ある晴れた日に
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21部分:もう飛ぶまいこの蝶々その四
もう飛ぶまいこの蝶々その四
「何時沈むやらな」
「わかったものじゃねえよな」
「俺はそんなに信用ねえのか」
「馬鹿だし未経験者だしよ」
「それで安心できるっていう方が無理だろ」
今度言ったのは坪本と佐々であった。
「まあなったからには仕方がねえ」
「そうですよね先生」
「わかってるじゃない」
実にあっさりと答える先生であった。もう考えは決まっていたのだ。
「そういうことよ。だから音橋君、いいわね」
「わかってますよ。やりますよ」
「さて、これで全部の委員が決まったわね」
江夏先生はこのことを確認して満足した笑みを浮かべた。
「それじゃあ。皆御願いね」
「はい」
何はともあれそれぞれの受け持ちの委員も決まったのだった。皆それぞれ不安を抱えながらもそれに取り掛かることになった。正道も学校の花壇にいた。言うまでもなく未晴も一緒である。彼はここで未晴から色々なことを口で教わっていたのであった。花壇には赤や白の様々な花が咲き誇っている。その花達を前にして話していた。
「じゃあこれで全部なんだな」
「ええ、これで全部よ」
静かに微笑んで正道に答えている。
「全部覚えたわよね」
「ああ」
花を見ながら未晴に答えるのだった。
「何とかな。全部覚えたぜ」
「じゃあこれから宜しく御願いね」
静かに笑って頷く。
「この一年ね」
「ああ、こっちもな」
「何か皆色々言ってるけれど」
「俺はそんなの気にしてないからな」
実際に平気な顔をしていた。
「あの連中の言うことにも慣れたしな」
「春華達はね。ちょっと」
「中学からあんな調子だったんだな」
「ええ、御免なさい」
「あんたが謝る必要ないしな」
未晴からの謝罪はこう返して受けなかった。
「別にな」
「そうなの」
「そうだよ。それに」
「それに?」
「だから気にしていないんだよ」
このことをまた未晴に告げた。
「あの連中がいつもで誰にでもだってのもわかってるしな」
「悪気はないのよ」
「あれで悪気があったらどうしようもないさ」
「口はあんなのだけれど。実際は親切だし友達思いだし」
「友達か」
「ええ」
正道の言葉にいつもの静かな調子で頷く。
「そうよ。私こんな性格だけれど」
「こんな性格?」
「引っ込み思案で。気が弱くて」
実際に弱々しい微笑みを浮かべて少し俯いている。
「けれど。あの娘達がいてくれて」
「有り難いんだな」
「そうなの」
こくりと頷いて答える。
「高校どころかクラスまで一緒で本当に嬉しいの」
「いいよな、そういうのって」
正道も今は微笑んで未晴の言葉に頷いてきた。
「親友ってやつでな」
「親友?」
「だってそうじゃないのか?」
驚いた感じの声になった未晴に対してまた言った。
「親友だろ?そういうのって」
「これが親友だったの」
「じゃあ何だっていうんだよ」
さらに驚いた調子になっている未晴にまたしても言う。
「頼りにしてるんだろ?」
「ええ」
「それで頼りにされてるんだろ?」
「私頼りないけれど。それでも」
実際彼女は咲や春華達に随分頼りにされてきた。お互い助け合ってもきた。このことは他ならぬ彼女が最もよくわかっていることであった。
「何かあれば手伝ってって」
「それで自分も手伝ってもらったりだよな」
「ええ」
「で、あれだろ?」
にこやかに笑ってまた未晴に問うのだった。
「いつも皆で遊んで、だよな」
「少年のところのカラオケ行ったり。プリクラ撮ったり」
高校生の女の子らしい遊びである。
「そんなのだけれど」
「じゃあそれだよ。親友だよ」
「親友ってそうなの」
「先輩に言われたんだ」
ここで自分の先輩を話に出してきた。
「親友ってのはな。難しいものじゃないんだってな」
「難しいものじゃない」
「ああ。心と心が通い合う」
「それだけなのね」
「それで親友同士だって言われたんだよ」
こう未晴に告げた。
「それだけでな。なるんだってな」
「そうだったの」
「意外か?」
「何か。それだけなんて」
戸惑いがまた出て来ていた。その顔が何よりの証拠である。
「嘘みたい」
「嘘じゃないぜ」
その戸惑う未晴に笑って告げる。
「嘘を言う先輩でもないしな」
「そう。それじゃあ」
「幸せだよ、五人もいるよな」
「うん」
今度は素直に頷くことができた。
「咲達。皆が」
「あんな騒がしくて品のない連中だけれど五人もいてくれるじゃないか」
「咲達は下品じゃないわよ」
未晴の今度の言葉は少し咎める感じになっていた。言うまでもなく正道に対して向けたものである。
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