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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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オーディナル・スケール編
  第270話 オーグマー

 
前書き
~一言~

すみませんっ!! ほんと遅れてしまって……。もうちょっと早めに出せる予定だったのですが、修正したり、現実が忙しかったりとなかなか……… 涙

で、でも 漸く映画編に行けた事は良かったです!! う~む…… 一か月以内には投稿したかったです……。


 さてさて、言い訳と謝罪は此処までにしまして、いよいよ映画編に入っちゃいました!
 AR戦闘は、VRとは勝手が少々違うので、なかなか難しいですが……、何とかちょこちょこ頑張っていきます!  
大筋は決まってますが、文章化が難しい…… で、でもそっちもガンバリマス!


最後に、この小説を読んでくださってありがとうございます! 新章に突入!2019年もガンバっていきますので、これからも宜しくお願いします!!

                                    じーくw 

 







――そんな、ありえない。こんなの、ありえる、ハズがない……!












 この男の事は、話には聞いていた。
 数える程度の事ではあるが、実際にこの目で見た事もある。

 あの世界で戦う姿を。


 ……まるですべてを見通しているかの様な先読み。先を読んでいるからこそ。相手にしてみれば、先が見えている相手には、こちらの攻撃が全く届かない。それに加えて、先を全て読んでいるからこそ、受ける攻撃は全て当たる。……あり得ない角度からも攻撃が来る。逃げる事さえ出来ない。


 攻撃の一手一手、守りの手、全てがあり得ない。
 それらが数値化できるとするならば、全てが測定不能になるのでは? と思う程だ。


 目の前で戦っているというのに、……まるで、瞬間移動をされているかの様にも思える程に。 








――今は違うんだ! 今は、違う!! それはあの世界(・・・・)だけの話……。所詮ゲームの中の話だけだろっ!?






 そう、あくまでゲームの世界の話だ。
 魔法にしろ、空を高く翔ける翼にしろ、銃弾にしろ、それらは全てゲーム。仮想世界(VRワールド)の話だ。現実で行える筈がないのは明白。現実の世界ででは翅で飛ぶような事は出来ない。魔法のような力を撃つ事だって出来ない。銃弾を受けて、五体満足でいられる筈がない。

 ここは現実だ。嘘の世界ではない。……本物の世界だ。その筈、なのに。

 彼は、目の前の光景が理解出来なかった。否、理解したくなかった。


 それは底のしれない何か。あり得ない人外。目の前に佇む男。


 そう――あの嘘の世界、SAOの世界では、確か こう、呼ばれてもいた。








『お前は、最も してはいけない事をした。……触れてはいけないものに触れたんだ。……何よりも、傷付けた。……オレの、大切な人を』










 目の前であふれ出るのは凶悪なオーラが見えた。
 明らかにそんなシステムを組み込んでいる訳でもないのに、はっきりとそう見える。



 そして、その直ぐ後に、自分に降りかかる厄災を予見した。自分に何が起こるのかもわかった。あらゆる面で、優位に立っている筈なのに、全て無意味だと思える程、だった。

 認めたくない気持ちだけが前面に出ていた為に、背を向ける事だけは無かった。それが良かったのかは……判らない。




 そう、この目の前の男のもう1つの名は……。
 






『報いを、受けてもらう。……裁くのは、オレだ』











 深紅の瞳を持つ……鬼。




























~アインクラッド第22層 リュウキとレイナの家~



 それは滅びた世界での思い出。
 生きるか死ぬかの修羅場。そんな世界だったが、……心から安らぎを得られていた時の記憶。


 レイナとリュウキの記憶。
  

『え、流星?』
『うんっ、お姉ちゃんとキリト君。現実に帰ったらさ。見に行くって約束したんだって!』

 この日、話題に上がっていたのは、キリトとアスナの事だった。
 

 この世界の空は、星が無い。昼と夜があり、つまり太陽はあるのだが、夜空に瞬く星々は無かった。
 ある日の夜。キリトとアスナは約束をしたのだという。いつか、流星を見に行こう、と。

『成る程……』
『お姉ちゃんと同じで、私も流星は見た事無いんだ。現実世界。住んでいる所は夜空が明るくってさ。夜も明るいのは良いんだけど……やっぱり綺麗な星って見てみたいって思うなー』

 明るければ色々と安全面では確かに良いかもしれない。でも、人工的な光ではなく、こうやって 世界が生まれた時から存在しているであろう綺麗な自然の瞬きは、やっぱり感動する。
 だからこそ、アスナの話を聞いた時、レイナも同じ気持ちになった。

 素敵な景色を、……最愛の人と一緒に見られる。とても幸せを感じる。

『よし。……なら、オレ達も見に行こうか』
『え?』

 話を聞いていたリュウキは椅子からゆっくりと腰を浮かせた。
 そして、この家に備え付けてあるバルコニーへと足を運ぶ。

『確かに、アインクラッド(ここ)は星が見えないな。ここから見える景色は好きだから、言われるまで気付けなかったかもしれない』

 夜空を見上げた。幻想的な光は確かにある。まるで無数の蛍が宙に漂い、舞っているような光がある。この景色も嫌いではない。……リュウキは、以前までは考えもしない事だったが、心にゆとりが出来て、……いや、違う。心の安らぎを知って、ただ何でもない様な事が幸せだと思える事に気付けたから。

『オレも、2人と一緒だ。流星は見た事が無い。……ずっと家に籠っていたから』

 はは、と苦笑いを浮かべるリュウキの傍へ、そっとレイナは近づいた。

『だから、オレも見てみたい。初めてをレイナと一緒に、見てみたい』
『……うんっ。私もみたい! 見てみたい! 約束、約束だからね? リュウキくんっ』
『ああ。キリトやアスナと被らない様にしないと、だな。一緒に言ったとしても、断られるとは思わないけど、……こういうのは、やっぱり2人が良い、から』

 照れくさそうに頬をポリポリと掻くリュウキ。それを見たレイナは頬を緩ませながら、リュウキの腕に自身の腕を絡ませた。






『また誓う。何度でも誓う。……必ず、レイナを現実世界へ還すから。絶対、絶対にやって見せるから』
『うん。……私も頑張るから。リュウキ君と一緒に、頑張る。……だって、私も頑張ったんだーって、胸を張れるようにしたい。リュウキ君の隣に、ずっとずっといたいから』









 
 今はもう無い滅びた世界での記憶。
 形は失っても、心に育った思い出は今も尚、自分の、自分たちの中に残っている。





 いつまでも、いつまでも――――――。







 そう、思い出とは消える事はない。それが楽しくて、楽しくて、素敵な思い出であるなら尚更。強く心に残っている。それらを糧に、成長へと結びつける事だって出来る。
 心にある限り、この暖かな光は消えない。消える事がない。







――その、筈 だったんだ。


































~ 2026年 4月23日 20:55 某所 ~





 この場所、そしてこの時刻に21:00にだと、その直前に告知されていた。
 あの世界の怪物が、現在のこの現実の世界の、この場所で蘇るのだと。


「さぁ、……はじまるぞ」


 始まりを告げる鐘の音は鳴らされる。

 1人の少女の出現と、その美しい歌声によって。


「やっほーー! みんなー、今日は集まってくれてありがとー!」


 空高くより現れた少女の姿に、煌びやかに輝きを放つ少女の姿に、この場所に集った全員の視線が釘付けになった。


『お、おい! あれってユナじゃねぇ!?』
『マジでユナだ!! ただのボスイベだけじゃなかったのか!?』

 
 驚き、少女に目が奪われるのだが、その視線も直ぐに変化する。
 少女の、……ユナの宣言によって。


「準備は良いかな? それじゃーー! 戦闘開始!!」




 空高く手を掲げ、そして光が降り落ちたかと思えば、その光が形を成した。

 その光は巨大で、そして何よりも禍々しく、……まるで狂気を孕んでいるかの様だった。

 その形がはっきりと判った瞬間に戦慄が走る。


「……おい、マジかよ。あれは、本当だった、ってのか……?」


 1人が呟き、そして思わず倒れそうになってしまった。
 この存在を、この相手を知っている者は多けれど、過剰なまでに反応する者は決して多くはない。

 何故なら、この相手と直接刃を交えた者は、僅かしかいないから。
 あの死の世界(デスゲーム)で、直接戦った者は、僅か44名しかいないのだから。







「アインクラッド第1層のボス《インファング・ザ・コボルドロード》!!」









 
 2022年11月6日。



 フルダイブ型仮想現実ゲーム機《ナーヴギア》のソフト『ソードアート・オンライン』のユーザー1万人はサービス開始初日、開発者 茅場晶彦の手によって、ログアウト不能『ゲームオーバー』=『現実の死』という過酷なるデスゲームに追いやられた。

 圧倒的な絶望の中、ゲームクリアを目指し、

 剣を取る者。
 恐怖に負け他者との接触を断つ者。
 なかにはプレイヤー同士で命を奪い合う者さえいた。


 そして――永遠とも思える時間が過ぎた2年後の2024年11月7日。
 あるプレイヤー達の英雄的な行動により、ゲームはクリアされ、人々は解放されることになる。










~ 某所 とある研究室 ~




 3000もの人命が失われた未曽有の事件。
 SAO事件の詳細を静かに目を通す者がこの研究室にいた。その者以外は誰もいない。ここに響くのはその男の声のみ。静寂な空間だった。


「……そして、最終的には、3000人もの人々が犠牲となり、首謀者である茅場昌彦の死で事件はその幕を閉じた……。そして、生き残ったプレイヤー達はSAO帰還者(サバイバー)と呼ばれ、今は現実世界で普通の生活を取り戻している……」


 静かに、だが 重く、はっきりと周囲に聞こえてくる声。
 そして、その目の奥には暗い。底知れぬ闇が潜んでいた。












 




 
 そして、場面は再び戻る。

 あの悪夢の世界の第1層ボスは撃破する事が出来た。
 あの命の危険のある世界と今の現実の世界では違う。これはただのゲーム……なのだから。

 だから、剣先が鈍る事もなく、恐怖にかられる事もなく、当然 死人が出ることもなく、撃破し終わりを告げた。


「あーあ。もっと歌いたかったなぁ……ざーんねん」

 そしてユナと呼ばれる少女……歌姫は 少し落胆をしていた。
 彼女は、特別なイベント戦で出現する。その場所で声を上げて 美しい歌声を響かせるのだ。

 当然、その歌はボス戦の間だけであり、それが終わると歌も終わる。

 ユナは、戦闘時間が短かったため、少ししか歌う事が出来なかったから、それが不満だったのだ。 
 そんな落胆するユナの傍には、1人の男がいた。残念そうに顔を俯かせるユナに、笑いかける。

「大丈夫。歌えるさ……。明日も、明後日も」

 その答えに、ユナは目を輝かせる。落胆していた表情が、まるで嘘だったかの様に。

「ほんとっ!? ほんとに、ほんとっ!?」
「ああ。本当だ。……だって」


 目を輝かせ、笑う彼女とは対照的に、男の笑みは何処か悪を感じるものだった。




「だって、まだまだ始まったばかりだからね―――。僕達の復讐は」












  




















~2026年 4月24日 東京都 西東京市~







 某大型ショッピングモールの一角にある喫茶店での事。
 いるのは和人(キリト)明日奈(アスナ)里香(リズ)珪子(シリカ)のいつものメンバー……よりは、やや少ないメンバー。
 学校帰り、集まった仲間たちと共に遊びに来ていた。

 でも、喫茶店でもゲームゲームな皆にちょっとばかり、げんなりしているのがキリトだった。勿論本心は違う。ゲームをやる事に文句などキリトがある訳もない。……ただ、ゲームの種類にだけ ちょっぴり嫌なだけ。


 そんなキリトを余所に、熱中する3人。何故なら、このゲームにクリアするともれなく特典が付いてくるから。

 絶妙なチームワークで、見事ステージをクリアし、歓声を上げる。

「よっしゃーー、クリアです!」
「勝ったね、シリカちゃん! ナイスアシスト、リズ!」
「これで無料スイーツゲットよーー!」

 きゃっきゃとはしゃぐ3人を見てため息を吐くキリト。

「君たち、ちょっとゲームし過ぎなんじゃないか?」

 あの世界ではチート級の力を持っていて、自他ともに認める程のゲーマーなキリトからまさかの一言にうぐっ、と息を詰まらせるのはシリカだった。

「うっ、き、キリトさんにそんなこと言われるなんて……」

 ちょっぴりはしゃぎすぎてしまった事もあってやっぱり恥ずかしさも出てきたのだろう。シリカは頬を赤く染める。でもリズはそんなのどこ吹く風。勿論、アスナも2人よりだ。

「だって~、いろんなお店でポイント貰えるのよ? やらなきゃ損ってものじゃない?」
「ほんとはキリト君も一緒にやりたかったんじゃない?」
「む……」

 図星をつかれた? と思ったアスナは顔を覗き込ませて笑う。キリトは誤魔化す様に頼んでいた紅茶を口に運ばせる。
 
 そこで、リズは別な意味で笑っていった。

「はっは~ん。さてはアレでしょ? 今日はいないもんね~? 想ってるヒトが着てないもんね~~?? アレでしょ。キリト。リュウキが一緒にいないからつまんな~い、ってヤツ??」
「ぶッッ!!」

 突然の射程範囲外からの強攻撃。まさかのダメージを受けたキリトは飲んでいた紅茶が変な所に入ったのだろう。思いっきりむせてしまっていた。

「そりゃーね。あんた達が息ぴったりなのは、傍で見てたらよーくわかるってもんだけどさ。 アスナの前でそれは不味いんじゃないの~? 不健全だと思うしぃ~」
「へ、変な事言うなよ! リズ! アスナからもなんか言ってやってくれ」
「ん~……」

 いつものアスナなら、キリトの事を睨んだりするかもしれない。でも今回は違う。何が違うのかと言うと、キリトの相手が女の子ではなく、男の子。つまり、リュウキだからだ。別な女の子と一緒にいたり、それを考えてたり、リズのいう通り そんなことを考えて、頬を緩ませたりしてたら、鉄拳正妻がもれなく発動する事間違いなし。

「もうちょっとしたら、リュウキ君もレイと一緒に来てくれるかもだよ? だから、我慢だよ、キリトくんっ! 明日なら会えるって!」
「うぐぐっ…… あ、あすな……」

 両手をぐっ、と握ってそう告げる。まるで『ファイトっ!』 と言わんばかりに。
 まさかの援護射撃が誤射したのを見て、キリトは更にうなだれた。

「ふふふっ でも、リュウキさんもレイナさんちょっと残念ですね。折角の無料スイーツなのに」
「ポイントくれるのは結構頻度あるけど、無料スイーツ券ともなったらねぇ~。ま、レイやリュウキの分まで、おいしく食べてあげるわよんっ! っと、レイにメッセージ送っておこっと」
「もー、リズ? レイをあまりからかってあげないでよ?」
「にっしし~」

 リズはすっ、すっ、と操作しつつ……改めて、このデバイスの便利さに感嘆する。 
 耳に取り付けているイヤホン型の機械。それに手を当てながら続けた。

「ほんと便利より、コレ。どこでもテレビ見られるし、スマホよりナビは使いやすいし、メッセも使いやすい。天気予報は助かるし、なんつっても……」

 そこでひょこっとアスナの肩に小さな妖精が舞い降りた。現実世界では見られる事の出来ない光景だ。

「ユイちゃんとも喋れるしね?」
「はいっ!」

 ユイも嬉しそうに手を挙げた。
 アスナも同じくだ。こうやって現実世界で一緒にいられることの楽しさは、かけがえのないもの。それが最愛の娘であれば尚更。

「《オーグマー》ねぇ……」
「勿論、パパが作ってくれた《通信プローブ》も大好きですよ!」
「キリト君ったら。機械にやきもち妬いてる?」
「そ、そんなんじゃないって」

 キリトはその機械……次世代ウェアラブル・マルチデバイス、オーグマーを身に着けてはいなかった。まだ、しっくりこないというのがキリト自身の感想だ。
 仮想世界、VRの世界にハマり過ぎていた故に、現実拡張であるオーグマー、ARの世界にはやや疎外感を感じる様子だった。

「あっ、確か前の文化祭。お化け屋敷でつけてたのって、試験的に貸してもらったコレのプロトタイプなんだったっけ、そういえば」
「はい。リュウキお兄さんの計らいで用意してもらえたとの事です」
「まーだ市場に出回ってないってのにね~ あーの規格外は」
「ふふ。そうですね。……私はあそこに入ってませんケド」
「あっはっは。レイとアスナは頑張って入ったんだよね~?」
「お、思い出させないでよー、リズっ」

 色々と騒いでた所に、ウエイトレスさんが、にこやかに営業スマイルを浮かべながら、無料スイーツを運んできてくれた。

「お待たせしました。こちら、クリアボーナスセットです」

 並べられたのは色とりどり鮮やかなスイーツの数々。
 一斉に、どれを食べたいか、指をさすと……綺麗に分れた。

「すっごいわねー、AIが好みまで把握して、こーやって選んでくれるなんてね。ディープラーニング、だったっけ? 気が利くわね~。んでも、誰かさんなら こうはいかないわよねー」

 その誰かさん、とは誰のコトだろうか?
 リズは正確には告げていないが、大体は判る。気の利いたセリフや気遣いはなかなか難しいもの。そして男である事は間違いないから、自ずと選択肢は限られる。
 クラインは兎も角、エギルは喫茶店の経営者とあって色々と敏腕だし、そして 候補の1人のリュウキ。あの男は、色々天然でさらっとやってしまう事が多々あったり、超高価な代物もさらっとあげてたり。嫌味な所は1つもなく、更にまだまだいろんなことに勉強中、と称して鈍感な所をカバー出来ていたりする。 何より、リズの言う様な嫌味っぽいセリフ? はリュウキには暖簾に腕押しだから、きっと使わないだろう。
 そして、何よりも この場にいないから言った所で意味はあまりない。

 と、いう事はまず間違いなく、言われているのはキリトの事。

 キリトもそれは重々判っていた為、ここで細やかながら反撃を。先ほどリュウキと自分ネタで盛大にからかわれた事もあるから尚更反撃。


「……そのAIは食べた物のデータも取ってるらしいぞ? 事細かく詳細に。しっかり自分の目で見といた方が良いんじゃないか?」


 キリトの一言で、リズは意識的に注視する。
 オーグマーは本当便利。AIは本当に凄い。

 自分が摂取している食べ物のカロリーもちゃーんと計算してくれて、表示してくれる。意識して見てみると、ばっちり目の前に現れる。

 その結果、表示されたのが赤い字の《WARNING》。

 流石はAIだ。AIにデリカシーなどと言うものは無い。正確無比に表示してくれる。目標接種キロカロリー数。現在の数値。……そして、ダメ押しが 同じく赤文字で。


『ちょっとまずいかも。カロリー取り過ぎですよ!』


 の警告。
 流石にキリトもリュウキもここまでストレートに言ったりしないだろう。
 
 リズはそれを見た瞬間、目の前がこの文字の様に赤くなった……気がする。
 出されたレアチーズケーキをかみしめて、かみしめて、飲み込み、そして会計した後、意識的に歩く速度を上げた。

 皆を置いていく勢いで。


「ふん、ふん、ふん、ふんっ!!」
「り、リズさん、どーしたんですかーー!」

 まるで唸り声をあげているかの様にせっせせっせと歩いていく。
 まるで、世界一歩行速度が速いと噂された平均歩行速度1.6m/秒の関西の人の様だ。シリカは駆け出して漸く追いつける程。本当に早い。
 
 その後ろをニコニコと笑いながら歩いていくのがアスナとキリト。
 
 アスナはしっかりとエクササイズに勤しみ、健康的な体型を維持している。勿論レイナも同じく。因みにキリトは ほっとくと簡単パスタ料理~とかで済ましてしまうから、健康的とは言い難い。運動不足だって以前も指摘されてるから尚更。

 その辺りが、双肩とも呼ばれてるリュウキにかなり後塵を拝している所であもある。
 だって、キリトが目指している男の子は運動神経まで抜群なチートだから。

 そんなキリトの表情に色々察知したアスナは 微笑ましく笑っていた。勿論、運動不足についてはしっかりと注意しないと、と心に決めて。

 そんなときに入るのは新着メッセージ。


玲奈 ――お姉ちゃん。スイーツ美味しかった??
 

 レイナからのメッセージだ。
 あの時に言ってた様に、リズがちゃっかりと送ったのだろう。画像付きのヤツをきっと。


明日奈 ――勿論だよ。

玲奈 ――むーっ、もーちょっとだったのに。羨ましいなぁ。

明日奈 ――もうちょっとって事は、レイ、こっちにはこれそうなの?

玲奈 ――うんっ。モールには着いたし、今向かってるよー。皆もいるからね?

明日奈 ――皆? リュウキ君だけじゃなくって?

玲奈 ――ユウキさんとランさんが時間取れたみたいなの。今、私達のオーグマーに着てるよ。

明日奈 ――そっか! 楽しみにしてるね? 今1階。西側付近を皆で歩いてるから、直ぐに来てね?

玲奈 ――りょーかいっ!


 レイナとのメッセージのやり取りをしてた所に、リズが乱入。


里香 ――超が付くゲーマーさんたちと一緒なら、ボーナススイーツなんて、ラクショーでしょ? レイ。

玲奈 ――もっちろんだよっ! もうっ、リズさんが何枚もスクショを送ってくるから、私も食べたくなっちゃったんだからねー! でも、皆と合流するのを優先するっ。

里香 ――流石~ 喜びは皆で分かち合う! 素晴らしい精神だわ。レイ。

玲奈 ――見せびらかしたのは、何処の誰だったのーーー! ぷんぷんっ!

明日奈 ――レイ? 夢中になるのは良いけど、ちゃんと前向いて歩いてよ? 転んだりしない様にね。

玲奈 ――わかってるよー!

里香 ――レイは前科があるからな~。ふふっ、ちょっと心配。

玲奈 ――もうっ! リズさん! これでメッセージ終わりっ! 早く向かうから待っててね!


 ここでやり取りは終了した。

「どうしたんだ?」

 アスナが笑っている事に気付いたキリトは、アスナの顔を覗き込む。

「ふふ。もうすぐ判るよ。ねー、ユイちゃん」
「はいっ!」

 アスナとユイは示し合わせて笑っていた。メッセージのやり取りを横から見る、と言う事はユイには朝飯前。……でも、流石にそれはプライバシーな問題もあるので、アスナが許可した時に限り、だ。
 つまり、今回のやり取り、メッセ―ジは ユイに見せている。もうちょっとしたら、レイナやリュウキ、そして 話に上がってたユウキやランと合流できる、会える事に嬉しくなった様子。

 でも キリトは よく判ってなかったりする。


 リズはと言うと、キリトとアスナ、ユイのやり取りを遠目で見ていて、キリトは気付けてないんだろうな、と思ったら何だか笑えたから にしし~ と含み笑いをしていた。
 因みにリズを追っかけていたから、一緒にいたシリカは別の意味で笑顔だった。

「それにしても、ユナのファーストライブに帰還者学校の皆が無料招待されるとは思いませんでしたね!」
「そういえばそーね。オーグマーをくれるだけじゃ飽き足らず、まさに太っ腹。ほんと、ユナの大ファンで良かったわねー、珪子」
「そ、そこまでじゃないですよ!」
「……こやつめ、誤魔化せてるつもりなのかしら? この間カラオケで熱唱してたじゃないの。直葉と。オマケに、ALOじゃ歌姫って名を持ってるからって、レイナも誘い込んでて。ほーら、みんなにも聴かせてあげなさいよ」

 リズが起動させたのは、ARを使った即席のステージ。ライトアップされ、シリカがその中心に立つ。ちゃんと音響も完備されていて、小さなステージの上と言っても過言ではない精度のものだった。

「わ、わわっ! ちょっと り、里香さんっ!?」
「ほらほら~ ミュージック~~~スターートッ!」

 リズのワンプッシュで、曲が始まる。立派な舞台、そして大好きなユナの曲。それらが大音響で流れ出て……、内なる疼きにシリカは抗えなかった。
 く~、と何度も何度も耐えていたんだけれど、最後は無理。オーグマーの専用ステッキを手に持ち、起動させると、それがマイクへと変化。

 歌を熱唱した。

 ポージングも決まっていて、宛らライブハウスの様だ。
 オーグマーを身に着けている者が殆どだから、シリカの歌声と曲に合わせて、皆の視線が集まる。
 上手く歌えているだろうコトは、観客と化したお客さんたちの表情を見てみれば一目瞭然だ。子供たちは一緒になって歌をうたい、男達はシリカに釘付け。同学年であろう学生達も皆が足を止めていた。

 勿論、キリトやアスナも一緒。ユイもリズムに合わせて翅を動かして、手を挙げていた。


 やがて歌が終わり、光が消失したのと同時に、拍手大喝采。
 歌をうたっていた時は気持ちよかった為、周りは一切見えず、考えもしなかったのだが……今になってみれば、このショッピングモールの中心で歌を披露していた、と言う事だから、本当に今更だが恥ずかしくなったようで、いたたまれなくなり、ぴゅ~ と逃げるようにその場を離れた。

「お疲れ~」
「すごくお上手でした!」
「あぅ~~…… は、恥ずかしかったです」

 シリカが恥ずかしそうに頭を抑えていたその時だった。


「お疲れ」
「あははは。やっぱり珪子ちゃんは上手だよー。私より上手だってっ!」


 後ろから声が聞こえてきた。
 この場にはさっきまではいなかった筈の人たちのもの。キリトでもアスナでもなく……。

「りゅ、リュウキさんっ!? それにレイナさんもっ!?」

 合流を無事果たした2人だった。
 そして、勿論オーグマーを起動させると……。


「すっごく上手だねー、シリカ! ボク、もっと聞きたかったよー」
「はい。曲に合わせた振り付けも、素敵でした。次は是非、ALOでも歌っていただきたいですね」

 ユウキやランも一緒だった。


 皆に褒めに褒められて、この後 暫くシリカの顔色は赤一色になるのだった。




 
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