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社会人共がクトゥルフやった時のリプレイ

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ある学校の階段の怪談
  Part.1

 さてさて全員揃いましたし、そろそろ始めていきましょう。TRPG【クトゥルフ呼び声】のセッションを始めます。

「「「「はーい」」」」

 今回のプレイヤーは4人。GMは私、射命丸の中の人が務めさせていただきます。
 シナリオはpixivに掲載されております、あぁ無情様作成の【ある学校の階段の怪談】を私なりに少しアレンジしたものとなっております。

「シナリオ背景とお勧め技能を教えてくれ」

 舞台は2015年の日本、夏の夜の廃校となった高校の校舎です。時刻はそうですね、午前2時としましょうか。

「丑三つ時の廃校、しかも季節は夏か。肝試しに来たみたいだな」

 そうですね。肝試しでも誰かからの依頼でも取材でも構いません。あなたたちがなにか、ごく自然な理由で同時にそこに訪れることができるのならば動機は割とどうでもいいです。
 さて、まずあなたたち4人にキャラクターシートを作成していただくわけなのですが、1つ制限を加えさせていただきます。

「制限?」

「職業縛りとかかな?」

 まぁそんな感じです。制限というより、シナリオを円滑に進めるための処置ですね。
 あなたたち4人……まぁ正しくは私のほうで用意したNPCを含めた5人は全員顔見知りでそこそこの交友がある、もしくは過去に交友があったという設定にしてください。自然な物であれば職業はバラバラでも構いませんが、ある程度纏まっていた方が楽かもしれませんね。
 推奨職業は【学生】【探偵】【犯罪者】【ジャーナリスト】です。技能も普通の探索技能を推します。《目星》《聞き耳》《図書館》ですね。

「なるほど」

 ただそれはGMである私の単なる我儘。ある意味TRPG一番の楽しみであるPC作成に制限を掛けてしまうお詫びとしまして、今回のセッションはいつものキャラ作成時に決めていただくPCの特徴2つを、1つは自分の好きなもの、もう1つは1D6と1D10でランダムに決めていただきます。強制バッステ付与がなくなるということです。

「なるほど、いいですね」

「探索者にとってもそうしてもらった方がありがたいし、ちょっと気合を入れるとするわ」

 ご協力感謝します。では皆さん、自分の分身となるPCを作成してください。

「「「「はーい」」」」

「……あ、自分の《STR》3だ」

「粗大ゴミがいるわね……あ、私の《SIZ》9ね。お子様体型だわ……」

「あんたらは……あ、俺の《APP》5だ。《STR》も平凡だし、どうしようもないな……」

「私は普通なんだけど……みんな、ステータスが極端だね」

 ……大丈夫なんでしょうかね。


     ――――・――――・――――・――――


 はい。決まったようですね。
 ふむ……なるほど。設定からしまして皆さんはかつて同じ高校に通い一緒に遊んでいた同級生で、最近同窓会で再会したのを機にこの肝試しに参加したと。いいですね。これなら職業で喧嘩することもなさそうです。
 では順番に自己紹介をお願いします。

「ちょっと待ってほしいでヤンス」

 どうしましたか? というかなんですかその喋り方は?

「こっちにもいろいろあるでヤンスよ。それで1つ確認したいことがあるでヤンスが、小生以外のみんなの性別はどうなっているでヤンスか? 小生は男でヤンス」

「その喋り方で女だったら本当にヤバいわよ。私は女ね」

「自分も女」

「私も」

「《APP》はどうでヤンス?」

「12」

「17」

「13」

 美女がいっぱいですね。良かったじゃないですか、ハーレムですよ。

「あー、そうなんでヤンスが……小生のキャラシートを見てもらうでヤンスか。小生の名前は滝谷誠。34歳のジャーナリストでヤンス」

滝谷 誠
性別:男 年齢:34歳
職業:ジャーナリスト 特徴:鋭い洞察力 眼鏡を掛けている
STR:14 《幸運》65   《言いくるめ》65 《こぶし/パンチ》70
CON:12 《アイデア》50 《説得》65
POW:13 《知識》80   《写真術》80
DEX:07 《母国語》80  《心理学》60
APP:05 《回避》14   《図書館》65
SIZ:12 《耐久力》12  《歴史》70
INT:10 《MP》13   《聞き耳》80
EDU:17 《DB》+1D4 《目星》80
SAN:65 《年収》300万 《英語》56

 《APP》が5ですか……。というかその喋り方ということはオタクモードですね。

「そうでヤンス。一応設定としては原作の滝谷と同じで、そこそこのイケメンでヤンスけど瓶底眼鏡に出っ歯、この喋りのせいで一気に偏差値が下がった感じに作ってみたでヤンス」

 なるほど。

「それで、なんで小生と仲良くしてくれているんでヤンスか? 《APP》高めの美女さんたちが」

「いや、知らないわよ。適当に幼馴染だったからとかでいいんじゃないの?」

「自分は……うん、設定的に滝谷が自分のファンで、良くしてくれていたからってことでいいか。悪い人じゃないしな」

「私も普通に友達ってことでいいと思うな。……あ、職業柄今も頻繁に会っているってことでいいかしら?」

「勿論でヤンス。申し訳ないでヤンス、ちょっと面倒なキャラになってしまって」

 あなたも不運ですね、シナリオ中ずっとその喋り方で行くんですか。

「大丈夫でヤンス」

 《APP》以外は比較的纏まっていますね。探索技能系もしっかりとっていますしよろしいでしょう。……どうして《こぶし/パンチ》に技能を?

「余ったからというのが1つ。あと職業柄多少とはいえ物騒なものに巻き込まれやすいでヤンスからねぇ、護身用として少し嗜んでいるんでヤンスよ」

 なるほど。それならよろしい。では次の人、お願いします。

「八意永琳。年齢33歳の大学教授。専攻は医学と化学よ」

八意 永琳
性別:女 年齢:33歳
職業:医科大学教授 特徴:愛読家 親の七光り
STR:12 《幸運》70   《信用》80  《薬学》66
CON:09 《アイデア》65 《説得》65
POW:14 《知識》85   《図書館》59
DEX:10 《母国語》85  《心理学》66
APP:12 《回避》20   《医学》80
SIZ:09 《耐久力》09  《化学》74
INT:13 《MP》14   《聞き耳》60
EDU:18 《DB》±0   《英語》53
SAN:70 《年収》1000万《目星》65

 今回の肉体面でのヒーラーはあなたですか。それにしても随分と小さな永琳さんですこと。

「148センチ程度ね」

「ちっさいな、中学校低学年レベルだぞ」

「いいのよ、その分頭がいいから。親のコネもあるけどそれに負けないくらいの成績で大学の教授になったわ。精神科の知識はあんまりだけど患者さんの気持ちを理解できるように《心理学》を齧っている。あとはバランスよく纏めてみたわよ」

 特に問題はないですね。それでは次どうぞ。

「我那覇響。33歳の元アイドル。今はタレントをしているぞ」

我那覇 響
性別:女 年齢:33歳
職業:元アイドル 特徴:芸術的才能 おしゃれ
STR:03 《幸運》50   《跳躍》65
CON:17 《アイデア》85 《芸術(ダンス)》80
POW:10 《知識》50   《芸術(歌唱)》80
DEX:16 《母国語》50  《心理学》65
APP:17 《回避》32   《信用》60
SIZ:14 《耐久力》16  《聞き耳》80
INT:17 《MP》10   《目星》80
EDU:11 《DB》±0   
SAN:50 《年収》1500万

 《芸術》が2つともMAX値というところにロマンを感じさせますね。結構好きなキャラですよ。尤もこのシナリオにはあってないようなスキルですが……まぁ、無難に《目星》と《聞き耳》も取っていることですし、いいでしょう。
 というかあなたですか《STR》3って。お箸を持つのにやっとですのにマイクなんて持てるんですか?

「特注品のマイマイクを使っているから大丈夫だぞ」

「というか《STR》3の人がまともに踊れるんでヤンスか?」

「体力や健康状態は《CON》を参照するから問題ないはずだぞ。自分の《CON》は17あるからな」

 元気いっぱいですね。

「じゃあなんで《STR》が3なのよ」

「それはダイスの女神のお導きだから仕方がないぞ」

 ある意味異常体質のビックリ人間として引っ張りだこになっているでしょうね。体力は有り余っているのにお箸持つのでやっとなんですから。
 ではラスト、お願いします。

「毛利蘭。34歳の現職刑事よ」

毛利 蘭
性別:女 年齢:34歳
職業:刑事 特徴:俊敏 目つきが悪い
STR:16 《幸運》55   《言いくるめ》46  《キック》80
CON:12 《アイデア》70 《聞き耳》80
POW:11 《知識》70   《心理学》56
DEX:13 《母国語》70  《説得》45
APP:13 《回避》65   《追跡》60
SIZ:15 《耐久力》14  《法律》51
INT:14 《MP》11   《目星》65
EDU:15 《DB》+1D4 《組みつき》70
SAN:55 《年収》500万 《武道(柔道)》68

 ああ、やっとまともなステータスのキャラが出てきました。安心感が半端ないですね。というか目つき悪いんですか蘭ねーちゃん。

「お父さんの影響もあって刑事になったら目つきが刑事のソレになったって感じかな」

 それにしても珍しい。あなたが《目星》を取るなんて。

「今回のシナリオは探索系って言っていたからそれなりにね」

 いつものようにロールプレイでカバーするとか言わないんですか?

「職業が刑事だから仕方ないよ。全体的に面白味のない技能ばっかりなんだし」

 じゃあなんでその職業にしたんですか。

「刑事をやってみたかったの。私実は初めての刑事なんだから。どんな風にロールプレイしようかなって」

 ああ、お試し的な感じですか。まぁそんなに難しいシナリオではないので大丈夫かと。
 さて皆さんの自己紹介も済みましたし、早速シナリオの方に……おっと、忘れるところでした。まだ紹介していなかったPCが1人いました。

「誰?」

 今回肝試しに行こうと言い出した発起人であるNPCです。
 名前は田中俊。職業は決めていませんが、適当な力仕事を専門とした職業ということにします。性格は……ぶっちゃけテンプレなチャラ男。三十路を過ぎてもそれは変わらずちょいちょいうざいですが、根は決して悪いやつでなく親しみやすいそこそこ優秀な人間です。

「咲の池田氏みたいなお人と思っていいでヤンスか?」

 ああ、それで構いませんよ。
 これで役者は出揃いましたし、早速シナリオの方へ移らせていただきましょうか。あ、これはちょっとしたGMからの忠告なのですが……くれぐれも悪い行動は控えるようご注意ください。

「「「「え?」」」」


     ――――・――――・――――・――――


 都心から離れた山奥。
 現在時刻午前2時、辺りはすっかり暗くなり、時折吹く風の木を揺らす音くらいしか耳に入らないほどに静まり返った、妙に不気味な雰囲気を感じさせる夏の夜のある日のこと。
 あなたたちは友人の田中に誘われて肝試しをするために、そんな山奥のとある廃校の前に集まりました。

「校舎はどんな感じなのかしら?」

 小さな2階建ての古い校舎です。ちなみに体育館はありません。あなたたちはそんな古い校舎の前にある小さなグラウンドに集まっています。
 さてさて、ここで皆さんに《知識》ロールをお願いします。

 滝谷《知識》80 → 69 成功
 永琳《知識》85 → 85 成功
 響 《知識》50 → 12 成功
 蘭 《知識》70 → 16 成功

 お、全員成功ですか。幸先良いですね。ではあなたたちは田中を含めて全員、この廃校のことをある程度知っています。
 なんでも高度成長期に余った予算を使って作られたものの、山間部の人口の減少によって20年前に廃校になったそうです。
 とにかく校則が厳しいことで有名で、風紀を乱す違反者には社会問題に発展しかねないレベルのキツい仕置きをしていたこともあるという噂まであります。おそらくそれが廃校になった理由の1つだったのでしょう。
 ではなぜそんなことをあなたたちが知っているかといいますと……この学校にはある有名な怪談があったからです。

「怪談でヤンスか?」

 はい。その怪談とは、『この学校の屋上には死を招く彫刻がある』というもの。気に入らない人間の名前をその彫刻に刻むとその人間は呪われてしまうらしいのです。

「何だその怪談は。今度出るテレビのトークネタを作りに来たつもりだったのに」

「小生はもともとその彫刻について記事を書こうとしていたでヤンスし、実に興味深いでヤンス」

「私はみんなの目付役で来たんだからね? あんまり変なことしちゃダメだよ?」

 あなたたちはその事前知識を思い出しつつ改めて、廃校となった校舎を見つめます。
 夜の闇に包まれて暗く、当然電気も点いておらず、割れた窓ガラスをそのままにしている、壊れて時が止まった時計が掲げられている校舎は、怪談を抜きにしても気味が悪いことこの上ありません。そんなあなたたちの身体に言葉では形容しようのない悪寒が走り、それと同時に夏らしくない冷たい風が軽く吹き、鳥肌が立ちます。
 ……あなたたちには挨拶代わりに《SAN》チェックを受けていただきます。

「ええーっ!」

「え、早すぎじゃないかな!?」

「実際に夜の廃校なんて見たことを考えると仕方ないような気がするでヤンスが……なんか腑に落ちないでヤンス」

 滝谷《SAN》65 → 05 クリティカル
 永琳《SAN》70 → 41 成功
 響 《SAN》50 → 30 成功
 蘭 《SAN》55 → 82 失敗

「あ、私だけ失敗。何点の正気度減少かな?」

 挨拶代わりって言ったでしょう? 挨拶は1点と相場が決まっていますよ。蘭は1点の《SAN》値減少です。成功した3人に減少はありません。クリティカルの滝谷は……まぁ特にないですね。

「それにしてもなんだかその……怖いよここ、って感じで震えるよ。原作の毛利蘭もホラーは苦手って設定だしね」

 では蘭がそう怯えますと、軽く笑った田中が煽ってきます。

「なんだよ毛利、もうビビってんのか?」

「だって……」

「田中氏、あんまり女の子をイジメるのは良くないでヤンスよ」

「そうだぞ。大丈夫だぞ、蘭。完璧な自分が付いているからお化けなんて怖くないぞ」

「第一そんな非化学なものが存在するわけないでしょう、と蘭の背中をさすってあげる」

 さてさて廃校の前でいつまでもロールプレイしていないで進めますよ。と、その前に1つ。ここであなたたちの持ち物をチェックさせていただきます。

「持ち検? どうして?」

 この後のシナリオ展開に大きく左右するからです。あ、ちなみに絶対に持っていないといけないようなアイテムはありませんので、ふと思い浮かんだ肝試しに持っていくものを言ってくだされば結構ですよ。

「では小生から。懐中電灯、ライター、携帯電話、財布、カメラ、メモ帳にボールペン、それから煙草でヤンス。小生、喫煙者でヤンスから」

 なるほど。他の皆さんはどうですか?

「私も京太郎と同じかな」

「蘭あなた喫煙者だったの?」

「お父さんがヘビースモーカーだから」

「何でもかんでも小五郎のおっちゃんのせいにするのはどうかと思うぞ。自分は煙草とかライターはないぞ。御守りも追加して……あ、あとマイマイクを持っているぞ。音楽プレイヤーもだ」

 マイク!? 音楽プレイヤー!? なんでそんなもの持ち込んでいるんですか!?

「歌うからに決まっているぞ。心霊スポットで単独ライブだ。無料だぞ」

「それは楽しみね。あ、私はマイクとか音楽プレイヤー以外、響と同じよ」

 ふむ……そうですか。わかりました。

「なんでこんなチェックを今更してきたのかが気になるでヤンスが……ま、後々わかるでヤンスね」

「GM、私たちは肝試しに来たんでしょう? 早く学校内に入ろう。私は懐中電灯の明かりを灯すわ」

「あ。じゃあ私も懐中電灯をスタンバイさせるわ」

「勿論自分もだぞ」

「同じくだ」

 そうですね。ある程度の処理も終わりましたし、敷地に突入しましょう。

「あ、敷地に入ったところでマイクを取り出してライブするぞ」

 えっ。

「《芸術(ダンス)》と《芸術(歌唱)》で判定だ。蘭、自分のライブを聞くんだ! 元気付けてやるぞ!」

 響《芸術(ダンス)》80 → 04 クリティカル
 響《芸術(歌唱)》80 → 54 成功

 それでは響は音楽に合わせてマイクを片手にライブを始めました。
 持ち前の歌唱力もテレビで見るよりも元気でそれでいて綺麗な品のあるものでしたが、それ以上に音楽に乗って踊る彼女のダンスが別次元でした。
 その姿は翼を広げて大地を翔るクジャクのように華々しく、同時に湖から飛び立つ白鳥のように優雅でした。一曲歌い終わるときには田中は無意識のうちに拍手をし、学生時代から応援していた滝谷は感激の涙を流し、蘭は廃校への恐怖を忘れて笑顔を浮かべ、永琳は冷静を装っているものの目に見えて感動しているのがわかります。蘭ねーちゃんは正気度を元に戻しておいてください。雰囲気ぶち壊しですよ全くもう!

「ふぅ、久しぶりに踊ったけど楽しかったな!」

「我那覇氏……小生、感激でヤンス……まだ、まだ現役でもいけるでヤンスよ!」

「凄いよ響ちゃん! 私本当に感動しちゃった!」

「素晴らしかったわ」

「えへへ、そうかぁ? でもこれは友達のみんなの前だから出来たんだぞ。かっこ悪いところなんて見せられないし、何よりも怖がっている友達を元気にさせるのもアイドルだからな!」

 天使でしょうか?

「どっこい我那覇くんだぞ。さて、ライブも終わったし行こう。いつまでもここにいたらシナリオ始まらないしな!」

 誰のせいだと思っているんですか、このルーニーが。はぁ……シーン進めますよ。
 悪寒を感じつつもあなたたちは田中を先頭として校舎に向かって歩き出し、玄関まで辿り着きます。

「じゃあ私は最後尾でいいかな。みんなのことを見守りたいし」

「自分は3番目だ!」

「俺は2番目」

「じゃあ私が4番目ね」

「で、玄関はどうなっているの? 《目星》がいらない範囲でとりあえず教えてくれる?」

 この学校のほとんどの窓はガラスが割られていますが、この入口の窓ガラスだけは綺麗に残っておりぴったりと閉まっています。鍵もかかっていて開けることはできません。
 窓ガラスを隔てて向こう側に下駄箱があることを確認することはできますが、それ以上は中が暗くてよく見えません。《目星》を試みても仕方がありません。

「入らないと何も始まらないみたいでヤンスね」

「でもみんな《鍵開け》なんて持ってないわよね?」

「蘭、扉に向かって《武道》+《キック》だ!」

「ちょっとふざけないでよ! やるわけないでしょそんなこと!」

「困ったでヤンスね。GM、なんとか校舎内に入る方法はないでヤンスか?」

 ご安心を、ありますよ。
 《鍵開け》せずとも鍵は簡単な物ですからガラスを割って手を突っ込めばすぐに開錠できます。というか扉自体も老朽化していますので、近くに落ちているなにかで壊すこともできますよ。

「そうでヤンスか……それじゃあ早速ガラスを割るところでヤンスが」

「まぁその気になるよな。ゲーム開始前のGMの忠告がさ」

「くれぐれも悪い行動をしないように、だったよね。この学校が風紀に五月蠅い学校だったことも言ってたし、なんか抵抗感じるよね。窓ガラスを割るとか、扉を壊すとか」

「GM、ここ以外に入口はないのかしら? 確かこの校舎の窓ガラス、割れているのよね?」

 割れてはいますがとても人が入れるような大きさではありません。裏口の鍵はかかっているので結局入ることは出来ません。この玄関から入るのが一番でしょう。
 で、どうしますか? 壊しますか? 壊しませんか? 壊すのなら誰がどう壊すのですか?

「……小生は壊さないでヤンスよ」

「私も壊さないわ」

「《STR》3の自分に壊せるとでも?」

「勿論私も壊さないわよ。肝試しっていったって、法に触れるようなことをみんなにさせないためについてきたんだから」

 入ったらその時点で不法侵入なんですけどね。では誰も壊さないんですね? ならば……田中に壊してもらいましょう。
 いつまで経っても扉を壊そうとしないあなたたちを見て待ちきれなくなった田中は近くにあった石を拾ってガラスを割り、そこから手を突っ込んで鍵を開けました。

「あ、そういえばいたでヤンスね、田中氏」

「おめーらなにぼさっと突っ立ってんだよ。ほら、中に入ろうぜ」

 そう言って田中は持っていた石を放り投げて校舎内へ入っていきます。

「……とりあえず入るでヤンスか。田中氏だけを行かせるわけにもいかないでヤンスし、みんなもそれでいいでヤンスか?」

「ええ。それでいいわ」

「友達を放って逃げるなんて自分はそんなことはしないぞ。入るよ」

「あんまり荒らしちゃダメだよと言いつつ入るわ」

 了解しました。ではあなたたちが玄関から校舎内へ入って少し広い昇降口に集まります。ここでこの肝試しの言い出しっぺである田中が肝試しのルールを提案してきます。

「ルールは1人ずつ、屋上にあるらしい『死を招く彫刻』に自分の名前を刻んで戻ってくる。ただそれだけだと簡単すぎるから、途中でどこかの教室に寄り道してなにか1つを盗んでくること。以上だ」

「盗む……ですって?」

「怖い目で見るなよ毛利、言葉の綾だって。まさか本気で持ち出すわけじゃねえよ。終わったらもとにあった場所に戻すさ」

「……ならいいけど」

「じゃあ俺から先に行くぜ! 次に行くやつを決めておけよ!」

 そう大きな声を出して田中は1人で土足のまま階段を駆け上がっていきました。……とそのとき。全員、《聞き耳》判定をお願いします。

 滝谷《聞き耳》80 → 80 成功
 永琳《聞き耳》60 → 31 成功
 響 《聞き耳》80 → 51 成功
 蘭 《聞き耳》80 → 59 成功

 成功したあなたたちは先程入ったばかりの玄関の扉から音がすることに気付きます。見てみると誰も触れていないのに玄関の扉が勝手に、ひとりでに閉まっていきます。
 腐った木の音を鳴らしながら少しずつ、しかし確実に閉まっていく扉。あなたたちはその異様な光景に釘付けになってしまい動くことができません。
 そして……バタン、という音を立てて扉は閉まり、さらに鍵までも動き出しガチャンという金属音をこの配管の玄関ホールに響かせます。田中が石を使って割った窓ガラスも、まるで時が巻き戻るかのごとく元通りに戻っていきます。
 この不気味な現象を目の当たりにしたあなたたちは0/1D3の《SAN》チェックです。

 滝谷《SAN》65 → 72 失敗
 永琳《SAN》70 → 78 失敗
 響 《SAN》50 → 92 失敗
 蘭 《SAN》55 → 19 成功

「(コロコロ)……1」

「(コロコロ)……2ね」

「(コロコロ)3……ってそういう流れいらないぞ!」

 ルーニー的には美味しいのでは?

「まぁな!」

「とりあえずショックを受けていない私が確認するわ。扉に近づいてみる」

 何事もなく扉まで辿り着きました。

「鍵のロックを外そうと試みるけど」

 鍵はロックがかかったまま動きません。びくともしません。

「取っ手を握って押したり引いたりしてみる」

 開きません。どれだけ力を込めても扉が開くような手ごたえはありません。

「《STR》16でビクともしないの……じゃあ体当たりをするわ。滝谷君、手伝って!」

「は、小生としたことが。ごめんなさいでヤンス。すぐに行くでヤンス。毛利氏と一緒に扉に向かって体当たりをするでヤンス!」

「「せーのっ!!」」

 ふたりがかりでタックルをしても、やはり扉は開きません。

「ダメでヤンスか」

「GM、この近くに武器として使えそうなものは?」

 ありますよ。近くに置き傘が何本か入れられた傘立てがあります。

「じゃあそこにある1本を使って窓ガラスを叩き割ろろうとするわ」

 窓ガラスは割れません。それどころかぶつけた傘は骨が折れて使い物にならなくなってしまいました。

「……最後の手段ね。こうなったら扉を蹴破るわ。《武道》+《キック》よ。滝谷君、離れてて」

「毛利氏から距離を取る」

「ハアァッ!!」

 蘭《武道(柔道)》68 → 54 成功
 蘭《キック》80 → 09 成功

 2D6+1D4 → 7

 人間なら吹き飛ぶダメージを受けた扉ですが、何事もなかったかのようにそこに佇んでいます。とても先ほど田中が石を使って破った扉と同じ物とは思えません。

「……鍵はかかっていて、扉は開かないし壊れないし、窓すら割れない……か。ダメ元で聞いてみるけど、携帯電話はどう? 取り出して確認してみる」

 圏外です。

「そうよね……」

 おっと、ここで終わりにしませんよ。携帯電話の画面を見た蘭は圏外の文字を確認した直後、ディスプレイが不自然に歪み始めたことに気付きます。やがてその歪みから何かが表示されました。
 それは不気味な白い腕。掌に牙の携えた裂けた口がおぞましくも開き、赤く滑る舌がまるでヘビのようにうねる。
 この恐ろしい画像を目撃した蘭は1D2/1D6《SAN》チェックです。

 蘭《SAN》55 → 42 成功

「(コロコロ)……2。一瞬引き攣ったけど、隠して何事もなかったかのように装って圏外だということをみんなに伝えるわ」

「どうしたでヤンスか毛利氏。何かあったでヤンスか?」

「う、ううん、なんでもない。圏外なのを見て引き攣っただけだから……」

「こ、これってつまり……そういうことか?」

「そうね……閉じ込められちゃったてことよね?」

「ははは、これはとんだ記事になりそうでヤンスね……」

 そう、あなたたちは閉じ込められてしまったのです。しかも決して人間の仕業でなく、何か得体のしれない力によって、おそらく誰も近づかないであろう人気のない夜の廃校舎内に。
 自分たちが置かれた状況、及び恐ろしい力の片鱗を目撃してしまったあなたたち。《SAN》チェックのお時間です。1/1D3+1です。

「連続チェックか……今回のシナリオは正気度をガリガリ削っていくスタイルらしいな」

 滝谷《SAN》64 → 57 成功
 永琳《SAN》68 → 82 失敗
 響 《SAN》47 → 93 失敗
 蘭 《SAN》53 → 81 失敗

「(コロコロ)……4。ぐ、最大値ね」

「(コロコロ)……ほっ、2だ」

「(コロコロ)……2」

「さってと、これはどうやって脱出するでヤンスかねぇ」

「そうね。こんな怖いところから脱出できる手段を捜しましょう」

「2人とも切り替え早すぎじゃないかしら? 特に蘭」

「原作じゃもう少し動揺してただろ?」

「刑事になって少しはマシになったからってことにしておいてくれる?」

「小生はオタクモードの滝谷でヤンスからねぇ。ファフくんも普通に家に泊めちゃう人間でヤンスよ?」

「まぁ……そうね。いつまでもここで震えていたって仕方ないし、脱出手段を探しましょう。怪我したら私に頼って頂戴」

「……そうだな。元とはいえアイドルの自分が元気ないのは駄目だよな。というわけでGM! 自分はここでライブをするぞ!」

 え、ちょ……。

「怖いのなんて払拭するためによりダンサブルなものを歌うぞ! 《跳躍》も交えて判定だ!」

 響《芸術(ダンス)》80 → 34 成功
 響《芸術(歌唱)》80 → 72 成功
 響《跳躍》65 → 38 成功

 それでは響は廃校の昇降口でライブを始めました。
 夜のしんとした校内で元気いっぱいな響の歌声が名前の通り響き渡る。持ち前の身体能力をフルに活用したダンスは動きの1つ1つは激しいのに、それ出ていてバタバタとした靴音を立てないように気を使えた上級者でないと踊れないものでした。ポニーテールを揺らして高く飛び跳ねる姿も非常に愛らしく、とても三十路過ぎに見えないくらいのフレッシュな彼女。一曲歌い終った後も笑顔を崩さず、息も切らしていない彼女はとてもお箸を持つのがやっとな貧弱女子には見えない輝かしいものでした。
 そんな彼女の歌を聞き、ダンスを見たあなたたちは今自分たちが割と危険な状況下に置かれていることも忘れ、ただただ彼女の声仕草1つも逃さないように食い入るように見ていました。皆さん《SAN》を1回復させていいですよ。

「よっしゃあ! みんな一緒に元気に家に帰るぞー!」

「その意気でヤンス! このことはしっかりと記事にするでヤンスから期待しているでヤンスよ!」

 はい、では今回はここまで。次回から本格的な探索をしましょうね。




     ――To be continued… 
 

 
後書き
滝谷誠=不動遊星の中の人
八意永琳=京楽秋水の中の人
我那覇響=初登場
毛利蘭=古美門研介、萩村スズ、レミリア・スカーレットの中の人 
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