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真の姿

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第一章

                真の姿
 ローマ帝国の各地にはプリンキケプス、第一の市民にして元老院から国を治める権限を渡されているアウグストゥスことオクタヴィアヌスの像がある。その像のオクタヴィアヌスはどれもがだ。
 若々しく端整だ、それで帝国の者達は口々に言っていた。
「プリンキケプスは端整な方だな」
「全くだな」
「お顔のいい方だ」
「気品があるな」
「そうだな」
「お身体は弱いそうだが」
 このことはよく知られていた、オクタヴィアヌスは生来丈夫な身体ではなかった。
 だがそれでもだ、その顔立ちはだ。
 像を見ると整っている、それで誰もがオクタヴィアヌスは美男子だと思っていた。
 その像は当然ながら都であるローマにもある、しかし。
 ローマの街にいる者達はその像を見てふと思った。
「あれっ、ずっとな」
「ああ、この像変わらないな」
「プリンキケプスの像はな」
「あの方がプリンキケプスになられてから」
「ずっとだな」
「あるな」
「もう結構経つよな」
 像がローマの街にも置かれてだ。
「あの方は十九歳でカエサルの後継者になったが」
「独裁官になられてな」
「それから結構経ってプリンキケプスになられたが」
 第二回三頭政治の後にアントニウスとの戦いに勝ってだ。
「それからも結構経つぞ」
「それでもこのお姿か?」
「今あの方は五十を超えておられる筈だが」
「果たしてこのお姿か」
「どうなのだろうな」
 このことを不思議に思う者もいた、しかし。
 公の場に現れるオクタヴィアヌスは見事なトガを着てすらりとしており整った顔立ちをしている、それで誰もが遠間に見て思った。
「うむ、やはりな」
「今も整った外見だ」
「眉目麗しい」
「立派な顔立ちの方だ」
「髪の毛もカエサルとは違う」
 カエサルは薄毛で有名で自分でもかなり気にしていた。
「ずっと美しいままだな」
「像のままだな」
「うむ、整ったお姿だ」
「あの方は老け込まない方だ」
 多くの者がこう思った、しかし。
 皇帝の宮殿においてだ、当のオクタヴィアヌスは周りの者達に化粧を落としたうえで皺が増えた顔を鏡で見てこう言った。 
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