白き竜の少年 リメイク前
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動向
水面に滴が落ち、波紋が広がる。目の前には檻。中には白竜・ハクアが鋭い眼光をこちらへ向けていた
『手酷くやられましたね・・・・ハルマ』
「相変わらず暇みたいだな・・・・」
ハクアによってここへ連れて来られたという事はすぐに分かった。この空間から出ようと思っても、今は肉体のダメージが酷く、精神と肉体が切り離された状態に近い。戻るには傷がある程度癒えて、肉体が起きられる状態にならなければならない。しかし、ハルマはハクアが何の目的で呼んだのか全く見当もつかず、そっと神経を尖らせていた
『あなたが封印を解いてくれればそうなる事もありません』
「そうしたらお前は俺を殺しにかかるだろ?」
『もう少し信用して欲しいものですね。現に私は何度か力を貸してきたでしょう?』
ハクアがそう言うものの、ハルマはその言葉さえ信用していない。この目の前の獣には不可解な行動がいくつもある。態とハルマを追い込む行動なども過去に何回かあった。何が目的なのか分からないが、それは自分にとって良いものではないだろうというのは確かだと思っていた
「ガキの頃にそう言って俺の身体を好き勝手してくれたからな。お前のそれは信用するに値しない」
ハルマが忌々しいと言わんばかりに話す。彼はこの白竜を信用していないようだ。常に神経を尖らせ、一挙一動を見逃さないようにしている。しかし、そんなハルマを前にしても、ハクアは毅然とした態度を崩さない
『かつてはあなたを必要な存在だとは思っていなかっただけのこと』
「余計に信用ならないな・・・・・・それで、いつまでここに閉じ込めるつもりだ」
『一つ聞きたい事が。何故、彼を殺さずに戦おうとしたのです?』
ハクアの言葉にハルマは溜め息を一つ零し、ハクアの質問に答えた
「不意打ちが成功したら、な。できなかったら、一瞬で死んでた」
しかし、それをやる可能性は元々限りなくゼロに近い。ハルマが誰かを殺すという行為に強い抵抗を覚えているからだ。殺したくないからこそ、本気を出さない。出せない。しかも、無意識のうちにだ。それが尚更、ハクアに苛立ちを覚えさせる
『・・・・・・甘さを捨て去りなさい。それは今のあなたの足を引っ張るものでしかありません。あなたは闇でこそ輝く』
ダンゾウもハクアも彼自身が否定している自分を肯定する。闇に身を預ければ楽になるだろう。しかし、それでは意味がないのだ
「・・・・だからこそ、それは認められない。俺は光で生きたい。闇は誰も救ってくれない。救えない。母さんがそうだったように」
ハクアはそんなハルマの言葉さえも一蹴し、足元にある水を操る。自身のチャクラを込め、ハルマに纏わりつかせた。この空間から更に深い場所にハルマを誘う。嘲るように笑うハクアはハルマを馬鹿な子だと思いながらも、同時にこうも考えていた
『(自身の真価に気付かぬ哀れな子・・・・誰よりも闇が似合う男となれるというのに)』
自分がその道に導いてしまえばいいのだと。怒りも悲しみも失望も。その全てが闇に堕ちる材料となる。そして疑念さえもその一端を担うのだ
『うちはアスカ・・・・彼女はうちはイタチに殺された。ですが、それは一族の為だと思いますか?』
疑惑の種を蒔き、それが怒りに、悲しみに、失望に繋がっていく。しかし、すぐにそうなってほしい。完全な闇でなくとも。怒りの形相を貼り付けたハルマを見ながら、ハクアは笑う。“少し近付いてきた”しかし、まだ足りない。もっと煽って、もっと近付いてもらわなければ。ハルマを自身でさえも辿り着けぬ深層意識に連れ込んだハクアはこれから自身が望む方向に事がいくのだと思うと笑いが止まらなかった
『ふふふ。楽しみですね。あなたが闇を取り戻した姿がもう少しで』
その為に全てを利用してしまおう。彼の友も、何もかも。全てが黒く染める材料になるのだから
上空から差し込む光の眩しさにカナは思わず手で覆った。目の前にはハルマとレツが意識のない状態で横たわっていて、当分目覚める様子はなさそうだ。これから先には、他の受験者たちが動き出すだろう。彼らに見つかる前に動き出して欲しいと考えているが、二人の傷を見ればその可能性が低い事は一目瞭然だった
「・・・・ハル・・・・・・レツ・・・・」
二人を見て、彼女は唇を噛み締めた。レツは全身に火傷を負っている一方でハルマは全身の経絡系損傷。二人とも、その他にも大なり小なりの傷は至る所にあるが、最も酷い傷はこれだ
「(ハルには竜の力があるから、ギリギリのところでもってるけど、経絡系を治さなきゃ起きる事はないわ。でも、どうすれば)」
ハルマは経絡系の損傷によってチャクラの回復が進まない。チャクラが回復しなければ傷を癒す事が不可能なだけでなく、最悪の場合は衰弱し、死に至る可能性もある。しかも、ハルマの場合は自身が内包するチャクラは強大だ。それが一気になくなれば、その可能性は高くなっていく。カナもそれを理解している。しかし、その目からは強い覚悟の色が見えた
「(私が二人を守ってみせる・・・・)」
献身的にカナが二人の看病を行っている間、当然だが他の受験者たちの中には巻物を奪う為に行動に出ているチームもあった
「まだ見つからねーのか・・・・?」
一つは音隠れの朱里、家昌、将門のチームだ。彼らは木から木へと走るようにして移動していく。痺れを切らしたように家昌が問いかければ、このチームでリーダーの役割を担っている朱里が諭すように話す
「仕方あるまい。奴らは下忍の中でも優秀らしいからな。既に突破している可能性もある」
「じゃあ、どうすんだよ⁉︎」
「慌てるな。もしもの話だ。突破したなら突破したで、構いはしない。何せ、奴らを殺すチャンスはまだまだたくさんあるからな」
朱里がそう言うと、家昌は歯を噛み締める。その表情からは怒りなどの負の感情が見て取れる。家昌だけではない。将門は顔の殆どが隠れ分からないが、朱里からも負の感情は感じられる。何者かへの怒りや憎しみが彼らを駆り立てている
「あいつらは許さねー。ぜってえ殺してやるんだ」
そしてまた、木の葉の同期も動いていた。アズサ、ハナビ、ユウカたちだ。彼女たちは第5班。上忍師は山本武蔵という男で、木の葉一の剣豪と呼ばれている。彼女たちのすぐ目の前には荒地が広がっている。木々は倒れ、見渡せるようになっていた。彼女たちの目にはある一つの班が映っている
「ほんとにやるつもり?」
ハナビがアズサに確かめるように問いかける。アズサは睨みつけるようにしてハナビを見つめた
「これは試験よ。相手が誰だろうと関係ないわ。相手から取れるなら取るだけよ」
彼女たちの標的は、第6班。つまりハルマたちだ
「それが同期でもね」
同じ血を引き、同じ里に住み、同じクラスメイトして時間を過ごした者たちの戦いが始まろうとしていた
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