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懐かしい秋の時

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第二章

「今の鯉女もね」
「呼ばれていなくて」
「本当に広島だけだったのよ」
「そうだったのね」
「はじめて優勝してね」
 そうなってというのだ。
「お祖母ちゃんも皆もどれだけ嬉しかったか」
「確か昭和五十年よね」
「そうだよ、あの時だよ」
 静は加奈に優しい目で話した。
「あの時お祖父ちゃんと一緒に優勝見たよ」
「そうだったの」
「球場でね」
「マツダスタジアム、じゃないわね」
「広島市民球場よ」
 その球場でというのだ。
「観たのよ」
「広島市民球場ね」
「そう言われても加奈ちゃんにあまり馴染みないわね」
「原爆ドームの前にあって」
 このことは加奈も覚えている、広島に生まれて高校卒業まで住んでいたし今もよく戻っているのでわかっている。
「もうなくなって」
「そう、なくなったけれどね」
「あそこで優勝観たのね」
「二人でね」
 今は健康と趣味で犬の散歩に出ている祖父と共にというのだ。
「行ったのよ」
「そうなのね」
「何ならね」
 静はここで孫に笑って話した。
「今からそこに行くかい?」
「広島市民球場の跡地に」
「そう、あそこにね」
「そうね、お祖母ちゃんが言うなら」
 それならとだ、お祖母ちゃん子の加奈も反対しなかった。
「一緒に行こう、それでね」
「近くのお好み焼き屋さん行こうね」
「そこでお昼食べてね」
「ゆっくり楽しもうね」
「それじゃあね」
 こう二人で話してだ、祖父が家に帰ると彼に行き先を言ってから二人で電車に乗って広島の中心地に行ってだった。
 そこからバスで原爆ドームの前に来た、晩秋の原爆ドームは普段よりも何かを訴えている感じがした。
 その原爆ドームを見てからだ、加奈はかつて広島市民球場があった場所を見た。そこを見るとだった。
 もう一部を残して野球を思わせるものはなかった、だが秋の少し肌寒い空気を顔に受けつつ一緒にいる祖母に行った。
「ここで、よね」
「そうよ、今より早い時にね」
 静もその跡地を見つつ話した。
「お祖父ちゃんと一緒にね」
「観たのね、カープの初優勝」
「そうだったのよ」
「ずっと優勝なんてって言われてたのよね」
「最近みたいにね」
「そうだったのね」
「それがね」
 その時のことを思い出しながらの言葉だった。
「優勝したから」
「凄く嬉しかったのね」
「最高の秋だったわ」
「あの時にはじめて優勝して」
「そしてね」
 静はそれからのことも話した。
「シリーズにも出てね」
「あの時は一勝も出来なかったのよ」
「阪急相手にね」
 阪急ブレーブスだ、もうなくなってしまった球団だ。兵庫県の西宮球場を拠点としていたチームである。
「二試合引き分けだったけれど」
「接戦ばかりでも」
「一勝出来なくてね」
 それでというのだ。
「負けたわ、今年と似てるかしら」
「今年はまだ一勝したからましね」
 加奈はそれだけましかと実際に思った。
「ソフトバンク強かったけれど」
「阪急も強かったわよ」
「それで負けたのね」
「負けたけれどシリーズに出られただけで」
「嬉しかったのね」
「凄くね、その時の気持ちはね」
 その思い出の場所を見つつだ、祖母は孫娘に話した。
「加奈ちゃんはわかるかしら」
「わからないわ」
 加奈は少し苦笑いになって祖母に答えた。
「だって私初優勝は見ていないから」
「そうよね」
「確かにずっとBクラスだったわ」 
 そして地味な存在だったというのだ。 
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