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人理を守れ、エミヤさん!

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そこまでにしておけ士郎くん!





「これは酷い」

 帰還後、戦闘記録を閲覧した某優男の感想がそれ。

「ラムレイ号ぉぉぉ!」

 失われた命を嘆く某天才の悲しみの声。

「好機だった。今なら殺れると思った。今は満足している」

 被告E氏は意味不明な供述を繰り返しており、爆破幇助についての反省は終始窺えませんでした。

「死体蹴り? ……基本じゃないのか?」

 実行犯はそう検察側に語り、再犯の可能性は極めて高いと言わざるをえず、重い実刑判決が下されるものと見て間違いないとカルデア職員一同は――









 ――四連する大爆発。土台から崩れ落ちたオルレアンの城。アルトリアはそれを見て思わず動きを止め、マスターである男を振り返った。

 力強く頷く顔に達成感はない。冷徹に次の手を算段する冷たさがある。それは、衛宮士郎の前に契約していた男を彷彿とさせる表情とやり口。
 しかし今のアルトリアにそれを疎む気持ちはない。現金な性質なのか、それをやったのが己の現マスターであるというだけで、許容できてしまっている自分がいた。それにここまで冷徹にことを推し進めなければ勝てない戦いもあるのである。

 今カルデア最大の敵は時間だ。速攻は義務であり、確実な手段に訴えるのは当然のことだった。
 マスターの男、衛宮士郎は一切の衒いなく、冷酷に手札を切る。城を倒壊させた程度でサーヴァントを倒せるものではない。

「畳み掛けるぞ。令呪起動(セット)、システム作動。『宝具解放』し聖剣の輝きを此処に示せ」
「拝承致しました。我が剣は貴方と共にある。その証を今一度示しましょう」

 聖剣を覆っていた風の鞘を解き、露になった黄金の光を振りかざす。
 大上段に構えての、両手の振り抜き。オルレアン城の残骸に向けて、己の勘に従って「約束された勝利の剣(エクスカリバー)」を振り下ろす。

 星の極光が轟き、光の奔流が瓦礫の山を斬り抜けていく。誰も視認すら出来なかったが、この究極斬撃は敵方のアサシン、ファントム・オブ・ジ・オペラと天敵のバーサーカー、ランスロットが霊体化し、瓦礫の山から脱出しようとしていたところを捉えた。  断末魔もなく二騎のサーヴァントが脱落。それを確認する術などなく、偽螺旋剣を武器庫から取り出し、魔力を充填。真名解放し、瓦礫に打ち込む。
 そして再びの爆破。

停止解凍(フリーズアウト)全投影連続層写(ソードバレルフルオープン)

 更にあらかじめ投影していた無数の剣弾を解凍し、虚空に忽然と姿を表した二十七弾の掃射を開始。
 オルレアンを更地にせんばかりの怒濤の追撃(死体蹴り)である。
 ほぼ全ての工程をカットした斬山剣『虚・千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)』を含めた全てを爆発させ、剣林弾雨は比喩抜きの絨毯爆撃と化した。
 土煙が舞う。
 半死半生、片腕を無くし、決死の表情で土煙から飛び出して士郎に向かうシャルル=アンリ・サンソン。黒い外套も吹き飛び、もはや手にする斬首剣の一振りに命を注ぎ込んでの突撃だった。

 マシュとアルトリアが即座に立ち塞がる。だが、それよりも早く、動く者があった。

「正面から行くとは、底が知れるぞ処刑人」

 背後。土煙に突入していた深紅の暗殺者の銃撃が瀕死の処刑人を穿つ。体から力が抜けた瞬間、伸ばされた腕がサンソンを土煙の中に引きずり込み、更に乾いた発砲音が響く。土煙が晴れた時、そこにはもう何もなかった。
 士郎はその全てを見届け、首筋に冷たい汗が流れる。その斬首剣を見ただけで解析・固有結界に貯蔵し恐ろしい能力を知って戦慄したのだ。

 サンソンの宝具『死は明日への希望なり』――由来は罪人を斬首する処刑器具のギロチン。真の処刑道具、ギロチンの具現化。
 一度発動してしまえば死ぬ確率は呪いへの抵抗力や幸運ではなく、『いずれ死ぬという宿命に耐えられるかどうか』という概念によって回避できるかどうかが決定される。
 精神干渉系の宝具であり、戦死ではなく処刑されたという逸話がある対象には不利な判定がつく。中距離以内で真名を発動させるとギロチンが顕現し、一秒後に落下して判定が行われるのだ。

 これを確実に防げるのは、そもそも死の運命にはなかったはずのアルトリアだけ。マシュは不明だが、士郎は確実に死に、アサシンの切嗣もまた同様だろう。
 天敵と言える。接近されていれば不味かった。アルトリアがいたとはいえ、肝の冷える瞬間だった。

 ……まだ攻めが甘かったということだ!  士郎は躊躇わなかった。

「総員退避! ラムレイ号、突貫する!」

 決断した士郎は更に追撃(死体蹴り)を敢行。
 えっ、と声を上げた騎士王を無視し、士郎は自動操縦モードを起動。ただ真っ直ぐ走るだけの機能は士郎が注文して付けていたものだ。
 乗り手もなく疾走する黒い獅子頭のバイクは、もはや瓦礫すらも消し飛び更地となっていたオルレアン跡地に突っ込んでいき――トドメの爆撃となった。

壊れた幻想(ブロークンファンタズム)ッ!」
「ら、ラムレイぃぃっ!!」

 悲痛な騎士王の嘆きは爆音に掻き消された。この瞬間、海魔を壁として耐え続けていた青髭は、十三本の投影宝具の一斉起爆に巻き込まれ消滅。
 庇われていた竜の魔女もまた、己の『所有者』の消滅を以って偽りの人格は剥がれ落ち、ただの『器』となって消滅した。

 ……そこにあったかもしれない両者の最期のやり取りを、知るものは皆無。

「――敵消滅を確認。お疲れさまでした先輩」
「ああ、なんとか上手く行ってくれてよかった。こんな無茶苦茶なこと、もう二度としたくない。確実性がどこにもなかったんだからな」

 ふぅ、と息を吐き、なぜか膝と両手を地面についているアルトリアに首を傾げつつ、出現していた水晶体の聖杯を回収に向かう。

「……聖杯の回収を確認。馬鹿げた魔力だ。なるほどこれを手にした者が万能感に酔いしれるのも分からないでもない」

 特異点の原因を排除し聖杯を回収したからだろう。この特異点が元の歴史に戻るため修正が始まっている。じきにこの世界は消滅し、なかったことになるだろう。

 だが、それでいい。なんの問題もない。名誉も、功績も残らないが、そんなものを求めたことはないのだから。

「さ、帰るぞ皆。次の仕事が待っている」

 ドクター・ロマンから通信が入り、聖杯の回収を確認したこと、レイシフトの準備が完了していることを知らされる。
 次の特異点は、ここほど急ぐことはない。駆け足なのは当たり前だが、しかし新たな強力なサーヴァントの召喚が決まっている。取れる戦術は増え、確実さを増した手段も取れるようになる。焦ることはなかった。

 まあ、その前に、一日ぐらい休んでもいいか、と思う。流石に休養もなく走り抜けていたら、倒れてしまうだろうから。







 第一特異点「邪●百●戦●オルレアン」定礎復元







 
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