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何に化けたか

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第一章

               何に化けたか
 シベリアのエベンキ族に伝わる話だ、エベンキ族に長兄のムチュノイ、姉の六つ頭、末っ子のビョルコリトゥンの三人がいた。
 兄と弟は狩りをして暮らしていて二人共立派な体格をしていて見事な眉ときりっとした顔を持つ美男子だった。
 姉はそれなりの奇麗な顔を持つ呪術師で特に何かに化けることが得意だった。その姉がエベンキ族の中でも大きな家の跡取りであるチュグルディと結婚することになった。
 それでだ、ビョルコリトゥンはムニュノイに言った。
「兄さん、姉さんが結婚するからな」
「引き出ものが必要だな」
「そうだよ、何がいいだろうか」
「それだとな」
 それならとだ、兄は弟に答えた。
「あいつは熊が好きだからな」
「それでだな」
「そうだ、ここは熊を狩ってな」
 そしてというのだ。
「それを引き手ものにしよう」
「そうだな、姉さんは確かに熊の肉が好きだしな」
 ビョルコリトゥンも兄の言葉に頷いて述べた、
「それだとな」
「熊は丁度いいな」
「しかも熊は毛皮が使える」
「骨も丈夫で何かと使える」
「捨てるところがないからな」
「丁度いいな」
「全くだ」
 弟は兄の提案は実にいいと思った、そうしてだった。
 二人で早速狩りに出てそうしてだった、熊を狩って六つ頭がチュグルディと結婚するその場に熊を一匹丸ごと出した。すると六つ頭も驚いて言った。
「これはまた」
「どうだ、凄いな」
「これだと満足してくれるかな」
「これは最高の引き出ものよ」
 まさにとだ、六つ頭は自分の兄弟に答えた。
「本当に有り難う」
「そう言ってくれると何よりだ」
「では僕達もね」
「ええ、二人共席は用意してあるわ」
 六つ頭は二人に上機嫌で応えた、そしてだった。
 二人を場の六つ頭の親族、彼女から見て家族のところに空いている二つの席に案内した。そのうえで引き出ものの熊をはじめとした馳走に酒も出してだった。
 結婚式に出た者達と共に式を楽しんだ、だが。
 ここでだ、六つ頭は場にいる者の中でも群を抜いて飲んでだった。
 すっかり酔ってやはり酔っている兄弟達についついだった。
 呪術を仕掛けた、そうして二人を鉄の箱に放り込んでだった。
 酔ったまま二人をそのまま海に沈めて大笑いした、新妻のこの行いに夫は仰天してそれで彼女に言った。
「自分の兄さんと弟を海に放り込んだぞ」
「あの二人はあれ位じゃ死なないわよ」
 六つ頭が酔いつつ夫に答えた。
「並の丈夫さじゃないから」
「鉄の箱に入れて海に沈めてもか」
「ええ、不死身と思っていいから」
「それでもやり過ぎだろ」
「大丈夫よ、死なないから」
 六つ頭はこの時は真っ赤な顔で笑いながら言っていた、だが。
 式の後の宴が終わってだ、酔いが醒めてから夫に真っ青になって言った。
「幾ら何でもやり過ぎたわ」
「お兄さんと弟さんのことだな」
「酔っていてね」
 そのせいでというのだ。
「海に沈めたわよね、私」
「鉄の箱に入れてな」
「あの二人はあれ位じゃ死なないにしても」
 それでもというのだ。
「鉄の箱に入れられても出て来るけれど」
「それはまた強いな」
「物凄く強いのよ、しかもここまでされたら」
「誰だって怒るよ」
 このことをだ、チュグルディは眉を曇らせて言った。賢明そうで落ち着いた感じの顔立ちである。着ている服は実にいい。 
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