ロックマンX~Vermilion Warrior~
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第112話:Awakening
メンテナンスルームのメンテナンスベッドで眠っていたルインがゆっくりと目を開き、そして起き上がると周囲を見渡した。
「おお、ルインさん。起きましたか」
「え?」
冷たさすら感じさせるライフセーバーではなく、暖かみを感じさせる老人の声に振り返ると、それはライフセーバーが配属される前まで他のハンター達のメンテナンスを受け持っていた医師レプリロイドだ。
「え?あれ?」
「聞きましたよ、襲撃してきたイレギュラーと戦い、倒れたと。アーマーを真っ黒にしたゼロさんがあなたを背負ってここに来た時は何事かと思いましたよ」
「ゼロが…そっか、私…ゼロに止められて…そう言えばライフセーバーは?」
「さあ、それは私にも…ハンターベースの何処にもライフセーバー達の姿がないのです。まるで神隠しにあったかのように…」
「ふうん…ライフセーバーのメンテナンスは的確だったようだけど、私はやっぱりドクターのメンテナンスが一番安心するかな」
「ありがとうございます。ゲイトさんが手を放せない時、ゼロさんにルインさんのメンテナンスをするように言われた時、ライフセーバーより性能が低い私では無理だと言ってしまったんですが…」
実際目の前の医師レプリロイドはライフセーバーより前の旧型でやはりライフセーバーに能力が劣るのは仕方ないだろう。
「ゼロさんがね、言ってくれたんですよ。“俺はあんたの人柄を信じている。そしてこいつもな、大体治療と言うのは受ける側が相手を信じていないと出来ないんじゃないか?”と…そう言われて私もまだまだやれると…患者を救えるんだと言うことに気付いたんですよ…やはりゼロさんは優しい方ですね」
「うん…そうだね。みんなに謝らないと…心配かけてしまったし…」
メンテナンスベッドから起き上がって指令室に向かい、そして少し戸惑いながら司令室に入ると…。
「「ルイン!!」」
「わあああああ!!?」
怒りの表情でルインを迎えたエイリアとアイリスに即座に怒られてしまった。
それを見たアーマーが元の色に戻ったゼロは額に手を当て、シグナスとゲイトは苦笑、ルナは腹を抱えて爆笑している。
そして司令室には火山地帯から帰還したエックスもいた。
「ルイン」
「あ、エックス…」
「みんなから話は聞いたよ。また無茶をしたようだね」
「うっ…」
鋭い目でルインを見据えるエックスにルインは思わず恐怖で肩を震わせた。
自らイレギュラーになると言う嫌われてしまっても仕方ないことをしてしまった自覚はあるが、エックスに嫌われてしまうのは恐怖を感じてしまう。
「みんなから聞いた時は耳を疑ったよ。シグマウィルスを取り込んでまでダイナモを倒そうとするなんて…イレギュラー化してしまう寸前だったことも…」
「あ…その…ごめ…」
「ゼロが何とかしてくれなかったら君は確実にイレギュラー化していたんだ………もう、頼むから無茶はしないでくれ…」
エックスはルインの細身を抱き締めると懇願する。
もしイレギュラーになってしまったら、自分はルインを…そこまで考えて首を横に振る。
そんなことは…したくない。
エックスの迷いを感じ取ったルインはエックスに酷だと言うのは分かっているが、頷くことは出来なかった。
「ごめん、無理…」
「ルイン!!」
「エックスの気持ち…分かるよ。私も同じ立場ならそうしてた。でも私は……エックスやみんなと会わせてくれたこの世界が好きだから、だから無茶はするかも」
それを聞いていたゼロ達は複雑そうにルインを見つめる。
「でも…」
まだ何かを言おうとするエックスだが、タイミング悪くダグラスからの通信が入った。
『スペースシャトルが完成した!!何時でも発射出来る状態にはしたんだが…えっと、何か…タイミング…悪かったか?』
通信機越しでも指令室の重たい空気を感じ取ったのか、ダグラスが頭を掻きながら尋ねた。
「ううん!そんなことないよ!!こんな短時間で完成させちゃうなんて凄いよダグラス!!」
『ま、まあな…だがしかしだ…問題は誰がシャトルを操縦するかだ。最後の最後でこんな問題が残るとは…シャトルはいつでも発射出来る…。パイロットが決まったら教えてくれ。』
それだけ言うとダグラスからの通信は切れた。
シグナスは重たい空気を振り払うように咳払いをすると口を開いた。
「さて、エックス達が迅速にパーツを確保してくれたことでスペースシャトルは完成した。後は誰がシャトルのパイロットになるかだが…」
「………私が…」
「ルイン!あなたは病み上がりなのよ!!これ以上の無茶は止めて!!」
病み上がりにも関わらずに無茶をしようとするルインをエイリアが叫んで止める。
そして今度はゲイトが前に出て口を開いた。
「シグナス、シャトル作戦に関してだが、僕に1つ策がある。みんなもこれを見てくれ」
ゲイトが端末のモニターを全員に見せる。
モニターに映るのは何かのプログラムのようだったが、エイリアにはこれが何なのかすぐに分かった。
「これは、シグマウィルスをシャットアウトするプロテクトプログラム!?」
「そうさ、現在のシグマウィルスのパターンを解析し、シグマウィルスをシャットアウトするプロテクトプログラムを組み立てたのさ。これを使えばオートパイロット機能が使えるはずだ。だからハンターの誰かを失うと言うのは避けられ…」
「そのプロテクトプログラムは本当にシャトルがコロニーに到達するまで保つんだろうな?時間経過と共に自己進化を続けるシグマウィルスの脅威…ゲイト、お前も知らないはずはないだろう」
ゲイトの説明に割って入るシグナス。
確かにゲイトの対シグマウィルスのプロテクトプログラムは素晴らしい発明だ。
しかしシグマウィルスの特性である自己進化によってスペースシャトルがコロニーに到達するまでそのプロテクトプログラムは保つのだろうかと思えばかなり疑問だ。
「っ、しかし!!」
「ゲイト、お前の実力は私だけではなくベースの者達全員が高く評価している。しかし、我々にはもう失敗は許されない。マニュアルパイロットよりも失敗する可能性が高いオートパイロットは危険だ」
「ぐっ…だが、作戦が失敗する可能性はマニュアルでもオートでも大して変わらないだろう!?先のエニグマによる狙撃でコロニーの周囲には無数の破片がある。それを回避しながらコロニーに突っ込んで、爆風に巻き込まれない内に脱出する…こんな作戦を無事に成功させられるというのかい!?」
「ゲイトさん…」
ゲイトの言葉にアイリスは俯いた。
彼の言う通り、この作戦の成功率はエニグマによる狙撃作戦よりも下回る。
周囲に散らばるコロニーの破片によって難易度は極めて高くなっているのだ。
「確かにな、周囲に散らばってるコロニーの破片を回避しながらシャトルを操縦するって時点でほぼ無理ゲーだ。こんなの普通のハンターには出来ねえだろ」
冷静に技術者としての判断を口にするルナにシグナスは目を閉じて黙考する。
最高のCPUを持つ彼は最良の案を出そうとする…。
「この中でシャトルによる特攻を成功させられる可能性を持つのはゼロとルインだな…」
そしてこの中で最も作戦を成功させられる可能性を持つ2人の名前がシグナスの口から発せられた。
「なっ!?」
「総監!?」
想い人がスペースシャトルのパイロット候補にされたことにエックスとアイリスは思わず絶句したが、候補にされた2人は合点がいったように頷いた。
「なるほどな…シグマウィルスを吸収すれば自己再生が可能な俺達なら…」
「例え破片をかわしきれずに、脱出に失敗しようとシグマウィルスの吸収で助かる可能性がある…」
「そんな…ユーラシア内部のシグマウィルスの濃度は地上の比ではないのよ…そんなウィルスを吸収したら…」
あまりにも無謀な賭けに青ざめるエイリアにゼロは少しだけ黙考した後、口を開いた。
「失敗すればシグマウィルスの過剰吸収によるイレギュラー化の可能性が高い…か………俺が行く」
「ゼロ、止めて!!ルインの体内のウィルスを吸収するのもやっとだったのにユーラシア内部のウィルスを吸収したら…」
ゼロが危険な作戦をしようとすることを、そしてイレギュラー化してしまうかもしれないことに恐怖を抱いたアイリスはゼロを止めようとする。
「私も反対だわ!どちらも成功率が大して変わらないならゲイトの案を採用すべきよ!!私は…誰かを生け贄にするようなやり方は絶対に許さない!!」
エイリアもシグナスに考えを改めるように叫ぶ。
ハンターを死なせないのが彼女の…オペレーターの務めなのだから。
「………総監」
エイリアの言葉にルインは笑みを浮かべるとシグナスに歩み寄る。
「何だ?」
「私とゼロ…どちらのパイロット能力が高いのかを教えて下さい」
ルインの問いにシグナスは若干の動揺を見せたが、すぐに冷静な表情に戻して問いに答えた。
「……………ゼロとお前ならば、お前の方が僅差でパイロット能力は上だ」
それを聞いたルインは微笑んだ。
「ルイン…君は…まさか…」
その笑みを見てルインの考えを察したゲイトは目を見開いた。
「そう…なら、決まりだね。私が行きます」
決意に満ちた目で名乗り出たルインにエックス達は絶句して沈黙してしまう。
「………何を馬鹿なことを言っているんだ!!お前は一度イレギュラー化しかけているだろうが!!ここは俺に任せておけ!!」
珍しく感情を露にして怒鳴るゼロに対してもルインは全く怯まない。
「ねえ、ゼロ。この作戦はね…まずシャトルがコロニーに到達しなきゃ話にすらならないんだよ?だから少しでもパイロット能力の高い方が乗ってコロニーに到達する可能性を高めなきゃいけない…分かるでしょ?」
「っ…」
冷静に正論を言うルインにゼロは言葉を失う。
何故か知らないが、ゼロは絶対に行かせてはならないと言う確信がルインにはあった。
誰が止めようとしてもルインは決して折れることはなく、スペースシャトルのパイロットはルインに決定してしまった。
そしてハンターベースのスペースポートにはスペースシャトルにパイロットとして乗り込むルインとそれを見送るハンター達とオペレーター達、そして各職員達の姿があった。
「ルイン、行けそうか?」
「もう、ダグラス。情けない声出さないでよ。ハンターベース最古参のメカニックなんだから自信持って。そんなんじゃ後輩に舐められるよ?」
不安そうにこちらを見つめて尋ねてくるダグラスにルインは苦笑しながら言う。
「人が心配してるのにからかうなよルイン!!とにかく、俺達メカニック班がこの時点で出来る全てをそのシャトルに注いだんだ。絶対に作戦を成功させて…俺達のいるハンターベースに帰ってこい!!」
ダグラスの言葉にルインは笑顔で頷いた。
纏っているアーマーはZXアーマーのままだ。
OXアーマーは精神高揚と凶暴性の増大のせいで落ち着かなくなるため、アーマーを纏うのはギリギリのタイミングでだ。
「勿論だよダグラス!私は絶対にみんなの所に帰ってくるからね!!」
「すまんルイン…病み上がりのお前1人に全てを押し付けるような形になって…」
「そう深刻にならないで下さい総監。これを最も高確率で成功させられるのは私なんですから。総監は総監として正しい判断をしましたよ。第一、言い出したのは私だし…まあ、さっさと行って終わらせてきます」
申し訳なさそうにルインに謝罪するシグナスに苦笑しながら言うと、次は自分の部下達が駆け寄ってくる。
「副隊長、厳しい任務かもしれませんが、成功を祈っています。」
「ありがとうビートブード」
「副隊長、どうかご無事で!!」
「私達、待ってますから!副隊長の帰還を!!」
「ありがとう」
自分の身を案じてくれる部下達の言葉にルインは力強く頷いた。
「この事件が終わってシグマウィルスの除去が終わったらみんなでまた海に行きましょうよ!!」
「あは、それいいかも」
「でしょう!?前回はゼロ隊長や女らしさゼロの女隊員軍団に妨害されましたけど、今度こそルイン副隊長とエイリアさんの麗しい水着姿をこのアイカメラとメモリーに………ぐはあ!?」
邪な考えを抱くハンターの脇腹に真横からの女性ハンターの鉄拳が炸裂した。
鉄拳を喰らったハンターは見事に吹き飛んだ。
「へ?」
「ルイン副隊長、この愚か者の言葉など一切気にしなくて結構です。とにかく任務の成功を祈っています」
「あ、うん…」
引き攣り笑いを浮かべながらもルインは頷いた。
そしてエックス達の方を見遣る。
「それじゃあみんな、行ってくるよ」
「私達は!まだ認めてなんかいないのよ!!」
「俺が言えたことではないが…お前も正真正銘の大馬鹿野郎だ…死に急ぐようなことばかりしやがって…」
「ゼロとかエイリアもそうだけど、君もまた相当の頑固者だよね。エックスの身近な存在はみんなこんな頑固者ばかりなのかな…?」
「絶対に無事に帰ってこい!!お前が死んだら悲しむ奴が沢山いるんだからな!!」
「ルイン!絶対に生きて帰ってきて!!帰ってこなきゃ…許さないから!!」
「…うん……エックス」
「……俺は、君にこんな危険なことはさせたくないんだ。本当なら君を気絶させてでも止めたい。でも…」
そんなことは許されない。
もうコロニー落下までの時間が少ない以上、個人の我が儘など通じるわけがない。
「もう、信用ないな。精鋭部隊の隊長なんだからもっとどっしり構えてないと駄目だよエックス。それとも私の腕が信用出来ない?私はこう見えてもライド系の操縦は常に高得点を叩き出してるんだよ?」
「君の腕は俺が誰よりも知っている。だけど、それでも多少はマシというくらいだろう!?少しでも操縦を誤ったらコロニーの破片がぶつかって死ぬかもしれないんだぞ!!君は分かっているのか!?」
エックスの悲痛の叫びにルインは笑みを消して真剣な表情で頷いた。
「………うん、分かってるよ。少しのミスが命取りになることは…でもこんな滅茶苦茶危険な任務だからこそ私がやらなきゃいけない。エックスとゼロは今ではもう数少ないイレギュラーハンターの部隊長なんだよ?人手が深刻的に不足しているならともかく、今は副隊長である私がいる。隊長の仕事は部下の身代わりになって命を散らすことなんかじゃないはずだよ。部下の命を預かるのが2人の仕事。どれだけの痛みや苦しみを負ってでも預かり通す…それが隊長である2人の仕事だよ。だから私は2人を死なせない。絶対にね」
「っ…お前という奴は…」
「君がそう言うのは仕事だからか…?俺達が数少ない部隊長だから…君は俺達の代わりにこんな危険な作戦を遂行しようとするのか…?」
だとしたらこれほどまでに部隊長の座が忌まわしいと思ったことはない。
「うーん、そういうことにしとこうかな?何というか…これは勘なんだけど…あのコロニーには…私が行くのが一番なんだと思う。何でなのかは分からない。でも私が行くのが最善なんだって何となく思う」
空を鋭く見据えるルインにエックスやゼロはもう何も言えなくなった。
「まあ、私も結構タフだからさ。これくらいじゃあ死なない。信じてよ」
「………」
「………ルイン」
「何?」
「帰って…来る…よな…?」
「……………うん、エックス…お願いがあるの」
「え?」
エックスの近くに歩み寄るルインに、彼女の願いを何となく察したゼロは距離を取った。
「抱き締めて…欲しいの…エックス…私を…」
「っ!!」
エックスはルインを抱き締め、ルインを包む腕に力を込めるとルインもエックスの背に腕を回した。
自分の背に回されたルインの腕は微かに震えているのを感じる。
「…………行って来るね。エイリア、少しの間…エックスの傍にいてあげて」
「っ、馬鹿!!縁起でもないことを言わないで!!」
エックスから離れると凛々しい笑みを浮かべながらシャトルに乗り込む。
それを確認したシグナスはエックス達に謝罪したい気持ちを必死に押さえ込みながら声を張り上げた。
「これが…これがスペースコロニー・ユーラシア破壊のための最後の希望だ!ルイン、出撃せよ!!」
「了解!!」
最後になるかもしれないシグナスの指示にルインもシャトルの操縦桿を握り締めた。
「ルイン!シャトル作戦を成功させ、必ず我々の元に戻ってこい!!発射!!!」
ルインの乗ったシャトルがコロニーに向かって真っ直ぐに飛んでいく。
「ルイン!!必ず!必ず戻ってくるんだ!!ルイーーーーン!!!」
悲痛なエックスの絶叫もシャトルの轟音で掻き消されてしまう。
シャトルを操縦するルインの目の前には既にユーラシアが近くにある。
「(まだ…まだだよ…OXアーマーに換装するのはまだ早い…!!)」
シャトルの航路をユーラシアの中心部へと向け一気に加速させる。
ルインにはシグナス以上の確信があった。
OXアーマーさえ纏えば例えシャトルに搭乗したままユーラシアに突っ込んだ所で自分が死ぬことはまずない。
何せ真っ二つにされようが、頭を吹っ飛ばされようとシグマウィルスで再構成出来たのだから。
だからルインは最初から脱出など全く考えていない。
確実にシャトルをユーラシアにぶつけるにはパイロットが最後まで搭乗していた方が途中で脱出するよりもずっと成功率が高い。
そしてシグナスの作戦通りに進めてもコロニーの地上への直撃だけは何とか避けられるだろうが、コロニー内部のシグマウィルスによる二次被害は避けられない。
だから激突の直前にOXアーマーに換装し、全てのシグマウィルスを吸収し、力を増大させて地球のウィルスも吸収してしまうというのがルインの作戦だ。
代わりに自分のイレギュラー化は確実に避けられないだろうが。
「(あれがあれば死なないって分かってるんだけどやっぱり…怖いなあ…)」
迫るコロニーへの恐怖とイレギュラー化する恐怖も相俟って操縦桿を握る手が震える。
その時である。
『コロニーは目の前だわ…。ルイン、頑張って!!』
エイリア。
『今度こそ大丈夫だ…絶対に!!』
ダグラス。
『彼女ならやってくれるはずだ!!』
ゲイト。
『ルイン!!』
エックス。
『早く終わらせて戻ってこい!!』
ゼロ。
『頑張ってルイン!!』
アイリス。
『少しでも気を抜くんじゃねえぞ!!』
ルナ。
『頼むぞルイン!!』
シグナス。
仲間の声を聞いた瞬間、ルインの恐怖が和らいだような感じがした。
「みんな…スペースコロニー・ユーラシアを確認。聞いていた通り、コロニーからの破片が凄まじいね…これを出来るだけ避けて近づかないと…コロニーにぶつかる前にシャトルが破壊されちゃう。」
『ルイン!お前の腕前なら大丈夫だ!!』
「ありがとう、ダグラス…そろそろお話の時間は終わりのようだね…5秒後に通信OFFにします…(ごめんねみんな、ユーラシアは私が確実に破壊する。だから…みんなには辛いかも知れないけど…ここから先はみんなに任せたよ)」
今頃地上では脱出ポイントを過ぎても脱出しようとしないルインに誰もが恐慌していることだろう。
そして脱出ポイントを過ぎたことでコロニーの破片がシャトルに激突していく。
「っ…!!まだ、まだ早い!!」
もっとコロニーに近付かねば駄目だ。
巧みな操縦技術で極力回避しながらシャトルのダメージを最小限に抑えようとするが、無数に襲い掛かってくるコロニーの破片を全て回避することなどいくら反応に優れるルインでも不可能だ。
この状況はきっとエックス達も見ているだろう。
何となくだが、地上にいるはずのエックス達の悲痛な声が聞こえた気がした。
「本当にごめんねみんな…でも私は…」
目指すのはコロニーのある前のみ。
やがてとてつもない衝撃と共にシャトルはバラバラに四散し、ルインは激突寸前でOXアーマーを纏うが、彼女の体もまた凄まじい閃光に飲まれて消滅していく。
そして宇宙空間に巨大な閃光が広がった。
「……シャトルとルインの…反応…ロスト…」
「ル…イン…」
「そ、そんな…嘘でしょう…?」
青ざめたエイリアの口から掠れた声が出た。
全てを見たエックスは絶望のあまりに膝をつき、アイリスは泣き崩れた。
「シャトルのコロニー衝突確認した。コロニー破壊率は86%…多分10分後には消滅するな。尤も破壊し切れなかったコロニーの破片が地上に降り注ぐ事だけは避けようがねえけど…」
目を潤ませながらもルナが何とかエイリアとアイリスの代わりにシグナスに伝える。
「ルインの脱出は確認出来ない…つまり彼女は…僅かでもコロニー破壊の成功率を上げるために自らを犠牲にしたのか…」
「…………ルイン……すまない」
「あの…馬鹿が…!!」
悲しげに顔を歪ませるゲイトと沈痛な表情でシグナスがこの場にいないルインに謝罪し、ゼロは床を殴り付けた。
「畜生…何してるんだよルイン。いくら地球が救われたって……肝心のお前がいないんじゃ意味ないだろ!!」
ルインの死という地球滅亡よりも最悪な結果にダグラスが悲痛な叫びを上げた時、ルナが驚愕したように叫んだ。
「な、何だ!?」
「どうしたルナ!?」
全員の視線が驚愕した表情のルナに集中する。
「地球上のシグマウィルスが宇宙に向かってる…まるで吸収されるように………まさか!!」
ルナはすぐさまキーを叩いてコロニーとシャトルの激突地点を映すと、そこにはシグマウィルスの妖しい輝きが一ヶ所に集まっていた。
輝きの中心では消滅したはずのルインの体が凄まじい勢いで再構成され、エックス達が良く知るOXアーマー姿のルインとなった。
「………っ!!」
「ルイン…なの…?」
「違う…あいつは…ルインじゃない…中身は…別物だ…」
ルインはゆっくりと目を開けながら、此方に視線を向けると、その目はエックス達が知る翡翠ではなく、血のような紅であった。
『エックス…ゼロ………お前達を…破壊する』
モニター越しであるにも関わらず彼女から発せられる殺気に一同は圧倒される。
「いきなり…いきなり…何を…」
「これがルインの…内なるイレギュラーか…」
標的にされたエックスとゼロが表情を歪めた。
『お前達が私と戦えるだけの力を得たなら、ポイント11F5646に来い。私とお前達に相応しい戦いの場を用意してやる。お前達に対する私からのせめてもの慈悲だ。これから始まる戦いには場違いな目障りな屑もついでに片付けてやろう』
そう言うとルインは地球のある方向を見遣ると、凄まじいスピードで地球に向かっていった。
それを見ていたエックス達はただ呆然と見ているしかなかった。
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