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戦国異伝供書

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第三十三話 隻眼の男その五

「そしてです」
「是非にと思ってか」
「左様です」
「父上のところには参らなかったか」
「武田のお館様ですか」
「そうじゃ、主は父上ぞ」
 このことを言うのだった。
「ならばじゃ」
「それは考えませんでした」
「何故じゃ」
「あの方は甲斐一国の方いや」
 山本は晴信に言った。
「一つにされた甲斐も」
「この国もか」
「やがては分けられる」
「そう見たか」
「甲斐に入ってからの話、そして占ってみても」
 その両方でというのだ。
「そう出ましたので」
「だからか」
「あの方ではなく」
「わしか」
「はい」
 まさにというのだ。
「そう確信してです」
「ここに来たか」
「左様です」
 こう晴信に答えたのだった。
「それがしは」
「そうなのか」
「貴方様ならがです」
「甲斐一国に終わらずか」
「天下も」
 それもというのだ。
「手に入れられましょう」
「わしが天下人にか」
「天下を望まれますか」
「まだ誰にも言っておらぬが」
 こう前置きしてだ、晴信は山本に答えた。
「実はな」
「そうでありますな、やはり」
「そのことも占いでわかったか」
「はい、貴方様のことを占いますと」
「天下を望んでいるともか」
「出ておりまして」
「そうか、では言おう」
 はっきりとだ、晴信は山本に言った。
「わしは甲斐の民達を貧しさから救いな」
「天下の民達もですな」
「戦乱から救いたい」
「その為にもですな」
「わしが天下人となりな」
「そのうえで」
「天下を泰平にしたい、上洛してじゃ」
 それからのこともだ、晴信は山本に話した。
「公方様をお助けする執権となってじゃ」
「そのうえで」
「諸大名達を従えさせてな」
「天下を治められますな」
「見たところ越後の長尾家、尾張の織田家に良い者がおる」
 だからだともだ、晴信は述べた。
「その者達もな」
「従えてですな」
「わしの両腕としてじゃ」
 そのうえでというのだ。
「天下を治めたい」
「長尾家の虎千代殿と尾張の吉法師殿ですな」
「特に尾張のあの者じゃが」
 吉法師、即ち信長はというと。
「多くの者が大うつけと言っておるがな」
「実は違いまするな」
「よく見れば政も戦も非常にわかっていてじゃ」
「優れた家臣もですな」
「多く置いて使いこなしておる」
 だからだというのだ。 
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