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孔雀王D×D

作者:焼肉定食
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18.奥の院での死闘(前篇)

 暗闇の中、孔雀達は、孔雀を先頭に、アシュラ、王仁丸の順で駆け抜けた。
 どうしても、父・医王を止めたいと言い張り、日光の静止も聞かず、孔雀達を追ったのだったが、結局のところ、王仁丸が背負う事になった。
 初めは嫌々だったか、月読の力が膨大なのに驚いた。
(孔雀に力を分け与えたと言っていたが、さすがは、裏高野女人堂の当主。
 か弱そうな見た目から、日光以上の力を秘めてやがる。後ろを任せるにはこれ程、頼りになる人物はいないだろうな)
 王仁丸は、にやりと微笑んだ。
 次々と、襲い掛かる闇の化け物達を、術と体術で孔雀達は薙ぎ払って行った。
「孔雀、気づいているか?」
 少し攻撃が、やんだ時、王仁丸は、孔雀に話しかけた。
「あぁ、俺達がここまで倒してきた奴らは、おそらく六道衆の連中だ」
 六道衆とは、かつてのアルマゲドン戦争以前に孔雀達が、戦い続けた闇の密教集団の事である。
 八葉の老師達を中心に闇曼荼羅を構築している魔神達の集団でもある。
「まさか、六道衆までからんでいるとはな。奴ら、滅んだんじゃないのか?」
 王仁丸は、嫌気がさすように言った。
「確かに滅んだ。八葉の老師達が消え失せたのは、お前も見ただろう?が、やはり、闇があるところには、あの手の奴らが、再び現れるのだろう。しかも、またまた、黄幡星が、からんでくれば尚更だ」
 孔雀もまた、ため息をついた。
「だが、今度こそ終わらせる。黄幡星を地獄の底に叩き落とし、悲しい宿命の子供達を解放する」
 孔雀は、口を真一文字にした。決意を全員が孔雀の決意を感じ、頷いた。
(孔雀、必ず私が、父を止めます。月光菩薩の名にかけて)
 月読もまた、父であり、前裏高野座主の薬師大医王を止める事を決意していた。

 次々を襲い掛かる六道衆の兵士を打倒し、ついに裏高野奥の院に辿り着いた孔雀達は、周りを警戒しながら、歩を進めて行った。
 天を見上げると、真っ赤な月が不気味に、そして、大きく輝いている。
 裏高野・奥の院。
 かつて、第六天魔王を名乗った織田信長の墓もあり、鳳凰の乱もここから始まった。
「アシュラ、王仁丸、ここからが正念場だ。気合入れろよ」
 孔雀は、自らを鼓舞するように言った。
「ふん。お前が、一番心配なんだよ」
 王仁丸は、にやりと笑った。
「うん、頑張っちゃうよ」
 アシュラは、胸の前で両手を握りしめた。が、不気味なうめき声が、闇の中から聞こえてきた。
「な、なに、この声?」
 アシュラは、辺りをキョロキョロと見回した。
「ふん。どうやら、六道衆の他に亡者まで出てきやがったか。
 孔雀、ぐずぐずしてられねぇぜ」
 王仁丸は、再び鬼斧を構え、懐に手を入れた。
「神威如獄 神恩如海、これぞ呪禁道・伊吹永世。そして、式鬼どもよ、闇より来りて我に従え」
 王仁丸は、護符のような紙片を地に落とすと、その紙片は、鬼となった。
「行け。亡者共を粉砕しろ」
 王仁丸が使役した鬼どもは、軽く王仁丸に頷くと、まるで風のような速さであちらこちらから湧き出る死人達を殴り、引き裂いて行った。
「行くぜ、孔雀。もたもたするなよ」
 王仁丸もまた、斧を振りかざし、気合の声を発しながら、死人達を叩き割って行った。
「孔雀、私も先に行くよ。お姉ちゃんと一緒にゆっくり来てね」
 アシュラは、いつの間にか両手にヌンチャクを持って振り回していた。
「アシュラ、また、そんなの引っ張りだしてきて。お前、大丈夫なのか?」
 孔雀は、アシュラの姿を見て、あきれるように言った。
「大丈夫、大丈夫。あらかた王仁丸が、やっけてくれてるだろうから。それに、今は、私の方が孔雀より強いかもだし」
 アシュラは、にっこりほほ笑んだ。
「お、お前ね・・・・」
 孔雀は、ため息をついた。
「アシュラ、気をつけてね。女の子なんだから、怪我をしないように。傷物になっては、お嫁にいけませんから」
 月読は、何を言っても聞きそうにないアシュラの動向に気を使うように言った。
「あっ、それも大丈夫だよ、お姉ちゃん。
 孔雀がもらってくれるから」
 アシュラは、しれっと言い放ち、笑った。
「わかった、わかった、早く行けよ。でも、無理はするなよ」
 緊張感もなにもないアシュラに呆れてはいるが、アシュラもまた、アルマゲドンを生き残った娘だった。
「うん、わかった。孔雀も早く来てね」
 アシュラは、ヌンチャクを振り回しながら、闇の中へと入りこんで行った。
「さぁ、行きましょうか、月読様」
 孔雀は、月読の手を取り、アシュラや王仁丸の後を追った。

 先に行っていた王仁丸は、死人共に囲まれていた。
「ちっ、きりがねぇ」
 王仁丸のスタミナを以てしても、次々を湧いて出てくる死人達。
「もう、面倒くさぇ。行くぜ、式鬼共、神威如獄 神恩如海。
 くらいやがれ、式鬼烈風陣」
 王仁丸は、わざと死人共を自分の周りに集めた後、自分を中心にまるで台風の渦のようを作るかのように式鬼達を使った。
 死人達は、その物凄い威力に、ばらばらに切り裂かれ、王仁丸へ集まって来ていたものは、ほぼ全滅した。
「王仁丸ぅ!!」
 王仁丸の後ろの闇の中の遠いところから女の声で自分を呼ぶ声が聞こえてきた、
 王仁丸は、目を凝らして闇を見つめると、ヌンチャクを両手に持ち、振り回してくる一人の少女が近づいて来るのが、見えた。
「やっと追いついた」
 少女は、息を切らして王仁丸に言った。
「なんだ、アシュラじゃねぇか。よく追ってこれたな?」
 今にも座り込みそうなアシュラを見下ろして、王仁丸は言った。
「なんだとは、なによ。私だってやるときはやるんだから」
 王仁丸の言葉にアシュラは、頬を膨らました。
「どうぜ、俺が倒し損ねた奴らを潰しただけだろう」
 王仁丸は、皮肉を込めてにやりと笑った。
「ふん。あんたっていつも私を馬鹿にして」
 アシュラの目が赤く染まりだした。
「待て待て。燃やすのは俺じゃないだろう。それに、お前の事は、少しは認めてるんだぜ」
 王仁丸は、アシュラの頭を撫でた。
「え?そうなの?」
 アシュラは、にっこりとほほ笑んだ。
「あぁ、だからな。あれをやるぞ。太極火を」
「え?でも、あれは、一回しかやったことないよ」
 太極火とは、王仁丸の気とアシュラの炎をタイミングよく合わせて、強烈な炎で敵を一瞬にして焼き尽くす技である。が、それは、確かにアシュラが、言ったように1回しかやったことがない技だった。
「四の五のいうんじゃねぇ。ちまちま、死人どもを相手していたら間に合わなくなるぞ」
 王仁丸は、気をためるための体勢を取っていた。
「わかった。やるしかないね」
 アシュラの目も、赤く光出した。
 王仁丸は、身体を真横に構え、両手で円を作るかのようにして、気をその手に込めると巨大な丸い球が現れ、さらに気を込めるとその球はどんどんと膨れ上がっていった。
「神威如獄 神恩如海。未だ、アシュラ。お前の炎の気を俺に気にあわせろ」
 アシュラの気も高まり、長い金髪の髪が、まるで天を衝く怒髪天のように逆立っていた。
「いっくよぉ!! 合気法・太極炎」
 アシュラが、人差し指を王仁丸の気の球に向かって指差すと、その球と交わった炎が巨大な火炎放射器となって、前方からうようよと這い出てくる死人たちを飲み込んだ。
 死人と後ろに控えていた六道衆の兵隊までも焼き尽くされ全滅した。
「ようし、うまくいったな」
「うん」
 王仁丸とアシュラは、微笑みあった。が、王仁丸は、風の音を聞いた。
「あぶねぇ、アシュラ。離れろ!!」
「え?」
 王仁丸の突然の怒号にアシュラは、きょとんとした顔を王仁丸に向けた。
「くそ!!」
 王仁丸は、そんなアシュラを突き飛ばした。
「ぐわぁぁぁぁ」
 アシュラは、悲鳴を上げる王仁丸を見たが、何が起こっているのか理解が出来なかった。
「畜生。これは、嵐の技じゃねぇか」
 その技を一度食らっていたからこそ、王仁丸はわかっていた。
 瘋天神・紫雲縛。
 当時は、アルマゲドンに突入する前で、神の人・ラスプーチンと戦っていたところだった。
 ラスプーチンの正体は、闇の軍荼利明王であった。そして、そのチャクラと言われた幻術に王仁丸と嵐は苦戦をしいられ、幻術に落ちた嵐が、王仁丸に繰り出した技が、紫雲縛だった。
「なるほど、嵐が、一目置く男だな、王仁丸」
 一人の女僧が、ひたひたと王仁丸とアシュラに近づいて来た。
「誰だ、てめぇは?」
 王仁丸は、近づいて来る女僧を睨み付けた。
「わが名は、風伯。嵐の師でもあった。が、愚かな弟子は、日光に付きおった」
 風伯と名乗った女僧は、嵐の師としては、若くみえた。まるで、姉妹のようであった。
「薬師大医王に逆らう愚か者共を殲滅するのが、我らの指名。まずはお前を屠ってやる。ナウマク・サンマンダ・ボダナン・バヤベイ・ソワカ」
 風伯は、風天の真言を唱え、印を結び手に持っていた糸のような物を片側を握って王仁丸に向かって投げつけた。
 すると、その物は、まるで暴風の渦となって王仁丸に襲い掛かってきた。
「よけきれねぇ」
 王仁丸は、腕を十字に固め、巨体を小さく縮めて風伯の攻撃を受け止めた。
「ぐはぁ!!」
 それでも、風伯の攻撃の衝撃は強く、なんとか王仁丸は踏みとどまったにすぐなかった。
「ホホホ。なるほど、頑丈だな、王仁丸。が、次の一撃で貴様を葬ってやろう」
 風伯は、再び印を結び、真言を唱えようと構えた。
「アシュラ、いいか。俺が、走り出したらお前は、後ろからついてこい。あの野郎に強烈な一撃をくらわしてやれ」
 王仁丸は、アシュラに振り向くことなく呟いた。
「でも、大丈夫なの?」
 アシュラは、王仁丸の体に無数の傷跡を気にしていた。
「あぁ、大丈夫だ。俺を舐めるんじゃねぇ。いいな、行くぞ」
 王仁丸は、腕を十字に組んだまま、風伯に向かって走り出した。
「無駄な事を。死ね、王仁丸」
 風伯の手にしていた紫雲を王仁丸に向かって突き出した。そして、紫雲は、変幻自在な動きで王仁丸を切り裂き、とどめとばかり貫いた。
「この時を待っていたぜ。やれ、アシュラ」
 紫雲に貫かれているのにも関わらず、王仁丸はにやりと微笑んで、後ろをついて来ていたアシュラに叫んだ。
「燃えちゃえ!!」
 アシュラは、王仁丸を台にして飛び上がり、風伯に全てを燃やし尽くす炎の気をぶつけた。
「ぐぁああ。とどめの一撃を食らわしたのに、何故、貴様は平気なのだぁ」
 火だるまになりながらも、風伯は、鬼の形相で王仁丸に叫んだ。
「ふん、貴様の攻撃など屁でもねぇ。めん玉、おっぴろげてよく見やがれ。
 これぞ、俺の切り札、呪禁道・式神鎧玉だ」
 王仁丸の周りには、式鬼と呼ばれる化け物達が、囲んでいた。それは、王仁丸が、その化け物達を纏っているような光景だった。
「き、貴様、式鬼共を・・・」
 その光景に風伯は、驚愕した。
「消し炭になりやがれ」
 王仁丸は、呪文を唱え、右手を力いっぱい握りしめた。
「呪禁道・天地二極拳・火雷」
 王仁丸の気を込めた拳が、風伯の顔面を捕えた。
「ぎゃぁああああ!」
 風伯は、火だるまになり、悲鳴を上げて吹っ飛んで行った。
「はっ、ざまぁみやがれ」
 王仁丸は、口から血の混じった唾を吐いて、ぴくりとも動かない風伯を見つめた。
「王仁丸、アシュラ。ようやく、追いついた」
 声のする方を王仁丸とアシュラは、振り向いた。そこには、孔雀と月読が、立っていた。
「あっ、孔雀と月読お姉ちゃんだ」
 アシュラは、まるで子犬のように孔雀と月読の元に走り出し、孔雀に抱き着いた。
「遅かったじゃねぇか、孔雀。もう、俺は一戦交えたっていうのによぉ」
 王仁丸は、にやりと笑った。
「ふん。それにしちゃ、傷だらけじゃないか、王仁丸」
 そんな王仁丸の姿をみて、孔雀は、皮肉った。
「私も頑張ったよぉ。私が、いなかったら、絶対、王仁丸、負けてたよ」
 アシュラもまた王仁丸をからかうように言った。
「てめぇ、アシュラ。ぶん殴るぞ」
 王仁丸は、その大きな拳に息を吹きかけた。
「いやぁん、王仁丸がいじめる」
 アシュラは、孔雀の後ろに回り、王仁丸にあっかんべぇをした。
「まぁまぁ。で、王仁丸、そこに倒れてる奴とやったのか?」
 孔雀は、体から煙をだして倒れている今まで人間であった者を見た。
「あぁ、嵐の師とか言っていたぜ」
 王仁丸は、流れる血を気にすることなく、孔雀に言った。
「そんな。風伯様が、父についていたなんて」
 月読は、ショックのあまりその場にへたり込んでしまった。
「知っておられるのですか?月読様」
孔雀は、月読を気遣うように聞いた。
「女人堂では、人格者で、心優しく、時には、厳しい尼僧です。それなのに、何故、父方に。。」
 月読は、言葉を詰まらして言った。その時、消し炭になった風伯が、ゆらりと立ち上がって来た。
「馬鹿め。こんなことで私は、倒れぬは!!」
 風伯は、そう言うと同時に、断末魔のような叫び声をあげた。すると、風伯の体は、どんどんと変化していき、まるで、かまいたちのような怪物になっていった。
「なに、あれ」
 アシュラは、恐怖と驚きで目を大きく見開いている。
「ちっ、闇に落ちやがったが!!」
 王仁丸は、鬼の大斧を構えて、再びの戦いに備えた。
「アシュラ、月読様と一緒に下がっていろ」
 孔雀もまた、独鈷杵を胸から抜き、アシュラにそう言って身構えた。
「うん、わかった。気を付けてね、孔雀」
 アシュラは、月読の手をひいて、木の陰へ身を隠した。
「ふん。俺一人で十分なのによぉ。足、引っ張んじゃねぇぞ、孔雀」
 王仁丸は、孔雀を横目で見ながら、にやりと笑った。
「お前こそな。行くぜ、王仁丸」
 孔雀もまた笑った。
「孔雀?おのれ、闇の子」
 風伯の形相は、鬼そのものだった。そして、風伯は、物凄い勢いで、体を回転させると、巨大な竜巻となって孔雀と王仁丸に襲い掛かった。
 孔雀と王仁丸は、飛ばされないように大地に力強く踏ん張った。が、通り過ぎた後、孔雀と王仁丸の体に、無数の傷が、刻まれ血が噴き出した。
「フハハハハ。どうだ、孔雀、王仁丸。われは、すでに風と一体になることができる。手も足も出まい」
 風伯の両腕は、大鎌になっていた。
「ふん。あんなこと言ってやがるぜ、孔雀。化け物風情がよぉ」
 片膝をついて血反吐を一つ噴き出して王仁丸が、風伯をにらみつけた。
「あぁ、王仁丸。いかに以前は人格者だったとはいえ、最早、闇に落ちた者を許すわけにはいかない」
 孔雀もまた風伯を睨みつけた。
「ふははは。ならば、来い。孔雀、王仁丸、お前たちを喰らってやるわぁ」
 風伯は、再び回転を始めた。
「やるぞ、王仁丸。臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前」
 孔雀は、素早く九字をきり、手に気を込めると、まるで光の刃となったかのように手が輝きはじめた。そして、素早く風伯の元へ走りだし、天高く飛んだ。
 と同時に、王仁丸は、鎖で繋がれた大斧を振り回して走りだした。
「はぁあ!!」
 気合一閃。孔雀が腕を振り下ろした。
「管ばりやがれぇ」
 王仁丸もまた、振り回していた大斧を風伯に投げつけた。
 二人の攻撃で、風伯が十文字に切り裂かれたように見えた。が、その攻撃が、全く効いてないかのように竜巻となった風伯は、元に戻っていった。
「そんなもの、私には効かぬ。お前たちは、私に手も足も出ず死んでいくのみだ」
 風伯は、竜巻となり、再び孔雀と王仁丸に近づいてきていた。
「くそったれ!!」
 王仁丸と孔雀は、間一髪でその攻撃をかわした。
「どうするよ、孔雀。このままじゃ、奴のいう通りになっちまうぞ」
 王仁丸は、孔雀に向かって怒鳴った。
(確かにそうだ。が、方法は、あるはずだ)
 孔雀は、頭をフルに使って方法を考えた。
「王仁丸、土雷を放つ準備をしろ」
 孔雀は、王仁丸に怒鳴った。
「土雷を?どうするつもりだ、孔雀」
 王仁丸もまた叫んだ。
「いいから、早くしろ。風伯を倒す」
 孔雀は、風伯を睨みつけた。
「わかったよ。なにか策があるんだろう?お前に乗っかるのは癪だが、やってやるよ」
 王仁丸は、呪文を唱え始めた。
「天の御柱、地の御柱、闇より来りて我に従え。来い、我が神の生死をも支配する黄泉の八雷神の一匹・土雷」
 王仁丸が、天に向かって叫ぶと、雷鳴が轟き、王仁丸の体を貫いた。すると、王仁丸の右手には、強烈な雷の塊が現れ、それは、まるで口を大きく開けた鬼のような顔に見えた。
「オン・マユラ・キタデイ・ソバカ。孔雀明王延命飛行呪」
 孔雀は、孔雀明王の印を結び唱えると天高く空へ飛んだ。
「イー!!ナウ・マク・サンマンダ・ボダナン・インダラヤ・ソバカ」
 そして、雷帝・帝釈天の真言を唱えると孔雀の指が避雷針のような役割をしたかのように雷が落ちた。
 普通の人間なら一撃の元に死んでしまうかもしれないが、孔雀の指に落ちた雷は、まるで大刀の刃のような形となっていた。
「そこか!!貫け、雷帝」
 孔雀は、風伯の姿を完全に捉えて、一気にその雷の刃を振り下ろした。
 その光景は、まるで大地に突き刺さる雷の槍で竜巻を切り裂いたかのようだった。
 その一つの要因が、王仁丸が放った土雷にあった。
 孔雀の狙いは、こうだった。
 土雷を地に這わせておく事で電気のプラスとマイナスのように干渉しあい強力な力で幽白を打ち倒す目的だった。
 それが、まんまと功を奏した。
「ぎゃぁあああああ!」
 風伯は、悲鳴をあげ、今まで以上に黒焦げになって横たわっていた。
「終わりだ、風伯」
 虫の域になって今にも死にそうな風伯に、王仁丸と孔雀が近づいて行った。
「お、おのれ。孔雀、王仁丸」
 風伯は、すでに抵抗できないことを自らわかってはいたが、それでもなお、反撃のチャンスをまった。その時、風伯の目にとまったのは、月読の姿だった。
「月読ぃぃぃぃぃぃぃぃ」
風伯は、最後の力を振り絞って月読に襲いかかった。
「月読様!!」
 孔雀と王仁丸は、完全に虚を突かれた。が、月読が襲われそうなところにアシュラが割って入って、手に持っていたヌンチャクで風伯を地にたたき伏せた。
「あんた、いい加減にしなよ」
 アシュラは、風伯の顔をむんずと掴むと、その手に全力の気を込めた。
「もえちゃえーー」
 アシュラの目が金色に輝くと猛烈な炎が、手から現れて、風伯を覆いつくした。
「お、おのれぇーー」
 風伯の存在は、跡形もなくなった。
「はははは」
「凄ぇなぁ、おい」
 孔雀と王仁丸は、顔を見合わせて苦笑した。
「よし。さぁ、行くわよ、孔雀、王仁丸」
 アシュラは、ハンカチを取り出し、両手を拭くと月読の手を引いて歩きだした。そのあとに、頭をぽりぽりと掻きながら孔雀と王仁丸が続くのだった。
 
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