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永遠の謎

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87部分:第六話 森のささやきその十


第六話 森のささやきその十

「それが常に心にあります」
「そうなのか」
「はい、そしてそれは」
 それが何かもだ。王は皇帝に対して話すのだった。
 そしてである。王は言葉を続けた。
「美ですが」
「美か」
「芸術です。それが常に心にあります」
 これが王の最も尊ぶものであった。
「今もです」
「話は聞いているが」
 皇帝は王のその言葉を受けてだ。それでこう述べたのであった。
「バイエルン王のその考えは素晴しい」
「認めて下さいますか」
「そうだ。だが」
「だが?」
「どうもバイエルン王はそのことに入れ込み過ぎているのではないのか」
 皇帝もだった。こう指摘するのだった。
「あまりそれに入れ込み過ぎてもだ」
「左様ですか」
「王なのだからな。確かに芸術を護るのはいい」
 それはいいというのである。
「だがそれでもだ」
「それでもですか」
「入れ込み過ぎるのはよくない」
 断言だった。一国の主らしくだ。
「それでバイエルン王は今は」
「今は」
「あの音楽家に入れ込んでいるようだが」
「ワーグナーですか」
「ウィーンで。上演しきれなかった」
 トリスタンとイゾルデのことをだ。ここでも話すのだった。
「あまりにも難解な作品故にな」
「ですが私はその作品をです」
「ミュンヘンで上演するつもりか」
「はい、既にそれは進めています」
 王の目がまた熱いものになった。熱いものをそこに宿しながらだ。そうして皇帝に対して話す。皇帝はその目を見てであった。
 危ういものを感じた。だが今はそれを言わずにだった。王の話を聞くのだった。王の言葉はさらに続いた。皇帝の心に内心気付きながらも。
「指揮者も歌手も集めそうして」
「そのうえでか」
「資金もあります」
 このことも話す王だった。
「彼は必ず最高の舞台を実現するでしょう」
「そうなるのだな」
「はい、必ず」
「それは期待する」
 王にこう告げてだ。皇帝はここで話を別にさせてきた。その話はだ。
「そして他のことも期待する」
「といいますと」
「戦いは避けられない」
 今度は皇帝の目が語る。だがその目は熱いものではない。冷静でかつ沈着なものである。王が見せる熱さとは対局のものだ。
「最早な」
「ではプロイセンと」
「バイエルン王にはだ」
 どうだというのである。
「軍を指揮してもらいたい」
「私がですか」
 これを聞いてだ。王の言葉に動揺が走った。
 そしてそのうえでだ。彼はそのまま話すのであった。
「私が軍の指揮を」
「そうだ。是非な」
「申し訳ありませんが」
 王はだ。明らかに否定する声でこう返したのだった。
 
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