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干支の巫女

作者:炎の剣製
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制御困難の火竜編
  004話 力の制御と干支の巫女とは

 
前書き
更新します。 

 

リューグとの生活が始まって三日くらい経過した。
その中で私はというと、釣りをしていた。
や、遊んでいるわけじゃないんだけど毎回リューグの手を煩わせるわけにもいかないしね。
というか、ついにというか、やっとかと言うべきか、スマホの電池が切れたので画像も見ることが不可能になって少し落ち込んだりもしていた。
でも、めげない!
そう思っていると釣り竿に獲物がかかった手応えを感じたのですぐに引き上げる。
糸の先には一匹の魚がかかっていたので、

「よし。今日初めての魚をゲット!」

……そう、初めての…。
喜んではみたものの、少し気落ちをしてしまう。
異世界と言ってもやっていることはもとの世界でのアウトドアとそう大差はないのだから。
空を見上げればまだ日は天辺当たりだからお昼時くらいかな?
この世界って季節感があるのかどうか分からないからどう判断していいか分からないしね。
ま、頑張っていこう!


それから頑張って5匹くらいは釣れた事に喜びながらも、リューグの洞窟に戻った。
リューグは洞窟の奥の方で特訓しているらしく、鶴の恩返しみたいに絶対に覗いてはいけないというわけではないんだけど、私が近くに行くと気が散って力の制御ができなくなるかもしれないのでまだ特訓の光景を見たことがない。
どういうものなのかなーと興味が湧きだしていた時だった。
ズンッ!というまるで地面が縦揺れを起こしたような地震が起きて、洞窟内が盛大に揺れる。
何事!?と思いつつも私はリューグの事が心配になって洞窟の奥の方へと走っていった。
少し洞窟の中を散策している中で私は見た。見てしまった…。

「ぐっ、ぐぅううう!!」

リューグの周りを大量の炎がまるで旋回しているように渦巻いていて、その炎はまるで竜のような形をとって何度も、そう何度もリューグを痛めつけて肌を焦がしている。
力の制御と聞いていたから訓練みたいなものだと私は勘違いしていた。
そんな生半可なものじゃなかった。
リューグはまるで己の影と戦っているようで…。
なぜかは分からないけど、胸がとても締め付けられる。
リューグの事なのに、まるで私もリューグの痛みを感じているような…。
自意識過剰と言われてしまえばそうかもしれないんだけど、なぜかそう感じてしまうんだ。
気づけば私はリューグのもとへと走り出していた。

「ッ! ルカ! こっちに来るんじゃない! 巻き込まれるぞ!!」

リューグがなにかを言っているみたいだけど今は聞いてあげない。
どうしてか分からないけど、今…リューグの力の暴走を止められるのは私なんだって変な確信があるんだ。
そしてついに私はリューグの体に触れることができた。
その瞬間だった。
リューグを取り巻いていた炎の竜は私に向かって覆いかぶさろうとして来ていた。
だけど、自然と大丈夫だって思った。

「ルカ!!」
「大丈夫だよ、リューグ…私は平気だから」

確信とともに、私の目の前まで来た炎の竜はまるで掻き消えるように私のかざした手の中に入っていった。
そして私の中に何かの力が宿ったのを感じられた。
でも、そこで私の意識は薄れていった…。

「ルカ……」

リューグは気絶してしまったルカを抱えながらも思案をしていた。
先ほど、ルカはリューグの炎の源である炎竜を己の中に吸収してしまった。
だが、そのすぐ後にルカの体を通じて再びリューグの中へと戻っていったのだ。
そしてリューグはある意味悟りを得た。
力が制御できているという事に…。

「ルカ…君はやはり…『干支の巫女』なのか…?」

リューグのそんな呟きは気絶しているルカには聞かれる事はなかった。



…………ん?
あれ? なんで私は寝ているんだっけ?
なにかさっきまで頭がやけにクリアになっていたみたいな感覚だったけど…うーん、分からない。

「起きたか、ルカ…」
「はれ…? りゅーぐ…?」

気づけば私を見下ろすようにリューグの顔があった。なぜか頭を撫でられている。
え? これ、どういう状況?
もしかして私は今、リューグに膝枕をされていたりしたり…?

「あ、あのリューグ!」
「ああ、今は動くな。ルカは力を消耗してしまっているからな」
「力の消耗…?」

そういえば、なんか少し体がだるいような…。
これってどういう事…?

「リューグ、私…なにかやっちゃったの?」
「覚えていないのか。では無自覚であれをしたって事なのか」

わー、私なにをしちゃったんだろ?もしかしてリューグの訓練の邪魔をしちゃったのかな。
思い出そうとしてもどうにも記憶に靄がかかっているみたいで思い出せない。
これはリューグに聞いた方が早いのかな。

「リューグ。なにがあったか教えてくれないかな」
「ああ、いいだろう。多分だが今後もルカはこのような状態になることが増えると思うからな」
「このけだるいような感覚に?」
「うむ。と、その前にまだルカには話していないことがあったな」
「話していない事…?」
「ああ。この洞窟での力の制御は聖なる力を引き継ぐ過程で受け取ったためにまだ制御できていなかったんだが…その引き継いだ力というのがスピリチア大陸を守る十二支の家系の事なんだ」
「十二支? それって…もしかして子から始まって亥で終わる十二匹の動物の事?」
「そうだ。ルカの世界にも十二支の話が伝わっているなら好都合だな。その十二支の中で俺は【辰】の力を引き継いでいるんだ」
「辰…あ、だからリューグは竜の姿になれるんだね」
「正解だ。ルカは理解が早くて助かるよ」

十二支かぁ…。
って事はリューグ以外にも11人の力を引き継いでいる人がいるってことなのかな?
でもなんでリューグは今になってその話を私に話してくれたのかな…思い当たる節はなくはないんだけどね。

「ねぇリューグ。それってもしかして【干支の巫女】となにか関係があるの…?」
「ッ!」

あ、リューグの表情が驚きの顔になっている。
ふふん。私もバカじゃないんだからそれくらいは推測くらいはできるんだからね。
しばらくしてリューグは言葉を選ぶようにゆっくりと話し始めた。

「まぁ、その通りなのだがな。ルカが俺の身にしたことから確信も得ているしな」
「やっぱり、なんかリューグにやっちゃっていたんだね…」

それで少しどんよりとした顔になってしまう。
きっと邪魔をしちゃったんだよね。今すぐに謝らないと。

「ごめん、リューグ! 特訓の邪魔をしちゃったよね!」

私は正直にリューグに謝った。
今は力があまり入らないから立って謝れないのが悔しいな…。
だけど、リューグは少しポカンとした顔になっていて、少しして「ククク…」を苦笑いを零しながら、

「いや、ルカは謝らなくていい。むしろ俺はルカによって助けられて力の制御もできるようになったんだからな」
「えっ? それってどういう事…?」
「ルカは覚えていないだろうが、一回ルカは俺の力をその身に吸収して、さらには俺にその力を返還して安定化させてくれたんだ」
「え!?」

私、そんな事をしていたの!?
というよりそんな事が出来たの!?
それで私は己の知らない力にあわあわしていたところ、リューグはまた苦笑をしながらも、

「まだルカは魔気を感じ取れていないから分からないだろうが、ルカと俺との間に魔力間での繋がりができているんだ」
「そんな事が…」
「そしてそんな事が出来るのはまさしく【干支の巫女】しかできない事なんだ」

な、なんか混乱する内容ばかりだけど、やっぱり干支の巫女って私の事なんだよね?
実感がわかないけど確かになにかリューグとの繋がりをうっすらとだけど感じ取れるような気がした。
だけどまだ分からない事がある。

「その、そもそも干支の巫女って何のことなの?」
「はは。それも説明しないといけないな。今後、悪しきものにルカの身が狙われるかもしれないから事前の心構えだけでも持ってもらった方がいいしな」
「怖いこと言わないでよ…」
「すまんすまん。だが、もう他人ごとではなくなってしまったからな。教えよう」

リューグ曰く、【干支の巫女】とは世界になんらかの危機が迫った時に出現するという古い言い伝えがあり、十二人の選ばれた干支の戦士達を携えて世界を救済する役目を担うという。

「しかし、まさか干支の巫女が異世界から召喚されるものだというのは初めて聞く話だったな」
「そうなの…?」
「うむ。先代の十二支の方々の時には現れなかったというからな…伝承に残っているんだから過去の文献を紐解けばなにか発見できるかもしれない。
だが、なにせ先代の十二支が戦った大戦は千年も前の事だったからな。それ以前のものが残っているのかすら怪しい」
「せ、千年前…!? それって、もう誰も生きていないんじゃないの!?」
「いや、我ら精霊族は人族とは寿命がかなり違うからな。人間でいう100年が俺達にはほんの5,6年くらいの感覚だからな」
「エー……すごい」
「言っただろ? 四大陸の繁栄と衰退を手は出さずに見守ってきたと」

確かにそう聞いたけど、改めて驚きの内容でしかない。

「だからな。運よく俺がいたこの森に転移してきたのはルカにとってはとても運がよかったとも言える。もし北のアブゾートなんかに召喚されていたら危険な魔物に襲われていた可能性が大だからな」
「た、確かに……」

それで顔の血の気が引いていく感覚に陥る。
私、リューグと運よく出会えたことはとても幸運だったんだ…! やっぱり日頃の行いがよかったからなんだね。

「まぁ、こんなところか。だが、そんなすぐに世界に危機が迫るとも限らんしな。ルカもそんなすぐに身構えることもないと思う」
「そ、そうだよね…」
「それとは別として考えないといけない事がある」
「考えないといけない事…?」
「この世界に来る前にルカを襲ったという怪異はなんでルカの事を最初から【干支の巫女】という事を知っていたかだ」
「あ…そうだね。確かにそれは謎だよね」
「それに、異世界にわたる術を少なくともそいつは持っているという事が伺えるから気を付けないといけない。ルカも今後は多少は警戒をしていないとな」
「そ、そうだね…」

こうして多少の謎は残ったものの、リューグの力の制御ができたのは良い事だから素直に喜ばないとね。
だけど、なんで私は【干支の巫女】なんかに選ばれたんだろ……? これも頭の片隅にメモしておいた方がいいよね。


 
 

 
後書き
いくつか謎を残しました。
今後、いつか判明するものかと。 
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