永遠の謎
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160部分:第十一話 企み深い昼その二
第十一話 企み深い昼その二
既に実質的な妻となっているコジマがだ。彼に話してきた。
「御気をつけ下さい」
「何に対してだ?」
「宮廷に向かわれるのですね」
コジマは怪訝な顔で事実上の夫に話す。
「そうですね」
「そうだ。陛下に御会いしに行く」
その通りだとだ。ワーグナーも答えた。
「今からな」
「だからです。近頃宮中もです」
「私をよく思っていない者が増えているというのだな」
「特に男爵が」
彼だというのだ。かつてワーグナーを迎えに来たその彼がだ。宮中においてワーグナーを快く思っていない一派の中心だというのである。
コジマはだ。夫にこのことを強く話すのだった。
「ですから。どうかくれぐれも」
「わかっている。だが」
「だが?」
「安心することだ」
落ち着いた顔でコジマに話すワーグナーだった。
「何も気にかけることはない」
「そうなのでしょうか」
「陛下はわかっておられる」
王への信頼をだ。彼女に話した。
「私のことをな」
「それはそうですが」
だが、だった。コジマはそう言われてもだ。そのドイツ的な顔立ち、鼻が高く細面の、父によく似た顔立ちにだ。不安なものを見せるのだった。
そのうえでだ。事実上の夫にこう述べた。
「今は宮中においても」
「私を快く思っていない者が多いというのだな」
「しかもそれが」
どうかというのであった。
「増えています」
「だからか。私と陛下は」
「御気をつけ下さい」
またこう言う彼女だった。
「くれぐれもです」
「そして気をつけてか」
「難を避けられるべきです」
彼に忠告する。そしてだった。
ワーグナー自身にだ。こう告げた。
「焦られぬことです」
「焦りが身を滅ぼすか」
「そうです。あなたの焦りこそが」
それこそがだと。コジマは切実な顔で彼に話した。
「あの方々の望むところですから」
「それでか。わかった」
「はい、御願いします」
コジマは切実な顔で述べた。
「それは」
「わかった。それではだ」
ワーグナーは頷きはした。しかしその頷きはただ頷いただけのものだった。彼は今はこれといって深く考えていなかった。もっと言えば楽観していた。
しかしその楽観はだ。宮中において打ち砕かれた。
宮廷に仕える者達がだ。彼に入り口で冷たく告げたのだ。
「御会いになられないとのことです」
「今は」
「馬鹿な、そんな筈がない」
ワーグナーは驚きを隠せない顔で彼等に話した。
「陛下は今宮廷におられるのですね」
「はい、そうです」
「それはその通りです」
まさにそうだとだ。彼等は話す。
「ですが今陛下はです」
「御会いしたくないとのことです」
「そんなことはない。私はその陛下に」
呼ばれてここに来たと言おうとする。しかしだった。
宮廷の官吏達はだ。冷たい声のまま再び彼に告げた。
「ですが今はです」
「陛下が仰っています」
会わないとだ。こう話すのだった。
「ですからここはです」
「御帰り下さい」
「そんなことがあるものか」
ワーグナーは我を失いかけながらまた言った。
「陛下が、そんな」
だが、だった。彼は宮殿の前で門前払いを受けたのは確かだった。そしてだ。王にこのことはだ。形を変えて伝えられたのであった。
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