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【ユア・ブラッド・マイン】~凍てついた夏の記憶~

作者:海戦型
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その後の顛末

 
前書き
※※※このデータは鉄結管理局第一種禁忌情報に相当します。※※※

※※※権限なく閲覧することは国家防衛情報取扱法に抵触し、※※※

※※※秘密裁判の後に懲役20年~50年の禁固刑に処されます。※※※

※※※    貴方は情報閲覧権限をお持ちですか?    ※※※  

 
 
 鉄結管理局による氷室家調査の結果。

 氷室家の時計は市販の時計にありがちな僅かなずれが一切なく、更に腕時計、置時計、掛け時計など通常の家の10倍近い高精度の時計が大量に置いてあった。

 氷室家の魔鉄チップのデータによると暁家は冷蔵庫やレンジなどの調理家電を寸分の狂いなく毎日同じ日に使用を始めて、同じ時間スパンで終えていた。その他にもお風呂を沸かす時間、冷暖房の使用のタイミング、パソコン等の使用、更には電話を掛けるタイミングも常に毎時00分きっかりに行われていた。

 食材の購入履歴を見ると購入する品とそこから作られる料理は全て栄養学的に理想的な構成になっており、お菓子、デザート等の娯楽的食物が皆無だった。記念日のみ普段よりきっかり5000円だけ豪華になっていた。

 エイジの過去一年間のアルバムは1日1枚写真が加えられており、イベントなどでは3枚、学校イベントは5枚ときっかり決まっており、成長記録というより定期観察のような状態だった。
 行動にとにかく無駄な時間、無駄な出費と言えるものが一切なく、病的なまでに完成された生活を送っていたことが伺える。氷室エイジ当人のデータもそうであった。

 人間の生活リズムとしては健康的観点から見て理想だが、理想すぎて人間的ではない部分が伺える。





 凪原(なぎわら)天馬(てんま)についての調査報告。

 10歳の頃から天掛流道場に通い、天掛朧とはその頃からの付き合いである。ただし凪原天馬の剣術才能は可もなく不可もなく、精強揃いで子供の少ない天掛流道場では目をかけられていなかった節があり、これが凪原自身の才能に対する嫉妬を生んだと思われる。

 和光35年8月、カセドラル迎撃に向かった『戦巫隊』をそれとは知らず、天掛朧が同行している点を気にして追跡し、カセドラルと全滅寸前の戦巫隊に遭遇。その際に朧が取り落とした皇国の国宝「アマノボレシツルギ」を手にしてカセドラルを撃破した。これは偶然の撃破であるとのことだが、天掛家と凪原天馬のつながりはここで生まれたようである。

 なお、アマノボレシツルギの材質は不明であるが、数千年以上劣化が見られないことから魔鉄で出来ていると思われる。伝承では初代天孫が冥質界より持ち込んだ霊金で形作られているとされているが、国宝の調査は禁じられている。



 天掛(あまがけ)(おぼろ)について。

 彼女は戦巫女として今代の「アマノボレシツルギ」の担い手であり、鉄結管理局と同じく天孫直属の者という事になっている。なお、担い手は魔女、非魔女に限られないが、パートナーを望むことは稀有である。
 和光37年8月の騒動で凪原(なぎわら)天馬(てんま)と共に再びアマノボレシツルギを抜刀し、共にカセドラルを撃退した。



永居(ながい)(さとる)について。

 彼は和光35年8月に突如、カセドラルとの極所接続を果たし「接続者」となった。この際に彼は未来を垣間見、そして同月に氷野視櫓山に四柱のカセドラルが降臨するエウリュディケの発生を予知。鉄結管理局は当初この発言を虚言と捉えていたが、星詠みの国より日本に帰化した別の接続者の観測によりこれが事実であることが判明した。
 以降、彼は局に保護を求め、最終的に聖観学園に入学した。

 のちに判明したことによると、彼はこの接続の際、和光37年8月に自らがこの学園で殺害される未来を見て、自分を殺したのは誰で、何故殺され、生き延びるにはどうすればよいかを模索するために情報収集をしていたようである。
 結果として彼の努力が運命に介入したか現在も存命であるが、この件について心に傷を負ったのか多くを語ろうとはしない。



 浜丘(はまおか)永海(なみ)について。

 魔女としては珍しい、性同一性障害者。このため家族との不仲、学校ぐるみの差別などを数度経験しているが、自らの精神的な性について積極的かつ肯定的であり、辛い経験が逆にバネになったと思われる。

 のちの調査で、彼(当人の意志を尊重しそう書かせて貰う)は和光35年8月、家出同然に電車を乗り継ぎ氷野視櫓山に到着。そこで偶然にも記憶を喪失する前の氷室エイジと遭遇し、友好関係を持っている。この後エウリュディケに巻き込まれるが、ここでの危機によって逆に家族の絆を再認識することとなったそうだ。

 当人はこのエイジと同級生のエイジは別人だと主張している。根拠について、人格が余りにもかけ離れている事を指摘しているが、同時に彼との友人関係の構築が早かったことと無関係ではないとも感じていると述べている。



 戌亥(いぬい)八千夜(やちよ)について。

 日本皇国が魔鉄文明を築き上げるまでの不安定な情勢下で辣腕を振るった戌亥(いぬい)浩千(ひろゆき)外交官の一人娘。父の戌亥(いぬい)浩千(ひろゆき)と共に海外へ行った経験も多く、家族仲の良さは有名だった。

 しかし戌亥(いぬい)浩千(ひろゆき)はG.R.U.(旧北アメリカ。現在はグレイト・リパブリック・ユニオンと言い、超国家唯一の民主主義国家である)での外遊中、『リーパーズハイ』と呼ばれる暗殺者に殺害され、その光景を目の前にした戌亥八千夜は精神に変調を来し、長く療養していた。

 なお、療養先は氷野視櫓山の別荘である。和光35年8月のエウリュディケではこの場所を緊急の避難所として観光客たちに提供した。

 のちの取り調べによると、彼女は父から性的行為を強要されていたという。なまじ父が皇国で非常に高い評価を受ける外交官であったために周囲もその情報を封殺されており、孤立状態にあったとのこと。彼女の鉄脈術『アンティオックの美しき獣(アインティオック・プリンセス)』は、この性的暴行の苦痛、抑圧、それでも相手が父故に憎めない苦悩、そしてそれを終わらせた『リーパーズハイ』への羨望と自己嫌悪が形成した術であったと思われる。
 和光37年7月に彼女によって重体を負わされた『リーパーズハイ』は奇跡的に意識を回復しており、鉄結管理局の下に司法取引が進んでいる。彼女の罪科もそう遠くない日に消えるだろう。



 千宮(せんのみや)あざねについて。

 戌亥(いぬい)の陰に千宮(せんのみや)ありと噂された『補佐のプロ』の一族の一人。彼女はメイドとしての力量を求められたらしく、戌亥家にも見習いとして顔を出し、戌亥八千夜とも懇意だったという。しかし性的行為については周囲の隠蔽もあって当人に告げられるまで知らなかったそうだ。

 その頃から彼女は時折ひょうきんな態度を取ったりしながら八千夜を完璧にサポートしていたが、それは近しかったにも関わらず最も辛い時期に何一つ真実に気付けなかったことに対する悔恨があると当人は告げている。

 しかし、戌亥八千夜が一方的に鉄脈術を発動させてリーパーズハイに襲い掛かった際には、魔女の宿命である戦闘力のなさと製鉄師の優位性のせいで止めることも叶わなかったようである。現在は国立病院になかば軟禁状態で入院している八千夜の身の回りの世話をしているが、八千夜との関係は更に深まっているとの報告がある。
 特組の中で唯一彼女たちだけは、和光37年8月の騒動に関して直接的には無関係である。




 古芥子(こがらし)美杏(みあん)美音(みおん)について。

 のちの調査で、彼女の戸籍や経歴は全てが偽装されたものであり、不法入国した全くの別人であることが判明した。更にデータ上では美音が製鉄師となっていたが、これも虚偽であり、実際には美杏を名乗っていた側が製鉄師だったようだ。
 この件については鉄結管理局内の内通者によるものであることが仄めかされているが、容疑者死亡に終わっており、今後の捜査如何では真相は謎の中に消えるだろう。

 彼女たちの行動や目的には謎が多いが、和光37年8月の騒動で「継承者」を名乗るラバルニズム集団が学園に侵入する手引きをしたこと、その前後で数名の人物を殺害していることは判明している。そのため彼女たちも「継承者」の一味であったと推測されているが、当事者が2名とも死亡している現在、その調査は遅々として進まない。

 永居悟の証言によると、美杏は「継承者」に従うことで美音を守れるという強迫観念に駆られて凶行を自ら請け負っており、美音は学園での生活や人間関係を自ら崩さなければいけないことに強い抵抗があったように見られたという。
 最終的に美杏は美音によって背後から魔鉄銃で銃殺され、美音もその後自らの命を絶っている。



 リック・トラヴィスとルーシャ・トラヴィスについて。

 天孫により許可を頂き、データを閲覧し報告書に記載する許可をいただいた。
 リック・トラヴィス――(ルーシャ・トラヴィスも同様にこれも偽名であり、本名は記載されていない)は「継承者」の一員だったが、何らかの理由で組織を離反し、天孫によりスカウトされたという。また、魔女を二人持つ二重契約者であるとのことだが、ルーシャ・トラヴィス以外の誰が契約魔女であるのかは不明。
 また、このデータには奇妙な点がある。データによるとルーシャ・トラヴィスは行方不明になったとされており、これがリック・トラヴィスの別の魔女との契約を促す形になったとある。では、彼と共にいるあのルーシャ・トラヴィスは一体何者なのだろうか。

 これは推測であるが、彼女はルーシャとリックの間に生まれた娘なのではないだろうか。
 魔女は外見年齢が変わらない。以前の二人を知らないのであれば、他人からは夫婦だと誤認させるのは容易なことだ。また、生徒からの報告で「リック先生はルーシャ先生を名前で呼んだことが一度もない」という情報もある。血縁だと推測するには弱いが、二人の関係性を考えれば大人ぶる娘をたしなめる父に思えてしょうがない。
 「継承者」の情報提供者によると、リック・トラヴィスの以前の鉄脈術は「絶対防壁」だったそうだが、現在の能力は「降霊同調・鬼子母神」であり、子供を守るという限定条件でのみ絶大な戦闘能力を発揮する降霊型の鉄脈術なのだそうだ。彼には生徒が、誰よりも愛しい我が子に見えているのだろう。

 現在、二人は有給休暇を取って行方をくらませているが、近日の間に国内外で地形が変形する程の破壊行動が確認されている。二人と無関係ではないだろう。和光37年8月の騒乱では、二人は「継承者」の製鉄師の9割を撃破していることから、「継承者」の「掃除」を実行しているものと推測される。

 個人としては、彼らの持っていたあの契約魔鉄器の出どころも気になる。棺桶のような外装が全て変形機構に組み込まれ、彼の魔鉄器は最終的には巨大な十字架のような形状になった。映像でのデータしかないが、あれはオーパーツとしかいいようがない。どのような過程で制作されたのか気になる所だ。




 暁エデンについて。

 現在、「継承者」が『ラバルナの遺産』と呼ぶ装置が発生させたカセドラルの入り口に吸い込まれて行方不明。接続者の話によると、情報世界に物質界の人間が行くと世界そのものの法則が違うために個の維持が難しく、自我の消失、もしくはまったく別の存在に変生してしまうという。




 氷室エイジについて。

 現在、『ラバルナの遺産』を再起動させて自らカセドラルに飛び込み、行方不明中。彼には暁エデンを取り戻す明確な勝算があったようだが、今となってはそれがなんであるのか確認のしようもない。遺産の再使用に際しては暁夫妻が「これ以上子供を喪えない」と彼と交戦し、無力化という形で敗北している。
 彼はその際、冷気の力は本来暁エデンと契約せずとも行使できる力であり、エデンとの契約で得られた術はそれとはまったく別の存在であることを仄めかした。

 「継承者」はどうやら彼がカセドラル生命体であると睨んでいたようだが、健康診断などの調査では彼は間違いなく純粋に人間である。これについては永居悟が興味深い考察をしていたが、結論から言うと彼は――。





「おい」

「なんだよ、味見屋。この上まだ何かあるのか?」

「時系列の再構成を確認した。これから数分後、再構成時点以降の俺たちの記憶はカセドラル側に放り投げられ、脳の情報はその時点からやり直すことになるだろう。恐らくはこれが氷室少年の『勝算』だ。やれ、クロノスとでも契約したのかね?」

「……つまり、この報告書も無駄になるって訳か」

「まぁ、接続者連中は再構成後もその前の記憶を閲覧できるから困らないがな」

「どーせ再構成後の世界でも、頼まれない限り答えない気だろ」

「当然。そもそも調べようと思わなければ再構成後の世界では気付けない」

「……エデンちゃんとエイジくんは?」

「再構成を成功させたのなら、もう一度まったく同じ道を繰り返すこともなかろうよ」

「そうかい」

「そうだ」

「……ラバルナの遺産、そして予言。これで覆せれば、特組も救われるのかねぇ」

 せめて再構成後はもう少し救いのある世界であってほしいと望みながら、松谷はペンをそっとテーブルに置いた。
  
 

 
後書き
その後の話になりましたが、せっかくなので他ユアブラ参加者でも応用の効きそうなネタをピックアップしつつ、本編の詳細や今後については多く触れない形で書いてみました。今更誰も見てない説が有力ですが、後に続くユアブラ作者さんにひとかけらでもネタを提供できればいいなぁ。

「凍てついた夏の記憶」は二部構成で、再構成後からの二部目で全て明かされ犠牲もなく終わるという話を想定していました。特にカセドラル世界についてはかなり考えていたのですが、これについては恐らく私以外誰も使わない話になるだろうと思ってここには書きませんでした。


原案者の八代明日華さんはこの作品を「殺してしまった」というか、それに近い感覚を覚えている(私の勘違いかもしれませんが)ように感じたのですが、作者側としてはこの作品を考えている間に思いついたアイデアやキャラたちは死んだとは思っていません。
ただ、いつか何かのきっかけで目覚める日を夢見て眠るだけ……創作に無駄な経験なんてないと、私は思っています。
 
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