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戦国異伝供書

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第二十二話 川中島にてその七

「何か見事にじゃ」
「その様にですか」
「思わせられるばかりじゃ、だからわしもじゃ」
 明智と同じくとだ、柴田はその明智を見つつ羽柴に答えた。
「お主の様にじゃ」
「善政をですか」
「心掛けておるぞ」
「そうなのですか」
「よき政をしなければ」
 それこそというのだ。
「天下はどうなる」
「だからですか」
「そうじゃ、わしも戦を離れるとな」
「政のことを考えておられますか」
「そうなのじゃ、戦ばかりではない」
 まさにというのだ。
「これからは特にな」
「天下布武になり天下泰平となれば」
「後は政が主となる」 
 そうなるからだというのだ。
「わしも武辺では済まぬな」
「そうなるからですか」
「政をやっていかねばな」
「それですな、それがしも同じ考えですが」
 しかしとだ、ここで前田は難しい顔でこうも言った。
「どうもです」
「慶次か」
「あ奴は相変わらずで」
「戦の世でなくなればか」
「後はもう大不便者になると言って」
「そしてか」
「政のことは目もくれようとせず」
 それでというのだ。
「戦の場から離れれば遊ぶばかり」
「あ奴は相変わらずじゃのう」
「左様です」
「わしもあ奴にはよく言うが」
 悪さをすれば拳骨を飛ばす、柴田はそれこそ慶次が幼子の時からそうしている。それが彼との付き合いだ。
「しかしな」
「それでもですな」
「相変わらずの悪戯小僧じゃ」
「それで、です」
「あの者についてはな」
「あの通りで」
「全く、天下泰平になればどうするつもりじゃ」
 柴田は慶次の将来を考えて心配そうに述べた。
「ずっと遊んで暮らすつもりか」
「だから大不便者だとか」
「全く、相変わらずの傾奇者じゃな」
「織田家は傾奇者が多いにしても」 
 佐々も言う、柴田は違うが彼にしても前田にしても傾奇者だった。織田家はそもそも主である信長自身が傾いている。
「それでもな」
「慶次はな」
「特に傾いておりますな」
「天下泰平になっても傾くか」
「そのつもりでしょうか」
「大名にもならず」
 前田は今自分が大名の身分であることから述べた。
「ずっとですな」
「今は三千石だったか」
「それで満足して」
 そうしてというのだ。
「生きるつもりかと」
「そうなのか」
「どうやら、それで今は」
「どうしておる」
「才蔵と二人で食っている様です」
 可児、彼とというのだ。
「やはり武辺者のあの者と」
「またか」
「はい、気が合う二人なので」
「才蔵もそうじゃな」
 柴田は前田に考える顔で述べた。 
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