ロックマンX~Vermilion Warrior~
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第150話:Prim Rose
反重力研究所であるプリム・ローズに転送されたゼロとアイリスは、一気に通路を駆け抜ける。
プリム・ローズは、重力制御システムを実験する研究施設であり、サイバースペースに似た冷たい部屋に複数の金属質の巨大なブロックが置かれていた。
『ゼロさん、アイリス先輩。聞こえますか?この施設は、スイッチによって重力の向きが切り替わるって言う複雑な仕組みです…。重力が切り替わると、上から何か落ちてくるかもしれないので注意です!!』
「上からか…つまりブロックに押し潰されないように注意しろってわけか…面倒な仕掛けだ」
「まるでパズルみたいね…急ぎましょうゼロ」
ブロックが積まれた部屋の中で、2人はメカニロイドを破壊しながら会話をしている。
「羅刹旋!!」
「雷光閃!!」
空中にいるメカニロイドはゼロがDグレイブに変形させて空中での回転斬りで破壊し、アイリスはサーベルに電撃を纏わせ、高速でメカニロイドを両断した。
本当に強くなったものだとゼロはアイリスの技量を評価する。
確かにアイリスはゼロのデータを基にしてボディを改修、強化をしていたが、元々アイリスは非戦闘型であるにも関わらず、今では自分と肩を並べて戦えるくらいに強くなったことは私情を抜きにしても称賛に値するものだろう。
新世代型レプリロイドとの戦いで、彼女の剣の腕は飛躍的に上がっていた。
「(カーネル…見ているか?お前の妹は本当に強くなったぞ…)」
今は亡き友を想いながらメカニロイドを殲滅すると、ゼロとアイリスはスイッチを発見する。
「これがパレットの言っていた重力を切り替えるスイッチか?」
「恐らく…どうやらスイッチによって、重力の制御システムが違うようね」
アイリスが試しに複数のスイッチを弄ってみると、どうやらスイッチによって重力の制御が異なるようだ。
「つまり、闇雲に弄ったらブロックに押し潰されたり針山に落下すると言うことか。面倒な仕掛けだな」
思わずゼロは顔を顰めた。
彼は性格上、頭を使うミッションはあまり好まない。
戦っている方が遥かに気楽だ。
「そうかしら?パズルみたいで解き甲斐があるわ…こういうことで無ければ楽しめたかもね…ルナも…こういうの好きだったわよね」
「………」
そう、ここにはいない彼女もパズルゲームみたいなミッションも大好きだった。
しばらくブロックの位置に気を配りつつ、スイッチを弄りながら進んでいるとアイリスは唇を噛み締めた。
「どうした?アイリス?」
アイリスの急な変化にゼロは疑問の表情を浮かべ、彼女を見遣る。
「…私は…許せない。こんな戦いを起こして、皆を傷つけたイレギュラーを…そしてシグマを…ゼロやエックス、ルインだけじゃない。エイリアさんやパレット…ルナやアクセルだって…そもそもあの男がいなければレプリフォースも…兄さんも…!!」
普段、怒りの感情を表に出さないアイリスが激しい怒りに体を震えていた。
「(………ルナのイレギュラー化…プロトタイプでも一応ルナも奴らと同じ新世代型だ。だからシグマウィルスによるイレギュラー化はシグマでも不可能なはずだ。なら、どうやって………後輩がイレギュラー化して…また俺達はあの時のことを繰り返すのか…あの時、危険を承知でVAVA達を追い掛けていたら何か変わったんだろうか?)」
海を思わせるアイスブルーの瞳が悔恨に滲む。
感傷が胸に沸き、前方の景色が一瞬遠いものに見えた。
「そうだな…アイリス。だが、焦りは禁物だ。焦りは判断力を低下させる。」
戦場において、過度の感情は逆効果となり、窮地になることもあり得るのだ。
それが長年の戦いの経験で分かっているからこそゼロはアイリスに落ち着くように言う。
「分かっているわ…あくまで、冷静に…冷静さを失って敵う相手ではないことは今までの戦いから分かってる」
「ああ、それでいい…先に進むぞ」
2人はそれぞれの武器を握り締め、反重力研究所の更に奥へと突き進む。
数多くのブロックと針山のトラップを無事に潜り抜け、駆け抜けた先に終着の扉があった。
扉の先の開けた空間には、こちらに背を向けた蟻をモチーフにしたレプリロイドがいた。
一見隙だらけだが、背中から放たれるオーラは迂闊に踏み込めば命がないと思わせる程の恐ろしさを抱かせる物だった。
「この反重力研究所の主任研究員、グラビテイト・アントニオンだな?」
ゼロが殺気を内包した声で問うと、アントニオンは静かに此方に振り返った。
「ようこそ、このステージの終着点へ…歓迎しますよ。古の破壊神・ゼロ」
知性を感じさせる穏やかな声。
反乱が起こる前は新世代型レプリロイドの中でも優れた研究者だったアントニオン。
ゼロはその片鱗を垣間見た気がするが、今は戦いを引き起こした憎むべきイレギュラーの1体であることに変わりはない。
「シグマが貴様を狂わせたのか?」
「狂った…?ふう…究極の破壊者となれる可能性を持ち、あの方と同じ素質を持つあなたがそんなことを口にするなど嘆かわしい…。イレギュラーか否かといったレベルで、あの方を測るのは不可能です…少なくとも、私にはあの方が狂っているとは思えませんでしたよ?」
やはり狂っている。
アントニオンの言葉を聞いたゼロは自然とセイバーを握る手に力を込めた。
「…私達に理解出来ることは、あなた達を止めなければならないと言うこと…シグマは世界に害を為す存在…シグマはあってはならない存在なの」
サーベルを構えてアントニオンの攻撃に反応出来るように身構えた。
「愚かな人だ…あってはならないのは、この世界の方だと考えたことはないのですか?まあいい、我々の邪魔をするというのであれば、排除するまでです!!キューブドロップ!!」
アントニオンが両腕を天に掲げた瞬間、小さな重力球で破片を集めて製錬した真四角のブロックが現れる。
そして製錬した巨大なキューブをゼロとアイリス目掛けて投げつける。
重量のあるそれを物ともせずに投げ飛ばし、ゼロとアイリスの元に勢いよく落下した。
弾ける音が部屋に響き渡り、落下のショックでキューブが砕け散る。
粉々となったキューブの破片の下には何もない。
何とか2人は寸前でキューブを回避していた。
「ふふ…フォーミックアシッド」
動物の蟻がそうであるように、アントニオンは壁をよじ登り、天井に移るのと同時に高い粘着性を持つ緑色の液体を撒いた。
「ゼロ!!」
「しまった…っ!!」
高い粘着性を持つ液体によってゼロの足が取られる。
その液体の粘着性はゼロの力でも脱出出来ない程で、アイリスは即座にゼロの元に駆け付けると、サーベルで液体を斬り裂いて救出した。
「すまんアイリス、助かった」
「ええ」
2人は天井を見上げると、アントニオンが超越者の如きの顔で見下している。
新世代型レプリロイドとして、アントニオンは旧世代のレプリロイドをゴミのように見下ろしていた。
「さっきの威勢はどうしたのです?このままでは私を倒せませんよ」
「貴様…」
「ゼロ」
隣のアイリスの声にふと我に返る。
ゼロの隣では、アイリスが冷静にアントニオンの隙を伺いながらサーベルを構えていた。
彼女はゼロのアドバイスを忠実に守っている。
「すまないアイリス。言った俺が忘れていた。」
伏せ目がちに笑うと怒りと鼓動を落ち着かせる。
アントニオンが地に降り立つのと同時に、両手を天に掲げて意識を集中させる。
「これで終わりです。キューブフォールズ!!」
声高に叫んだ次の瞬間、上空に巨大なキューブが次々に出現した。
「(なる程、これで確実に押し潰すつもりか…)」
落下速度はかなりのものであり、僅かでもタイミングを外せば下敷きになるだろう。
「アイリス、行くぞ!!」
直ぐ様、ゼロはボディに組み込んだチップの力で潜在能力を解放するとアーマーの色が黒に変化し、金色の髪も銀色に変わった。
防御力を犠牲に攻撃力と機動力を強化した新たなブラックゼロの力を解き放つ。
「ええ!!」
全身の感覚を研ぎ澄ませ、キューブを回避していく。
1つずつ確実にキューブを回避していき、キューブの砕け散る音を聞きながら、ゼロとアイリスはアントニオンとの間合いを詰めていく。
落ちてくるキューブの数は10を数えただろう。
地面に叩きつける音と振動が、キューブの重量の恐ろしさを痛感させた。
死が一瞬で到来するものだと、嫌でも思い知らされる。
しかし、これを乗り越えられれば勝てると確信した。
「な…!!?」
回避されていくキューブを見て思わずアントニオンは目を見開いた。
「これで終わりか?やはり性能が高くても戦いに関しては素人だな」
先程の仕返しも兼ねてゼロは余裕の笑みを浮かべながら言い放つ。
「馬鹿な…あれだけのキューブを全て回避したというのか!!?」
スペシャルアタックを放っている間のアントニオンは無防備で両腕を掲げたまま、間合いを詰めてくるゼロとアイリスを見つめるしかない。
「あなた達、新世代型レプリロイドの共通の弱点を教えてあげるわ。自身の性能に自信を持ち、私達を見下しているから隙だらけなのよ!!」
地を、空を疾走する2人は、まるで演舞でも披露するかのように、引き締まった勇姿を見せ付けた。
「行くぜ!!」
2人の力が解放され、セイバーとサーベルが共鳴するかのように光輝き、光刃が巨大化する。
「「ダブルアタック!!」」
ダブルアタックによって出力が強化された2人の剣が哀れなる獲物であるアントニオンに躍りかかる。
重装甲型のレプリロイドやメカニロイドでさえまともに耐えられないであろう斬擊で斬り刻まれたアントニオンの生死を問うまでもないだろう。
「(………愚かなる旧きレプリロイドよ)」
死の気配を感じながら、アントニオンは低く笑った。
声は出ず、従って2人に笑いは届かない。
レプリロイド…人を超える新たなる生命体…進化した者。
アントニオンは優れた生命体…新世代のレプリロイドの1体として、自分より劣る生命体…人間と旧世代のレプリロイドを支えてきた。
それは劣る種への哀れみであり、慈悲であったがその心は愚かな人間がプログラムしたもの。
自分の都合がいいように。
自分はプログラムをされた思考を破った特別な存在で、その特別な者のみが生きる世界を実現するという理想は見る見るうちに自分から遠ざかっていくが、彼に後悔はなかった。
生き残った者達が必ず自分の後を継いでくれる。
「(そして旧き世界が崩壊するのを、恐怖に慄きながら迎えるがいい)」
やがて到来するであろう未来を思いながら壮絶な笑みを浮かべながらアントニオンは爆散した。
「やったな…」
敵の残骸を見下ろしながら、ブラックゼロを解除したゼロが独り言のように呟くと、隣でアイリスも頷く。
残る新世代型レプリロイドのイレギュラーは後1人。
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