デジモンアドベンチャー Miracle Light
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第15話:兄の不安
ピンク色の桃色饅頭のような物体を抱えた太一を出迎えたのは大輔とヒカリと…。
「オッス、俺ブイモン」
「「オ、オッス…」」
脳天気に片手を上げながら親しげに挨拶してくるブイモンに太一もピンク色の物体も同じ言葉で返してくる。
「太一さん、どうしてまだキャンプしてるはずなのに帰って来たんですか?もしかして抜け出したんですか?」
「そうだよ、お兄ちゃん。コロモンまで連れてきて。コロモンを連れてくるなら事前に連絡してよね」
「馬鹿は体調不良しないはずなのにな(ボソッ)」
「抜け出すわけないし、俺だけで帰れる訳ないだろ!!事前の連絡だって無理だし…そして最後のお前失礼過ぎるだろ!!…って、今はそんなことどうでもいい!!こいつは何だ?ヒカリはどうしてコロモンを知ってるんだ?そして何で驚かないんだ!?」
「こいつじゃなくてブイモン。コロモンとは4年前に会ったから、今更コロモンが家に現れた位じゃ驚かないよお兄ちゃん」
ヒカリが呆れたように太一に言う。
もう異常気象やらデジモンの出現やらで色々と耐性がついてしまった模様。
「あ、そうか…」
何か妹が逞しくなりすぎて他に言葉が見つからなかったお兄ちゃんであった。
「ねえ、太一。これ何?」
ヒカリによそったミルク粥を触角で指差すコロモンを見て大輔がコロモンに差し出す。
「ミルク粥だ。コロモンも食うか?」
「いいの!?」
「勿論、熱いから気をつけろよ。」
「いやったー!!頂きま…熱ーい!!」
「だから言ったのに…」
早速火傷したコロモン…言ってる傍からである。
出来立てなのだから熱いのは当然だろう。
「大丈夫?コロモン?」
「あ、ありがとう…でもどうして僕を知ってるの?」
口の中の消火作業のために冷蔵庫から取り出した冷えたお茶を飲ませた。
「…あなたはあの時のコロモンじゃないのね?それとも忘れちゃったのかな?でも、いいよ。4年前に戻れた感じがしたから」
他人の空似にしては4年前のコロモンと雰囲気が似すぎている。
しかしヒカリはこのコロモンはこのコロモンだと、今のコロモンを受け入れた。
少し寂しい気がするけれど。
「ヒカリちゃん…」
「ヒカリ…」
「大丈夫、もう気持ちの整理は出来てるから…」
心配そうに自分を見つめる大輔とブイモン。
でも大丈夫だろう、今のヒカリには大輔とブイモンと言う特別な友達がいるのだから…。
「…………」
何だろうこの空気は?
何か自分がとんでもない邪魔者になったような感じは?
空気が読めないコロモンはミルク粥を美味しそうに食べていた。
「まあ、とにかく。俺はブイモン。大輔のパートナーデジモンだ。因みに大輔とはもう4年の長い付き合いで、ヒカリとは1年の付き合いなんだ」
「1年前!?ヒカリは1年前からお前と会ってたのか!?」
「そう言うこと、ヒカリには美味しいお菓子をご馳走になったぞ。御馳走様でした」
「…そう言えばヒカリ…大輔にやるにしては結構大量に…お前がいたなら納得だ」
「それにしてもお兄ちゃん、どうやってキャンプ場から帰ってきたの?何でコロモンがいるの?ねえ、何で?」
「いや、あのなあ…」
「教えて」
「太一さん、教えて下さい」
「さっさと言えよエクスプロージョンヘッド(爆発頭)」
3人に睨まれながら説明を求められた太一はタジタジになりながらも口を開いた。
「…俺に拒否権は?」
「「「あるわけないでしょ?」」」
「…………やべえ、俺泣きそう」
拒否権は無いと断言されて少し泣きたいと思った太一であった。
「なる程、太一さん達はデジタルワールドに行ってたのか。謎が解けたぜ」
「やっぱりお兄ちゃんずるい」
「デジタルワールドかあ、久しぶりだなあ。今のデジタルワールドはどうなってんのやら」
太一から様々な情報を無理やり吐かせて納得する一同。
「とにかくゲンナイさんに連絡してみようよ」
「そうだね。ゲンナイさんの隠れ家サイトにアクセスしてみようか」
もしかしたらゲンナイに連絡が取れればどうにかなるかもしれないと思った大輔達。
「ゲンナイの爺!?お前らゲンナイの爺も知ってるのかよ!?」
「「1年前から」」
「…そっか」
即答されて脱力する太一。
パソコンを起動させてゲンナイの隠れ家にアクセスするとゲンナイの声が聞こえた。
「おお、大輔にブイモンにヒカリではないか。久しぶりじゃのう。今日は何用じゃ?」
「何用じゃ?…じゃねえだろ糞爺!?」
脳天気なゲンナイの声に不満が爆発した太一。
パソコンを掴んで揺さぶろうとした時。
「お兄ちゃん!パソコンが壊れるでしょ!!」
「あ、すんません」
妹に怒られるお兄ちゃん。
「おお、太一。無事じゃったか…ブラックホールに吸い込まれたと知った時は流石に焦ったがのう」
「あのブラックホールは一体何なんだよ!?何で気付いたらお台場にいるんだよ!?」
「あのブラックホールについてはわしも詳しいことは知らんよ。しかしあれに飲み込まれて現実世界…しかもお台場に転移するとは太一…お主はとんでもない強運の持ち主と言わざるを得んよ。これはわしの仮説じゃが、ダークケーブルの暗黒のパワーが一カ所に纏まり、エテモンと言う強大な力を持ったデジモンと融合したことで簡単に言えば空気を入れすぎて破裂寸前の風船のような状態だったところをメタルグレイモンの攻撃で破裂し、暗黒のパワーとメタルグレイモンの攻撃のエネルギーによってお主達を吸い込んだブラックホールが発生し、今に至るのではないかのう?」
「そうなのか…」
ゲンナイの説明に取り敢えず納得する太一。
「それでゲンナイさん。俺達はどうすればいいんだ?」
太一も選ばれし子供である以上、デジタルワールドに行かなくてはならないだろう。
大輔達もこれからどうしなければならないかを聞かなくてはならない。
「うむ…そうじゃなあ、大輔と賢は引き続き現実世界で待機じゃ、ヒカリはパートナーデジモンがいないためデジタルワールドに行かせるのは危険極まりない。ところでヒカリ、デジヴァイスはそちらに無いかの?紋章はともかくデジヴァイスは所有者の元に向かう設計にしておるんでな」
「無いよ、でも後で探してみるね」
「うむ、では頼んだぞ…選ばれし子供は全員が揃わなければ敵に打ち勝つこと出来ん。大輔、賢と力を合わせ、全員が集まるまで踏ん張るのじゃぞ」
「分かってるよゲンナイさん。太一さんはどうすんですか?」
「太一には今すぐデジタルワールドに戻ってもらう。リーダーを失ってしまったことで子供達がバラバラになり、自分らしさすら失いかけている者もいる。自分らしさを失っては紋章の力を引き出すことは不可能じゃ」
「自分らしさって何だよ?」
「俺達の紋章にはそれぞれ意味があるんですよ。確か4年前まで俺達が持っていた自分らしさでしたよね?」
「うむ、大輔が奇跡、ヒカリは光、賢が優しさを司るように太一達の紋章にも意味がある。」
太一はゲンナイから自分達の紋章の意味を聞かされる。
太一は勇気
ヤマトは友情
空は愛情
光子郎は知識
ミミは純真
丈は誠実
タケルは希望
これが太一達の紋章の力の根源なのだ。
「勇気か…じゃあ、あの時…俺がグレイモンをスカルグレイモンに進化させちまったのは…間違った勇気…」
「そうじゃ、やっと気付いたようじゃな?」
「…ああ」
どこか苦々しげに太一は頷いた。
あの出来事は今でも出来れば思い出したくもない太一の汚点である。
「紋章の力を使うのに相当苦労したから、自分らしさを持ち続けるのって大変なんだよな…きっと」
自分らしさを持ち続けるのは考えているよりずっと大変なことなのかもしれない。
人間は成長と共に変わっていく。
性格や考え方も。
4年前まで紋章の力として認められるくらいにまで持っていた想いも時の経過で変わっていく…。
「にゃあ~」
「あ、ミーコ」
声のした方向を見遣るとそこにはケージに入れられたミーコの姿。
どうやら昼食を所望しているようだ。
コロモンがミーコに近付いた途端、かつて自分から餌を盗んだ不届き者と認識し、ふーっとコロモンに威嚇した。
鋭い眼光に射抜かれたコロモンはヒカリに飛び付いた。
「ミーコ、コロモンはご飯取ったりしないよ」
ヒカリの言葉に訝しげな表情を浮かべるミーコ。
本当に頭のいい猫だなと思いながら大輔はミーコの餌皿に餌を山盛りした。
ミーコは安心して餌にありつく。
「それにしてもミーコ、コロモンを覚えてるんだな」
はっきり言って殺意まで含まれていた気がする。
先程の睨みには。
「うん、昔コロモンが来た時、ミーコの餌をあげたんだけど。それをミーコが怒って、お兄ちゃんとコロモンの顔を引っ掻いたの」
「え?本当かそれ?」
「うん」
「…覚えてねえ」
コロモンが家に現れたり、ミーコが顔を引っ掻いたりするなど普通なら覚えていそうなことがすっぽり頭から抜け落ちている。
「まあ、とにかく。ヒカリのデジヴァイスは俺達が探しとくから、太一はさっさと仲間を捜してこい」
ブイモンが太一をパソコンの前に押し出す。
「分かったよ…じゃあ、ヒカリ。行ってくるからな」
「行ってらっしゃい」
こちらに振り返りもせず、大輔と一緒に部屋を探しているヒカリ。
何だか妹を取られたような寂しさを感じながらデジタルワールドに向かう太一であった。
「何か太一の奴、哀愁が漂ってたな。これが妹を取られた兄貴の姿か」
ブイモンが哀れむように太一とコロモンが吸い込まれたパソコンを見つめるのであった。
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