戦国時代に転生したら春秋戦国時代だった件
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第2章 項羽と劉邦、あと田忠 ~虞兮虞兮、奈若何~
第7話 不思議の国の劉邦ちゃん
前書き
・劉邦って、項羽になぜ勝てたのか不思議なくらい駄目親父なイメージがあります。外付け良心回路が優秀だったみたいな?
★月&日
章邯と真名を交換した。お姫様に続いて二人目である。
彼女の真名は、蜜柑。呼ぶと気恥ずかしそうにするのが萌えポイントだ。
まあ、俺も義心と呼ばれなれていないから照れてしまうのだけれど。
さて、俺が率いる1万の軍勢は、精鋭と謡っているが、実は寄せ集めである。
鑑定で忠義の低い人間ばかりを集めたからだ。
不穏分子を排除することで、章邯の統治を安定させるのが真の狙いである。
とはいえ、彼らを使い捨ての駒にするつもりは全くない。
忠義の低い1万人の部隊など扱いにくくてしょうがないだろうが、俺なら問題ない。
統率10、魅力10は伊達ではないのだよ。
@月*日
司馬欣と董翳が秦の二王として封じられていることを知った。
ただ、敗軍の将である二人は秦の人間に大層嫌われているらしい。分断して統治せよ、か。項羽のやつも以外に強かだ。
挨拶に向かって助けてやりたいが、今は無理だ。すまぬ。
@月&日
やっと劉邦の下へたどり着いて、謁見することになった。
うーん、不思議ちゃんだと思っていたが、出会った感触としては、こう……電波?
ゆんゆん。能力値はこちら。
劉邦
政治3 知略5 統率8 武力4 魅力11 忠義3
なんというか極端なステータスだよなあ。でも、魅力的なのは確かだ。容姿だけではない。不思議なオーラを感じる。
でも、ピンクは淫乱。はっきりわかんだね。
%月●日
先日の謁見はうまくいったようだ。これで涼州も安泰だろう。
しかし、やたらと噛みついてくる、張良と名乗る軍師らしき女の子。
どうみても童女ですが、見た目と年齢が一致しないパターンですな。まれによくある。
謁見で、俺のことを罵倒しだしたのだが、どうも男嫌いらしい。ゆり?
こいつは要注意だ。この能力値をみよ。
張良
政治9 知略11 統率9 武力2 魅力8 忠義10
ぱねえ。項羽よりも危険かもしれない。
仲良くしないと(使命感)。こいつはおそらく、邪魔になったら躊躇いなく俺たちを排除するつもりだ。
ここは鑑定先生にがんばってもらおう。
でもさ気になるんだが……なんで猫耳フードなん?
◆
「劉邦様に拝謁でき恐悦至極にございます」
深く頭を下げる少年。まだあどけなさの残る少年は、とても伝説の仙人には思えない。
型どおりの挨拶をすると、顔を上げた。息をのむ声が玉座の間に広がる。それはまさに傾国の美少年であった。
「こ~んなかわいい子ちゃんに会えるなんて、劉邦ちゃん、うれしいです!」
「は、はあ……」と少年、田忠は戸惑いの表情を見せた。劉邦軍の側近たちはいつも通りである。いや、あきらめの境地か。
だが、出鼻をくじいたことで、終始劉邦ペースで、なごやかに会話が弾んだ。田忠も慣れてきたのか、笑顔が混じる。
「さて~お話するのも楽しいですけどぉ、今日は遊びに来たんですかぁ?」
なら大歓迎ですぅ、と劉邦はのほほんという。
「いえ、違います。ぜひ、劉邦様の元で戦わせていただきたくはせ参じた次第でございます」
「あらぁ、美少年なら劉邦ちゃん大歓げ——」
「お待ちください!」
小柄な少女。劉邦軍の知恵袋たる張良が声を上げた。
彼女のトレードマークである猫耳フードを目深に被ると、一度大きく深呼吸する。
それを見た劉邦は "おや?" と思った。張良が舌戦を挑む際の彼女の癖だからである。
「田忠殿の御高名は私も重々承知しているわ。でも、仇である秦の軍勢を引き入れるだけの利点はないと思うけど? かえってわが軍の不和を招くだけだわ」
「むろん、承知でございます。ですが、ぜひ受け取っていただきたい献上品があるのです」
「んん?」と財宝が大好きな劉邦が目を輝かせる。
「涼州を献上いたします」
「え~」
一同は目をむき息をのんだ。劉邦一人だけが、がっかりしている。
「涼『州』ですって? 国の間違いじゃないの?」
「いかにも、州でございます。劉邦様の立てた国の支配下の一州として、庇護を受けたいのです」
「くっ、別にあんたたちがいなくても、私たちが自力で涼州とやらを制圧すればいいだけだわ」
「確かにその通りでございましょう。しかし、項羽は強敵でございます。是非、わが軍をご活用ください。必ずや、ご期待に副う活躍をしてみせましょう」
「それでも足りないわ」
「では……対価は、私の忠誠では不足でしょうか? これが二つ目の献上品でございます」
「わ~!」
"してやられた" と張良は内心で田忠を罵倒した。一国まるごと献上し、忠誠を誓う。
これを邪険に扱うことは不可能だ。もし、ここで断れば、こちら側の諸侯たちに不信感をもたれかれない。始末も無理だ。
何より美少年好きな劉邦が興味を持ってしまった。
そして、田忠が率先して臣従したことで、いまだなびかぬ諸侯に心理的圧力を与えることもできる。その効果は計り知れない。
意外なことに田忠は憎き秦の将軍であるが、他国でも人気があった。理由はいくつかある。
一つに、田忠の軍は決して略奪を許さない。それどころか、征服された民の慰撫に尽力していた。征服されたことで、生活が向上した町村もあるくらいである。
二つに、秦が統一したあとも、地方の窮状を救うため奔走していた。己の私財まで投げうって他国民を救う美談が、広く伝わっている。
三つに、秦を出奔していた。始皇帝と対立してまで地方を救おうとした悲劇の忠臣。それが田忠の一般的な評価である。つまり、圧政者対民の味方、という分かりやすい構図が、民衆の支持につながっていた
四つに、孤児という出自がある。名家連中よりも、よほど親しみがある。中華一の立身出世を果たした彼は、民草にとって、憧れの存在なのである。
五つに、至高の美と呼ばれるほどの容姿と、不老の仙人。親しみやすさと矛盾するようだが、ある種の畏怖を抱かれていた。事実、田忠に倣い仏教に入信する者や神として信仰する者すらいた。
畢竟、田忠は民に人気があった。張良は歯噛みする。繰り返すが、田忠が劉邦軍に入る影響は計り知れない。
――だが男だ。
韓信を除いて、劉邦軍の幹部は女性で占められている。
女性が有能だから。というのも理由だが、一番の理由は、単に張良が男嫌いだったからだ。
とはいえ、韓信を重用していることからもわかるように、男でも優れた人材ならば登用する分別はある。
その選別眼は、男の方が厳しいのはご愛敬だが。
韓信は、劉邦軍が欠く軍事の要であるが、政治には弱い。よって、張良と棲み分けができている。
しかし、田忠は違う。伝え聞く逸話を考えるに、軍事のみならず政治でも活躍するだろう。
だからこそ、危うい。果たして己が仙人を御し得るであろうか。自信家の張良といえど、自信がもてなかった。なにせ相手は、人理を超えた存在である。
「よろしくね~、忠ちゃん!」
「は、劉邦様――」
「んもう、劉邦ちゃんでいいわよ!」
悩む張良をよそに、主君はさっそく田忠と仲良くなっていた。忠ちゃん忠ちゃんと盛んに声をかけている。この人懐っこさは劉邦の美点である。能力的にはいまいちだが、どこか支えたくなる。そんな存在が劉邦である。
(くっ、早くも劉邦様に取り入ろうとするなんて! やっぱり男ってサイテーね!)
劉邦に迫られたじたじとしている田忠をみた感想がそれだった。いかに天才軍師といえど、色恋では目が狂うのだろうか。
ともあれ、涼州軍が正式に劉邦の配下となったのである。
後書き
・張良の字が子房。猫耳フードの元凶はこいつ。はっきりわかんだね。
・未来の我が子房さん「やっぱり男ってサイテーね!」
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