徒然草

百六十八．年老いたる人

　　　　　　　　　　　　　　　　百六十八．年老いたる人
　一芸に秀でている老人がいましてこの人が死んでしまったならばこのことについて一体誰に聞けばいいものだろうかと言われるまでもなればもうそれで年寄り冥利に尽きますし生きてきた甲斐もあります。ですが才能を持て余し続けていたとしましたらその一生を芸に費やしたようでありましたどうにも小さく感じてしまいます。それならばもう隠居してしまってそれで呆けてしまったとでもしておけばいいのです。
　おおよそ詳しく知っていることにつきましても何でも好き勝手に言っていればそれだけでもう器の小さな人にしか見えませんし時には間違えてしまうこともあるでしょう。詳しくは知らないのですがといったように言っておいて何とか謙虚に言っておけばそれで本物らしくなってその道に秀でている人にも思われる筈であります。ところが何も知らないというのに得意顔で出鱈目を話す人もいます。老人が言うことだけに誰もそれについて反論することができずその話を聞いている人がただ心の中で嘘をつけと思いながらも耐えているのも見ていますとどうにも怖いものすら覚えてしまいます。それでいいのかどうかといいますとやはりよくはありません。見ていてこちらが怖くなってしまうものがよい筈がありません。それがわかっていないお年寄りは困ったものであります。


年老いたる人　　　完


　　　　　　　　　　　　　　　　２００９・１０・２９