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永遠の謎

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590部分:第三十四話 夜と霧とその十三


第三十四話 夜と霧とその十三

「だがあの王はだ」
「特にですか」
「ワーグナー的なものが非常に強い」
「そうした方なのですか」
「だからこそそこまでワーグナーを愛されているのですか」
「そのワーグナーも老齢にある」
 ここでまた言う皇帝だった。
「若し彼がいなくなったらあの王はどうなるのか」
「その非常に愛する存在がいなくなればですか」
「その時はどうなるか」
「それが問題ですか」
「人は心の支えが必要なのだ」
 皇帝にもわかっていた。人間のそうしたことがだ。
 それでだ。皇帝は言うのだった。
「私もだ」
「そしてバイエルン王にとってはワーグナー氏ですか」
「あの方となるのですか」
「彼の芸術が第一だが」
 それでもだというのだ。
「彼の存在もあの王には必要なのだ」
「ワーグナー氏が生きておられること」
「そのこと自体が」
「若しかするとあの王は長く生きることのない運命かも知れない」
 皇帝もだ。遠いものを見る目になっていた。
「果たすことをし終えればだ」
「この世を去られる」
「そうした方でしょうか」
「そんな風にも思えてきた」
 皇帝はその目で見つつ話していく。何かを見つつ。
「そしてそれは」
「それはといいますと」
「近いのではないだろうか」
 王がこの世を去る、その時はだというのだ。
「ワーグナーも高齢だしな」
「ワーグナー氏の死の後にですか」
「あの方も果たすことを終えられる」
「そうなるのですか」
「あの三つの城は間も無く完成するな」
 王がアルプスに築城させている三つの城のことだ。
 その三つの城についてもだ。皇帝は言及した。
「バイエルン王はさらに築きたいようだが」
「あの三つの城は間も無くですね」
「完成しますね」
 それはその通りだとだ。周りも皇帝に答える。
「近いです」
「ではあの三つの城が完成し」
 そうしてだというのだ。
「それを世に残せれば」
「あの方はですか」
「去られますか、この世を」
「そんな気がする。惜しいことに思うが」
 皇帝も王は嫌いではなかった。確かに浮世離れしているが平和と芸術を愛し人間的魅力のある王をだ。皇帝も決して嫌いではなかったのだ。
 それでこう言ってだ。皇帝は周りにこう述べた。
「では皇后のことはだ」
「はい、手配をですね」
「万事ですね」
「頼んだぞ、それは」
 旅の間皇后が何も困らない様に配慮して欲しいというのだ。オーストリアでもそうした話になっていた。だがそのことはバイエルンでは。
 ミュンヘンの宮廷、今は主のいないその奥でだ。大公はホルンシュタインと話していた。彼は曇った顔でホルンシュタインに話していた。
「伯爵、しかしだ」
「大公は反対ですか」
「財政は確かに苦しい」
 こうだ。ホルンシュタインに話すのだった。
「だがそれでもだ」
「陛下はですか」
「そっとしておくべきではないのか」
 王についてだ。大公はその曇った顔で話した。
 
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