ってというのだ。
「大きく力を伸ばしてな」
「我等が進むより先に」
「美濃に入ればな」
「我等は上洛出来ませぬか」
「天下への道を塞がれる」
 そうなってしまうというのだ。
「ただ上洛の道だけでなくな」
「天下統一へのそれも」
「塞がれる」
 武田家が天下人になることもというのだ。
「そうなってしまう」
「そうなることもですか」
「考えられるな」
 これが昌幸の読みだった。
「とかく織田家は強い」
「うつけなどでは到底なく」
「今川殿が侮られるなら」
「その時は」
「危ういかもな」
 こう言うのだった。 
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