空に星が輝く様に
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51部分:第四話 桜の木の下でその十四
第四話 桜の木の下でその十四
月美は座ると鞄から何かを出してきた。見ればそれはメロンパンだった。
「あれっ、食べたんじゃなかったのか?」
「今言ってたけれど」
「デザートです」
月美はこう狭山と津島の問いに答えた。
「これは」
「そうか、デザートか」
「それで持ってるの」
「はい、じゃあこれ頂きますので」
「つきぴーはパンが好きなのよ」
そのメロンパンの袋を開ける彼女の横にいる椎名がまた言ってきた。
「それでお昼のデザートとかにいつも持ってるの」
「そうだったの」
「そうなの」
また話すのだった。
「特にメロンパンがね」
「はい、大好きです」
その頼りなげな顔を微かに笑わせての今の月美の言葉だった。
「メロンパン。お母さんが好きで」
「ああ、そうなんだ」
陽太郎はそれを聞いて述べた。
「それでなんだ」
「あっ、貴方は」
「また会ったね」
陽太郎は微笑んで月美に告げた。
「何か縁があるよね」
「そうですね」
月美もその笑みで彼に応えた。
「何か」
「今日もこうして会ってね」
「入試の時から」
「同じクラスだから」
椎名がここでまた言ってきた。
「私とこれ」
「おい、ちょっと待てよ」
陽太郎は今の椎名の言葉には少し抗議した。
「これってなんだよこれって」
「名前ど忘れしたから」
「本当か?」
「嘘」
僅か二つの文字でそれは否定した。
「ただの悪ふざけだから」
「悪ふざけかよ」
「そうよ。悪ふざけよ」
それだとまた話す椎名だった。
「私の趣味なの」
「悪趣味だな」
「そうかしら」
「そうだよ、悪趣味だよ」
こう返す陽太郎だった。
「全くな、椎名って意外とそういうところあるんだな」
「ああ、これ意外とじゃないから」
ここで赤瀬が話す。8
「椎名さんってお茶目だからね」
「お茶目っていうのか?これって」
「はい、そうです」
赤瀬だけでなく月美も言ってきた。
「愛ちゃんは場を和ませる為にこうした冗談をよく言いますよ」
「そうだったのか」
「そうなんですよ。いい娘ですよ」
「うふふ」
ここで表情を崩さず笑う椎名だった。
「私はいい娘」
「そうかなあ」
「何か曲者っぽいけれど」
狭山と津島は首を傾げさせてそれはどうかと言う。
「しかし。見ているとな」
「飽きないっぽいわね」
「はい、愛ちゃんは見ていると飽きません」
また笑って言う月美だった。
「一緒にいるだけで楽しくなれます」
「つきぴーも一緒にいたら和む」
「癒し系か?」
「中々お付き合いしてくれないけれどいい娘」
椎名は月美を評してこう言った。
「とても」
「そうなのか。じゃあ西堀さんだったよね」
「はい」
「あらためて宜しく」
こう月美に言うのだった。
「これからね」
「はい、宜しく御願いします」
陽太郎の言葉に微笑んで応える月美だった。
「これからも」
「剣道部と居合部って一緒の道場だしね」
「そうですよね。あっ、私それに」
「それに?」
「弓道部にも入りました」
それにも入ったというのである。
「そちらも頑張ります」
「えっ、弓道もかよ」
「そっちもしてるの」
狭山と津島はそれを聞いて目を丸くさせて驚いた。
「武道家なんだな」
「かなり意外」
「意外ですか」
「だってな。凄い美人さんだし」
「おしとやかな感じよね」
月美のその楚々とした外見を見ての言葉だったのである。実際に彼女のsの外見はどちらかというと文学少女のものである。武道の印象はない。
「あまりそういうのはな」
「感じがないから」
「それでも居合も弓道もいいものです」
それはいいというのである。
「身体だけでなく心も鍛えられます」
「心も?」
「それもなの」
「はい、私はまだまだ未熟ですけれど」
性格故か謙遜も出た。
「そう言われています」
「まあ何かさ」
「心は優しい感じよね。礼儀正しいし」
それはわかるというのである。月美のそうした性格はだ。
「性格美人?」
「そうよね」
「つきぴーは押しが足りないの」
椎名がまたぽつりとした感じで言ってきた。
「それは何とかしないと駄目だけれど」
「まあそれは少しずつやっていけばいいんじゃないか?」
こう言ったのは陽太郎だった。
「ゆっくりとさ。時間はあるし」
「時間はですか」
「そう、やっていけばいい」
そうだというのである。
「そう思うよ」
「わかりました。では少しずつ」
月美は静かに頷いた。二人の関係も少しずつだった。
だがそれと共に確実だった。確実に進んでいっていた。
桜の木の下で 完
2010・3・20
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