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永遠の謎

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262部分:第十八話 遠く過ぎ去った過去その十二


第十八話 遠く過ぎ去った過去その十二

「ドイツが生み出したものだ」
「その二つが一つになるにしてもですか」
「そのフランスの美は私が入れる」
 王は話すのだった。その彼の夢もだ。
 話しながら街を歩きだ。こう言うのだった。
「しかしそれはこの街ではない」
「パリではありませんか」
「城だ」
 そしてだった。もう一つは。
「宮殿だ」
「それが取り入れるものなのですか」
「そうだ。城と宮殿にこそその美がある」
 王は話していく。その美についてもだ。
 城の、宮殿のその美を見ることを続けるというのであった。それによってだ。
「それを一通り見たい」
「ベルサイユだけではなく」
「今度は何処を見ようか」
 王は話していく。パリを進みながら。
 そうしてだった。彼が次に来た場所は。
 寺院だった。
 二つの長方形の塔があり門にも見えるその寺院はだ。中央に円を思わせる薔薇の窓があり細かい彫刻があちこちに施されている。
 そこにあるだけで何故か雪が見えそうである。パリのその中にあるこの寺院を見ながらだ。王は静かに微笑みその中に入ろうとする。
 だがだ、ここでだった。傍らにいるホルニヒに顔を向けて尋ねるのだった。
「そなたも来るな」
「御供して宜しいですね」
「そうしてくれ。どうもこの中には」
「中には?」
「妙な気配を感じる」
 そうだというのだ。
「この寺院はある小説の舞台になっているが」
「あの小説ですか」
「そう、ユゴーのな」
「あの小説では」
「カシモドがいた」
 背中が曲がりコブになっただ。せむしの男だ。その男が王達が言うノートルダム寺院にいてだ。そこで作品を動かしていくのである。
「あの彼がだ」
「カシモドは気の毒な男でしたね」
「その心はよいものだった」
 王はカシモドをだ。嫌ってはいなかった。
 そしてだ。彼についてこう話すのだった。
「彼は不幸だった。外見だけで大きくな」
「外見によってですか」
「人は。外見に惑わされてしまう」
 王はそのことに悲しさを見出していた。美麗な顔立ちの王がだ。102
「中身は違うのだ」
「中身はですか」
「そうだ。人の心こそが問題なのだ」
 それこそがだというのである。
「そこにこそ真の美醜があるのだから」
「そういえばあの小説では」
「堕落してしまった僧侶がいるな」
 その僧侶がいた寺院をだ。見ての言葉だ。
「あの僧侶もまた」
「心ですか」
「心は変わるものなのか」
 こう言うのである。
「人の心は」
「はい、それは」
「そうだな。変わる」
 王はここではこのことを話した。人の心のことをだ。
「間違いなくな。だが」
「だが?」
「私は変わらないものを創り出したいのだ」
 それがだ。王の望みだというのだ。
 そうしてノートルダム寺院を見ながら。ホルニヒに話し続ける。
「変わらない美を」
「それをなのですか」
「そうだ。私はそれを創り出すのだ」
 変わらない美をというのだ。何があってもだ。
 
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