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俺様勇者と武闘家日記

作者:星海月
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第1部
ロマリア~シャンパーニの塔
  危険な盗賊退治(道中にて)

「っかーっ!!! すがすがしい朝だぜ!!」
 翌朝。結局ユウリはあれから一度も私たちの前に姿を見せることはなかった。一方、一人部屋で一晩を過ごしたナギはというと、言葉通りの朝を迎えたようで、これ以上ないほどのさわやかな顔で部屋から出てきた。
「あいつの顔を半日以上見ないことが、こんなにすばらしいものだとは知らなかったぜ」
 ナギは心底感動した様子で言った。よっぽどユウリと一緒の部屋が嫌だったのか。
「でも、ユウリってば、夕べどこで寝たんだろ。宿屋はこの町では一軒しかないし……」
私の言葉に、ナギが興味なさげな顔で答える。
「気にしなくていーんじゃねーの? レベル30の勇者様のことだから、どうせ城のやつらに歓迎されてふかふかのベッドでくつろいでたんだろうよ」
 うーん。全く現実味がないけど、ユウリならありえる気がする。
「さて、朝飯も食ったことだし、さくっと盗賊退治でもするか!」
 ナギの能天気な発言に、思わず私はずっこける。
「いやいや、さくっとって簡単に言うけど、魔物退治とは違うんだよ!? 人間が相手なんだよ?」
「だったら言葉が通じる分魔物より簡単じゃねーか」
 駄目だ……。なんかナギって世間と少しズレてる気がする。
「ねえ、シーラは盗賊退治なんて出来ると思う?」
 私に尋ねられたシーラは、自慢の金髪を特殊な金属の棒のようなもので巻きながらしばし考え込み、
「わかんなーい♪ でも三人でお出掛けするのも楽しそーだよね☆」
 そう屈託のない笑顔で返されたので、なんだか私一人だけ悩んでるのがばかばかしくなってしまった。
 もう乗りかかった船だ、おとなしくこの二人についていこう。ほとんどヤケだけど。
 そんなこんなで私たち3人は、宿を出たあと道具屋に寄り、薬草、毒消し草などのアイテムを補充し、ついでに武器屋にも寄ることにした。武闘家の私には武器はあまり必要ないので買わなかったが、ナギは聖なるナイフ、シーラは(もしかしたら使うかもしれない)くさりがまを購入した。
「シーラが稼いだお金、ほとんどなくなっちゃったね」
 私が名残惜しそうに金貨袋に向かってつぶやいていると、シーラがいきなり私の袖を引っ張った。
「ミオちん、お金増やしたいならもう一回行ってみる?」
 シーラの指差した先は酒場だった。だが、その入り口の脇に、モンスター格闘場入り口の看板がかかってある。それを見て、私は思い切り首を横に振った。
「だっ、だめだよ!! いくら昨日は稼げたからって、今日も稼げるとは限らないじゃない! 今は盗賊退治の方が大事だよ!」
「む~、今日はもっといっぱいお金増えそうな気がするのに~」
 そういうこと言う人に限って、大負けしたりするんだ。私の師匠もたまに賭け事をしていたが、大体シーラと同じ事を言っていた。
「なあ! おい、あれ見ろよ!」
 ナギが驚いた様子で声を上げた。その視線の先には、見覚えのある青いマントと黒髪。あれってまさか……。
「ユウリ!?」
 間違いない、背格好も彼にそっくりだ。残念ながら顔は見えないが、歩いている方向は確かにモンスター格闘場へと向かっている。
「あれー、ユウリちゃんも賭け事やるのかな?」
 シーラの一言に、私は目を疑った。だってまさか、ユウリが賭け事なんて全く想像できないんだもの。あの後姿は他人なんじゃないかと思い込んでしまうぐらい。
「あの野郎、オレに散々文句言ったくせに、自分はのんきに賭け事だと!? ふざけんなよ!!」
 ガツンッ、と近くにあった建物の壁を拳で叩きつけたまま動かなくなったナギ。よっぽど腹を立てているのかと顔を覗き込んだら、どうやら拳を痛めたらしく、涙目になっている。
うーん、なんか落ち着かない。
このギスギスした空気を緩和させようと、私はふと頭に浮かんだ考えを口に出してみる。
「もしかしたらユウリも旅の資金を増やそうとしてるんじゃない?」
 私の言葉に、二人は白けた顔でこちらを見た。……うん、確かに私も言って後悔した。どうしても無理があるよね、この意見は。
「ミオちん。いくらミオちんが人がいいからってそれはちょっとどーかと思うよ?」
「あの性悪勇者がそんな殊勝なことすると思うのか? お前は」
「……うん、ごめん。今のは私が間違ってた」
なんで私が謝らなくちゃいけないんだろう。
 ともあれユウリの行動に俄然盗賊退治へのやる気が沸いた3人(特に2人)は、勇者に一泡ふかせてやるという決意を胸に託し、意気揚々とロマリアの町を出た。
 そこでふと、ナギがあることに気づく。
「そーいや『シャンパーニの塔』ってどこにあるんだ?」
 私はあっと気づいて、急いでいざないの洞窟で拾った世界地図を広げた。点滅しているのが現在地。そこから西って言ってたから、……この辺かな?
 一同が地図を覗き込む中、私は指で塔があると思われる場所を指した。
「うーん、意外に距離あるね。どうする? 海岸沿いに回っていく?」
「そーだな。この距離だと途中で野宿になると思うし、なるべく近道していこうぜ」
 近道といっても、その距離は十分あった。地元である私でさえも、その遠さにうんざりした。
 なにしろ私の生まれ故郷カザーブからロマリアまでの、2倍以上の距離なんだもの。
 森の中の街道をひたすら歩き続ける途中、私がこの近くの村出身だという話を持ち出したら、ナギが興味深げに聞いてきた。
「そういやミオって、ここからどうやってアリアハンまで行ったんだ? 旅の扉を通ってきたわけじゃないだろ?」
「えっと、最初に私の住んでる村に、ロマリアの王様からのお触れが回ってきたの。『勇者とともに魔王と戦う仲間をアリアハンで募集している』って。たぶん私の村だけじゃなくて世界中でそういうお触れがあったと思うんだけど。それでその募集を受けにロマリアの近くにある関所を通ったあとポルトガに行って、ポルトガからアリアハン行きの船に乗ってたどり着いたってわけ」
「へー。あんな最低野郎の仲間になるためにわざわざ海を渡って行ったのか。お前みかけによらずすげーな」
「あー、うん、まあね」
 まさかこんな形でナギに感謝されるとは思わなかったので、私はテキトーな返事しか出来なかった。
「あれ? でもお前レベル1だったよな。ポルトガって所まで魔物に襲われなかったのか?」
「ちょうど募集してたときポルトガ行きの馬車があって、それに乗って行ったの」
「へー、馬車とかあったんだ。オレ乗ったことねーからうらやましいな」
「私も初めてだよ。しかもポルトガ王の御厚意で無料で乗せてもらったし」
ナギと馬車談義をしていると、後ろにいたシーラが間に入ってきた。
「ミオちん、もしかしたらあたしと同じ船に乗ってたかもよ!?」
「え? どういうこと?」
「だって、あたしもポルトガからアリアハンまで船で行ったもん♪」
 なぜか得意満面な笑みを浮かべるシーラ。
「ひょっとしてお前もあいつの仲間になりたかったのか!?」
「んーん。ポルトガでお酒飲んでたら、お金スッカラカンになっちゃって逃げてきちゃった☆」
 てへっ、と舌を出しながら言う彼女の顔は、全く悪びれた様子などない。
 うーん……。それって無銭飲食だよね。かといって、いまさらそのお店の代金を肩代わりする度胸もお金もないんだけど。
 そんな会話を時折しつつ、途中魔物とも戦い、何度か休憩をするうちに、あっという間に日が落ちた。
 だが、道のりは思ったより進まなかった。目的地まではあと半分以上ある。それでも、現在地がわかる地図を持っているのが唯一の救いだった。きっとそれがなければ、いつ着くかもわからず延々と歩き続けるはめになっていただろう。
 その日は結局野宿をした。交代で見張りをしながらだったので、ある程度睡眠をとったとはいえ完全に眠気が取れたとはいえない。
 きっと4人なら見張りの時間ももっと短いんだろうな、と目の前にある魔物避けの焚き火を見ながら、ぼんやりとした頭でそう思った。ふとユウリの顔を思い浮かべて、さらに心が重くなる。
 アリアハンで出会ってから今までを振り返って、やっぱり私みたいなレベルの低い足手まといは嫌だったのだろうかと思い込んでしまう。
私を仲間に入れたのも、ルイーダさんに強引に進められたからだし、あの時は他の冒険者たちは帰っちゃったけど、別の日にもう一度声をかけてたら、もしかしたらもっとレベルの高い人たちを仲間に出来たかもしれない。
 あー、駄目だ駄目だ、今はそんなことを考えている場合じゃなかった。私は気を取り直して支度を整えた。 
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