徒然草

二百十五．平宣時朝臣

　　　　　　　　　　　　　　　　二百十五．平宣時朝臣
　平宣時朝臣殿が老後に問わず語りをしたことがありました。ある晩に執権北条時頼様からお誘いがありました。すぐに伺いますと答えたものの上着が見当たらず困っていますとまた使いの者が来て上着でも探しておられるのでしょうか、もう夜なので寝巻きでも構いません。すぐにおいで下さいと言いました。仕方なく古ぼけた服を着て粗末な身なりのまま伺いました。すると時頼様がお銚子とお猪口を持って現れてきてこの酒と共に飲もう、一人で飲むのは寂しいから呼んだのだ。酒の肴もないが皆寝静まってしまったが何かつまむものでもないか探してくれと仰います。それで灯りを手にして隅々まで探してみると厨房の棚に味噌が少し残っている小皿を見つけました。それを持って行ってこんなものがありますと言いますと時頼様はこれで充分とご機嫌でお酒を何杯も飲んで酔っ払いました。こうした時代もあったのですと語ってくれました。
　質素なお話であります。味噌はかなり高価なものですがそれでもそうした残りもので一杯やる友を済ませるというのは時の人とは思えません。こうした質素さこそがいいのであります。どんな地位にあってもそれでもこうした慎みを知っておられる方は何かが違います。お話を聞いても成程と思うものがあります。


平宣時朝臣　　　完


　　　　　　　　　　　　　　　２００９・１２・１５