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永遠の謎

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137部分:第九話 悲しい者の国その十


第九話 悲しい者の国その十

「これは私は自分の作品の中で述べていますね」
「さまよえるオランダ人とタンホイザーですね」
「その二つの作品ですね」
「マイスタージンガーと指輪もです」
 そちらもだというのだ。既に脚本は完成し友人達に見せているのだ。王にもだ。知られていないのは音楽だけであるのだ。そうした意味で未完の作品なのだ。
「そしてトリスタンは」
「確か死ぬのでは」
「イゾルデもまた」
「彼等は死の世界に向かうことで救われるのです」
 それがトリスタンとイゾルデだというのだ。
「トリスタンはイゾルデと出会うことによって。ですから」
「あの作品もですか」
「女性的なものによって救済される」
「そうだというのですね」
「はい、あの作品も然りです」
 ワーグナーは確かな声で返した。
「女性的なものによってです」
「救われる」
「そうなりますか」
「人は女性的なものによって救われるのです」
 ワーグナーはまた己の作品に共通するこのテーマを述べた。
「それを考えますと」
「あの方は女性だったのですか」
「そうだったのですか」
「陛下御自身も気付かれていません」
 他ならぬ王自身もだというのだ。それに気付いていないというのだ。
「ですが。私は陛下に救われましたし」
「それも考えるとですか」
「あの方は女性なのですか」
「御心は」
「だからですか」
 ここでまた友人の一人が言った。
「あの方は女性を愛されない」
「愛されるのは美しい青年だけですね」
「あの方は」
 王のそうした嗜好もまた知られるようになっていた。女性を知らないという意味において王は清純であった。それを清純と言うならば。
「だからですか」
「女性であるからこそ」
「同性である女性を愛されない」
「そうだったのですか」
「そうなのだと思います」
 ワーグナーは今はさながら哲学者であった。少なくとも今の彼は王に対して深い、それでいて慈しむ洞察を見せていた。
「あの方はそうなのです」
「身体は男性でも心は女性」
「妙なことではありますが」
「陛下はそうなのですか」
「実は」
「それがよからぬことにならなければいいですね」
 一人がこう言った。
「決して」
「では陛下は后を迎えられない」
「そうだというのですか?」
「はい、それではそれはできないのではないでしょうか」
 こう話すのだった。
「それでは」
「確かに。王は后を迎えなければなりません」
「そして子をもうけなければなりません」
「必ず」
 これは言うまでもないことだった。王、もっと広く言えば王家の者は伴侶を迎えそのうえで子孫、跡継ぎをもうけなければならないのだ。それがそのまま王家を存続させることだからだ。
 そして王は。年齢としてもだった。
「もういい頃ですし」
「后を迎えられてもいい御歳です」
「そうした話が王家や宮廷でも出ていますが」
「陛下が女性であるならば」
 その心がそうならばというのである。
 
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