SAO--鼠と鴉と撫子と
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13,ボス戦、開戦
前書き
そういえば、ボス戦初めてですね。
暗闇の中を2つの流星が煌めいた。
外から見れば、こんな風だろう。
体を倒し、加速度をあげる。
豹王の追い打ちをギリギリ右へ。
体の横を死が通り過ぎた。
体勢を立て直しながら、キリトとヤヨイを確かめる。
二人共、イエローギリギリのライフポイント。
良かった、と安心する暇もなく更に俺はギアをあげる。
ーーぶん。
目の前を通り過ぎる白い何か。
ああ、爪なんだと遅れて認識したのは、ナイフでその付け根を切り裂いた時。
疾くて、疾くて世界が歪に曲がる。
限界だと脳が訴える。まだと心が俺に叫びだす。
宙返りしながら突進を躱す。間でナイフを二本投擲。
背中に一本だけ刺さり、敵の命は数センチ減った。
クイックチェンジ。尻尾へと斬りかかる。
ビュ、と今までで一番の風が吹いて豹王の姿が消える。
着地した俺も硬直なしに地面を蹴る。
後ろで地面がえぐれる音がした。
風切り音が鋭くなる。咄嗟に右に――するどいツメが視界に映った。
「ッく――」
吹き飛ばされるのに任せて距離を稼ぐ。ゲージが一気にイエローへ突入するが、まだ死にはしない。
まだまだ俺は疾くなる。だからオマエも――
「――クロウ、撤退しよう。もう充分だ」
突如、響いてくる誰かの声。
世界が加速を失っていく。
世界は速度を失い、フラットに。
聴覚は心地良い風切り音から怨嗟の響く百獣の唸り声へと変わっていく。
がし、と何かが俺の腕を掴んだ。
黒いな、そう思った時にはアドレナリンは全部使い切って、それがキリトの腕だと遅ばせながら気付く。
「クロウ、いい加減にしとけよ、死ぬぞ」
「――ああ」
のろのろと武器をしまい、数メートル先の入り口まで後退していく。
「ガゥゥゥ」
豹王は短く鳴いた。
――オマエも、惜しんでくれるのか。
「速すぎて、防げんかった!?そんな……アホなことあるかいな!!」
<アインクラッド解放隊>のリーダー、キバオウが素っ頓狂な声を上げる。
それを聞いて周囲の部下から伝播した様に攻略会議に出てきた他のプレイヤーにも動揺が広がっていった。
「……ああ、速すぎて俺は接近戦が出来なかった。他のステータスは大したこと無いけど、あの機動力はどうにかしないと……それにあのAIも厄介だ」
キリトが横で唇を噛む。無理もない。キリトとヤヨイはあのアルゴリズムに完全に翻弄された。
あの豹王はボス部屋外へ逃げたり、HPが減っているプレイヤーを優先して狙ってくる。
逆にソードスキルを使って迎撃するプレイヤーやプレイヤーに囲まれそうになると、索敵スキル無効の洞穴に身を隠し、全く別のところから襲い掛かってくるのだ。
沈黙を嫌うように、隅の方にいた色黒の巨漢が手を挙げる。
「キリト、穴の中に追い打ちはかけられないのか?」
「中には無数の赤い光と何かが動いている気配がしたんだ――エギル、暗闇の中入ってみるか?」
「……いや、止めておく」
それが無数のMobであることは想像に難くない。
暗闇の中から伸びる無数の牙と爪。身動きが取れないように四肢を抑えられ、生きたまま無数の豹に体中を食いちぎられていく。
なぜか俺はそこで、ポリゴン片にはならず、少しずつ外で見てきた肉片へと分解され、そこにいるMob達の血肉となる。
――そんな光景を想像してしまい、背筋に冷たいものが走った。
第一、迷宮区ですら団体行動しない血豹達が集団での狩りを行なってきたらなどと、想像が出来ない。
ボスがアレほどの頭なのだ。子分たちもそこそこの連携を取ってこれるはず。そうなれば、Mobとはいえ強敵となるだろう。
「……壁がパリイしてスイッチは出来るんか?」
「……理論上は、たぶん。だけどパリイのタイミングが難しいし、硬直も恐ろしく短い。なにより――」
キリトは言い難そうにココで一度、息を吸い直し、辺りを見渡した。
「ベータの時はゴリ押ししたから、攻略法がないんだ」
エギルと呼ばれた厳つい両手斧使いも顔を歪める。くぐもった声が攻略組全体の声を代弁していた。
「クロウさん――アレを伝えるべきでは?」
あれ、とは<アインクラッド生態目録>の内容のことだろう。
あの時は楽しすぎて忘れていたが、弱点について思い出したのは撤退が終了した後だった。
ヤヨイにも聞いたら疾すぎて狙う余裕がなかったそうで、「クロウさんは狙っていると思っていたのに」と僅かに怒気を込めて言われてしまった。
しかし、この状況では情報の根拠がない。どうするか、と思っていると、
――ピピピピ
情報の根拠は予想通りのところから降ってきた。。。
「しかし、確かなんやな、新入り。本当にソレで止められるんやな!!」
「……俺はクロウだ。それに俺を信じないのはいいが、それって同時にアルゴの情報を疑ってんぞ?」
キバオウは苦虫を噛み潰した様な顔で、先頭へと向かっていく。
βテスター嫌いとは聞いていたが、これほどとは。
その筆頭たるアルゴやキリトに対する目に見えての不信感はレイド内での棘となっている。
現に今の行軍で、キリトや俺(キリトとエギルのパーティーに入れてもらった)は最後尾でキバオウは先頭で指揮をとっている。
これはキバオウがリーダーだからとかそういう理由だけじゃないはずだ。
「クロウさん、こんな感じなんですか?攻略は」
隣にいるヤヨイは落ち着きなく、愛刀に手をかけている。
「あちらでは集団警備の訓練はやったことがあるのですが、こちらでは……」
「ボス戦は作戦を頭に入れつつ、周りを見て柔軟に動いた方がいいぞ。とにかく防御はエギルたちに任せて出来た隙を攻撃すること。やばかったら逃げろ」
「わかりました。やってみます」
このボス戦は変則的な戦いが初めてというのも可哀想だけど、キリトやエギルもいるし、無茶をしなければ問題はないはずだ。
魔窟は徐々に姿を変えていく。
何度かPOPした血豹達は大量の槍衾の前に命を落としていった。しかし、こことボスマップではすべてが違う。
ここはどちらかと言えば、豹達の機動力が活かしにくい狭い通路、ボスマップは無数の穴が見渡す限り広がり、何処から襲ってくるかわからない場所だ。
狩る側と狩られる側を設計者の茅場明彦が考えていたとしたら、さしずめ目の前のボスマップは「狩られる」為のマップだ。
ボスマップ前の重苦しい空気の中、それを打ち壊そうとキバオウが声を張り上げる。
「ぇぇか!!この五層までの間、攻略は順調に進んどる。それはワイラが強くなった証拠や!!ここも誰一人、死ぬことなく勝つで!!」
僅かに中だるみしていた空気がピリピリと張り詰めていく。ここにいる全員が既に戦士の顔となっているだろう。
「狙うのは、顔、脚、それに尻尾や。タンクはしっかりと隊列を組んで皆を守ってくれ。それじゃ行くで」
キバオウのスピーチに前から怒涛のような雄叫びが聞こえる。結構、リーダーとして様になってるみたいだ。内心、舌を巻く。
士気は高い。俺たちの手で絶対に勝たなきゃいけないだろう。
「キリト、ヤヨイ、エギル。絶対生き残ろうぜ」
「……ああ」
「はい」
「――このドロップを売るまで死ぬ気はナイぜ」
開門と同時に、総勢48人の狩人はボスマップへと乗り込んだ。
後書き
短いです。サーセン。しかもタイトル詐欺でまだ始まっていない。
今回に関してはボス戦を次の一回で書くためのつなぎに近いので、良いタイトルが決まらなかったです。
ボス戦、土日でケリをつけます。
プロットは結局見切り発車で
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