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ロックマンX~Vermilion Warrior~

作者:setuna
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第153話:Anger

仲間を失った悲しみにこの場にいる全員が沈黙する中、パレットからの通信が入った。

『ようやく…繋がりました…皆さん…ルナは?』

「ルナは…ルナはアクセルが処分した。アクセルは無事だがダメージを受けている。一度アクセルのメンテナンスのためにハンターベースに帰投する…ルナと一緒にな…」

『ルナ………はい…はい…分か、り…まし、た…っ…ゲイトさんやドクターの手配を…しておきます…アクセル…ありがとう…ルナを救ってくれて…地上に着いたら直ぐに転送しますから。地上に着いたら…通信を入れて下さい』

嗚咽混じりにゼロの言葉に対応した後に、アクセルに友人を救ってくれたことに感謝するパレット。

ハンターベースへ帰還するには、地上のある最下層まで降りなくてはならない。

地上に着いたら直ちに通信を入れるように伝えたパレットは、転送の準備をして待っていると言ってから通信を切った。

アクセルはゆっくりと立ち上がってルナを抱えるとエックス達と共に歩き出して軌道エレベーターで一度地上に戻るのであった。

アクセル達を乗せたエレベーターが、果てなくそびえる建造物を下っていく。

腕を組み壁に背を預けて立つゼロは、微かに漏れる機械音を聞いていた。

「(俺達は結局アクセルをあの時の俺達と同じ目に遭わせただけか)」

やはり止めておけば良かったかもしれない。

そうすればアクセルのみで戦わせることにならず、1人で全てを背負い込む必要など無かっただろうに。

ルナと初めて出会ってからの思い出が走馬灯のようにゼロの脳裏を過ぎていく。

「(また俺は繰り返してしまったのか…)」

エックスはアクセルが抱えているルナに視線を遣りながらアクセルにあの時の自分達のような目に遭わせてしまったと思って悲しげな表情をする。

脳裏に最初のシグマの反乱の戦いで、大破したルインとゼロの姿が過ぎった。

いくら英雄だの何だの言われているが、大切な仲間を守ることも救うことも出来ない。

何時もは元気で勇ましいアクセルの姿がエックスには今だけ小さく見えた。

地上は夜の闇を深めていたが、ハンターベースの中では、真昼のような照明が室内を照らしていた。

イレギュラーの暴動が収束を迎えるにつれて、今度は地上の復興の準備が慌ただしくなる。

破壊されたヤコブ関連施設を復旧させるために、作業用レプリロイドとメカニロイドが、続々とハンターベースから派遣されていき、多数のレプリロイド達が行き交う中、この司令室だけはいやに静まり返っていた。

沈痛そうな表情を浮かべるエックス達、壁に寄り掛かり腕を組むゼロに至っては触れたら両断されそうな険しい顔をしている。

しばらくしてルナの検査結果を手にしてゲイトが指令室に入ってきた。

「みんな、ルナの体の調査をした結果…一度に膨大な量のDNAデータを解析をした…いや、させられた形跡があった。恐らく…いや、確実にこれが彼女のイレギュラー化の原因だろう。」

ゲイトの報告を聞いた全員が疑問符を浮かべた。

「あの、ちょっと待って下さいゲイトさん。ルナは新世代型ですよ?DNAデータの解析くらいでは…」

人間素体型であり、新世代型と言うイレギュラー化とは一番無縁そうなルナがDNAデータの解析くらいでイレギュラー化するとは思えない。

「普通ならね、だけど一度に解析させられたDNAデータの量があまりにも膨大なんだ。いくら彼女が新世代型とは言えレプリロイドだ。当然一度に処理出来るデータ量には限りがある。その処理能力を遥かに超えた量を短時間で何度もされてるんだ。当然キャパシティオーバーだ。これで彼女の心が破壊されたことに納得が行くんだよ」

「ルナ…!!」

「アクセル…」

ゲイトの言葉に拳を握り締めるアクセルの肩にルインが優しく手を置き、誰もが沈痛な表情を浮かべたが、その沈黙をシグナスが破る。

「シグマの居所は衛星ムーンだ。」

シグナスが今やイレギュラーの巣窟と成り果てた人類の移住の地である月をモニターに映しながら言う。

「ヤコブでの戦闘後に確認されたイレギュラーから解析した結果、シグマはゲートウェイを通過し、月に向かったと判明した。月面基地にイレギュラー反応が多数出現している。もう間違いない」

「現在シグマの基地を調査中ですが、電波障害が激しくて詳細は把握出来ていません……」

パレットが説明を続ける最中、唐突にモニターが点滅し始めた。

「通信が割り込みます!!これは!?」

司令室の巨大なモニターにあの忌まわしい“Σ”の刻印が映し出され、水色の光が異常を告げる赤へと変わる。

癌細胞が正常な細胞を侵すようにモニターの画面を変えていくと現れたのは永きに渡る因縁を持つ忌まわしい男、シグマ。

「シグマ!!」

『久しぶり、と言うべきかな?エックス』

何度も自分達を苦しめてきた宿敵。

シグマウィルスの不死性によって何度倒しても蘇り、こうして自分達の前に立ちはだかってくる憎むべきイレギュラー。

怒りを顕わにしてモニターのシグマを睨むエックスに対してシグマはやはり仰々しく口を開いた。

「やはり貴様だったんだなシグマ…よくも…よくもルナを!!」

ルナの心を壊し、死なせる原因を作ったシグマに食ってかかるエックスをシグマは嘲笑う。

『お仲間の追悼の時間を設けてやったのだ…感謝してもらわんとな…お前達にも見せてやりたかったぞ。あの生意気な小娘が度重なる過剰解析による自我の喪失を恐れて、居もしないお前達に助けを必死に求めて泣き喚き、心を壊された惨めな姿をな』

「っ!!」

「貴様ぁ!!」

「あなたって人はっ!!」

「俺を怒らせたことを後悔させてやる…」

歯軋りして拳を握り締めるアクセルと怒りを露にして叫ぶエックスとルイン。

そして凄まじい怒気を纏ったゼロがシグマに負けぬくらい低い声で言った。

『ククク…愚かな。貴様らの世界が崩れ始めているというのに!!』

「世界が…崩れ始めてる?」

『そう、最早地上に未来はない!!貴様達、旧き世界の宇宙開発は今や全て我が物だ!!旧き世界はもうその役目を終えたのだ!!』

「宇宙、だと……?」

ゼロはギリリと唇を噛み締めながら呟いた。

目の前にいるのがモニターに映ったシグマでなければすぐにでも叩き斬っている。

ルナの仇が目の前に映っているというのにそれが出来ないのが腹立たしかった。

「貴様…何を企んでいる!!?」

問い質そうとするエックスに嘲笑を浮かべるシグマ。

『企む?これは自然の摂理だ。進化だよ、エックス。進化した者が生き延び、流れに乗り遅れた者は死に絶える。古から受け継がれる理だよ!!ふはははは!!お前達はルナがどうだと言っているが、役立たずのプロトタイプの命などどうでもいいことだ!!お前達も後を追うことになるのだからな!!私自ら引導を渡してやろう。進化したレプリロイドの王としてな!!』

「シグマ…!あなたはどこまで…!!」

「ふざけないで欲しいね…!!何が王だよ…あんたが…あんたがいたからレッドもルナも…!!」

「お前達、落ち着け!!」

激しい怒りをぶつけるアクセル達を制して、シグナスが淡々たる口調で言うが、それは感情を押し殺した怒りが強く滲む声であった。

彼もまたシグマに苦楽を共にした仲間を奪われたのだ。

その怒りは永きに渡る因縁を持つエックス達には及ばないかもしれない。

しかしそれでもシグナスはモニターに映る全ての元凶を睨み据えた。

「シグマ…私は貴様を進化した者とは断じて認めない。犠牲を払う進化などあってたまるものか。貴様のしていることはただの暴走だ。」

「大体君は最初の反乱からエックス達に負け越してるじゃないか?そんな奴が王を名乗るなんて滑稽の極みだね」

当然ゲイトもルナのことでシグマに怒りを覚えており、シグマを蔑むように言い放つ。

「暴走と進化を履き違えた愚かなイレギュラー…」

「イレギュラーハンターとして、俺はお前を許さない!!」

「あなたとの決着を…今度こそ着ける!!」

「首を洗って待ってなよ!!」

『ふふふふ、はははははは!!!』

高笑いをするシグマの姿がメインモニターから消えた後も全員がモニターを睨んでいたが、次の瞬間に気持ちを切り替える。

「それにしても…ヤコブ計画が最初からシグマに狙われていたなんてね」

「でもそう考えると全ての辻褄が合うわ……宇宙開発が盛んになった背景と新世代型レプリロイドの開発は無関係ではないもの……」

「そこへ来て、新世代型のイレギュラー化、か……いずれにしても、奴をこのまま放っておく訳にもいくまい」

「ええ、さっきの通信で逆探知に成功したわ。発信源はポイントRYH46。最大規模を誇る月面基地。そこにシグマがいるはずよ」

「同時に多数のイレギュラー反応も感知しました。出撃前に装備のチェックをしっかりして下さいね」

「ああ、これで最後だ…シグマ…決着を着ける!!」

「今度こそ終わらせてやる!!永きに渡るシグマとの因縁を!!」

「ハンターチーム出動だよ!!」

決意を胸にエックス達は表情を引き締めた。

エックス達とシグマの永きに渡る因縁も終わりを迎えようとしていた。 
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