艦隊これくしょん~男艦娘 木曾~
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第七十七話
前書き
どうも、節約のため、ノートPCクーラーを百均の商品で自作しました。七百円くらいで中々の冷却性能なので、真似してみてね。
ちなみに、僕はそれを人前では絶対に使いません。
「……本当にやるの?」
数分後、俺たちは二階の北側の廊下を走っていた。何とか五十鈴と合流し、後ろからの追っ手から逃げていた。
「仕方ねぇだろ。このままじゃ何もせずに終わりだからな」
五十鈴の質問に、半ば投げやりに答える俺。正直な話、勝ち筋がほぼほぼ無い。
相手には、広範囲高性能電探である春雨に、切れ者拓海。そして鬼が六人。こっちには、俺含めて五人だが、うち二人は戦力外。
まともな方法で戦っていたら、まず勝てない。
「あと三十分も逃げ切れるとは考えにくい。なら、一気に缶を蹴るしかないだろ」
「そうですけど……後で提督に殺されませんかね」
俺の言葉に、割とガチトーンで質問してくる不知火。まあ確かに、これからやろうとしていることは、自分でも頭おかしいと思っている。
「まあ、訓練中の事故ってことで押し通そう。拓海も、何でもありっつってたしな」
「…………この世界の男に、まともな奴は居ないの?」
「……それじゃあ、そろそろ決行するか」
五十鈴からカミソリ並みに切れ味のいいツッコミを入れられたが、あえてスルーする。俺の知る世界にはまともな奴も沢山いるが、こいつらの知る世界には、まともな奴は一人もいない。
「……分かったわ。それじゃあ、手筈通りに」
「おう!頼むぜ不知火!」
「承知!」
決行のポイントまでやってきた俺達。そこは、先程加古が飛び込んできた、割れた窓ガラスの前だった。
─執務室─
「ふえぇ!?」
突然、驚いたような声を出す春雨。口に運びかけていたお茶を落としそうになったが、何とか取り繕った。
「どうした春雨!」
「ち、千尋さんと五十鈴さんが、加古さんが使ったロープを登ってきています!既に千尋さんは三階に侵入!今、五十鈴さんも入ってきました!」
「……あー、そら使うよね、うん」
挟撃を成功させた時点でほぼ詰みだと思っていた僕は、それ以上の策をあまり練ってはいなかった。結果、阿武隈のイレギュラーが発生して、ここから先はノープラン、と言った所だった。
大輝さんが見てたら説教物の大失敗だったが、まぁ、起こってしまったことは仕方ない。
問題は、これからどうするかである。
「三階の人達を向かわせて。別方向に、ね」
「分かりまし……へうぅ!?」
春雨が再び指示を出そうとした時、再び何かを感じたのか、とんでもない声を出した。
「し、不知火ちゃんが……」
「不知火がどうした?」
確か、後ろから追わせていて、そろそろ前からの挟撃が成功しているはずだ。
「不知火ちゃんが、天井を走ってます!」
だから、春雨がそんなことを言い出した時、僕は理解ができなかった。
「……は?」
「不知火ちゃんが、壁を経由して天井を走って、加古さん達の頭上を通過!三階に上がろうとしています!!」
詳しく説明されても、根本が説明されてないから全く分からなかった。
「……もしかして、不知火もかなり天才チックなのかな……」
人が艦娘になった時、肉体の潜在能力が向上するのだが、その幅はピンからキリまで。木曾のような化け物から、間宮さんのような人まで。
一般的には、冬華クラスから『天才』と呼ばれたりする。
「ど、どうします!?」
「……加古と阿武隈に、ロープを使って四階まで登るよう指示。二階メンバーは急いで各階段の封鎖」
「了解!」
そこまで指示を出したあと、僕は椅子から立ち上がる。
「ちょっと表にいるよ。来てもいいようにね」
春雨にそう告げて、僕は扉の外に出る。
「……気合い入れるよ」
「はいっ!!」
僕らは気合いを入れ直した所で、缶蹴りは後半戦に入った。
─数分前─
追っ手の夕立をまいた私は、その足で医務室の前までやって来ていた。相手は寝ているとのことだが、どうにも緊張してきてしまう。
「……三年ぶり、か」
三年前──私達の前に現れた、前提督。
アイツが、この佐世保鎮守府をズタボロにした。
大和を軟禁し、私達を捨て駒のように……いや、捨て駒として使い、己の私利私欲の為だけにこの鎮守府を使った男。
今は、ほかの提督からの弾圧もあったのか、懲戒免職となったのだが、その後に残ったこのどうしようもない状況。
そこに来たあの四人は、最初に見た時から、私達とは違うと、肌で感じていた。
頭のネジが何本か飛んでそうな夕立。
恐らく『始祖』であろう春雨。
男なのに艦娘にな木曾。
そして、新しい提督──。
「……はっ」
どうにも、私には男二人が信用出来なかった。
人であった頃から艦娘になってまで、男という生き物を信用せずに過ごしてきた人生だった。
人として出会った男も、ここで出会った前提督も、どちらも外道だった。
「そこから逃げるために、ここに来たのにな……まあ、それはどうでもいいか」
私は意を決して、扉を開ける。
「…………大和」
ベッドの上に横たわる、数年前よりやつれて様子の女。
見るもの全てを魅了するような容姿と、完璧なる肉体美。
紛れもない。彼女は──戦艦大和。
呉の『魔神木曾』が現れるまで、『最強』のに文字を欲しいままにしていた、私の師匠、大和だった。
「……久しぶりだな」
穏やかな寝息を立てて眠っている大和の姿を見て、自然と口からその言葉が出ていた。
大和がどこにいるかと言うのは、三年もあれば検討はついていた。
しかし、昼はこき使われ、夜の時間は全員外鍵しかない部屋に閉じ込められるため、救い出すことはできなかった。
さらに言ってしまえば、逆らえば適当な艦娘を殺すとまで宣言しているような提督だ。強硬策も取れなかった。
その後悔が、私だけの力で助けられなかったという後悔が、私の中で渦巻いていた。
「……なぁ、大和」
そこまで言って、言葉が出なくなってしまった。
私は直前まで、この三年間の思いを告げようと考えていた。
後悔も、苦痛も、苦悩も、できる限り伝えようと思っていた。
だけど、出てこない。
どれだけ話そうとしても、何も出てこない。
「ふっ……ぐうっ……くうぅ……」
出てきたのは、同年代の少女と比べても、全く可愛げのない嗚咽だった。
「……すま、ないっ…………ほんとうは、泣きたくなんかっ………!」
歯を食いしばり、腹に力を入れて、必死に涙を堪えようとする。
……しかし、私の涙は、留まることを知らなかった。
「いぎでで……よがっだ……っ、ほんどうにっ……よがっだ……っ!」
その涙を拭うことなく、私は大和の手を握った。
普通より少し低い体温が、少し前まで彼女が過酷な環境に居たということを表していた。
「……すまないっ……なぐのはごれでっ、ざいごだからっ……!」
何も出来なかった私は、ただただそう謝るしかできなかった。
大和の手は、私が握ってから、温かさが戻っていた。
後書き
読んでくれてありがとうございます。さて、この作品も五月十六日で二周年です。何だかんだで沢山の人に見ていただいてるこの作品も、ついに二年です。この場で多くは語りませんが、これからも突き進みたいと思います。
それでは、また次回。
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