徒然草

百八十五．城陸奥守泰盛

　　　　　　　　　　　　　　　　　百八十五．城陸奥守泰盛
　陸奥守であられた安達泰盛殿は馬術の名手でありました。それこそ厩舎から引かれてきた馬が前にある障害物をひらりと飛び越えるのを見ただけでこの馬は気性が荒いと言ってその鞍を他の馬の背に載せ換えさせました。また、脚を伸ばして障害物にけつまずいてしまうような馬がいますとこの馬は運動神経が鈍い、これに乗っていてはやがて事故に逢ってしまうと言って乗ることはありませんでした。
　馬術を知らない人はここまで用心しないものであります。
　ですが知っている人、しかも熟知している人になりますとこうした用心をしていくものであります。それを考えますと安達殿はまことに立派な馬術の達人であります。ただ馬に乗ることが巧みなだけではないからです。馬とは一体どういったものかまでよく知っています。これこそまことの馬乗りであります。それを知らしめてくれているのがこの逸話であります。ただ馬に乗ることが巧みなだけでは真の馬乗りではありません。その気性ややがて起こることまで見抜いてこその馬乗りなのであります。だからこそこの人は立派であります。わかっているのであります。その辺りにいるようなただ乗っているだけで得意になっているのとは違います。実に見事であります。


城陸奥守泰盛　　　完


　　　　　　　　　　　　　　　　　２００９・１１・１５