艦むすに愛あるセクハラを
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プロローグ
前書き
ターゲットナンバー1:大淀
~プロローグ~
『セクハラ』という言葉がある。
正式名称は『セクシャルハラスメント』……性的ないやがらせを意味する言葉だ。
昨今ではこのセクハラが社会的に問題となっており、肉体的な接触から言葉による容姿への言及は勿論のこと、やれあの男と目が合っただの、やれあのおじさんと肩がぶつかっただのといった軽微なものまでセクハラと言われてしまう始末である。
無論、それは男性から女性に限ったものではなく、逆に女性から男性にといった内容のセクハラもあるにはあるのだが、基本的にセクハラと言えば男性側からの行為を指し示す場合が多いと考えられる。
それらの事実を踏まえて私は考えるのだ。
『女性にとってはどこまでがセクハラじゃなくて、どこからがセクハラに当たるのか』と。
我ながら何ともおかしなことを考えるものだと呆れてしまうが、それでも気になるものは気になるのだ。
手と手が触れたらセクハラなのか?
指先が触れるだけでもセクハラなのか?
はたまた手を伸ばしただけでもセクハラなのか?
そのことを考え始めれば夜も寝付けなくなるほどにまで、私の頭はセクハラという言葉に染まってしまっていた。
このままでは日々の業務……最悪、艦隊の指揮にすら悪影響が出る恐れがある。
それを避けるためにも……。
提督「今日から、この鎮守府に所属している艦むすの諸君にセクハラをしようと思う」
大淀「あの……頭大丈夫ですか?」
その宣言を聞いた大淀は、何とも残念な人を見るような目で私の顔を見つめてきた。
所謂『かわいそうな人を見る目』だ。
提督「まぁ聞いてくれ大淀。セクハラとは言っても、何も私は性的な意味の行為をしようというわけではないのだ」
大淀「はぁ……そうなんですか?」
一応のフォローの言葉を入れてみても彼女の浮かべる胡散臭そうな表情に変化は見られない。
どう見ても私の言葉を疑っているのが丸わかりだ。
提督「私はあくまでこの鎮守府に務める艦むすの諸君のセクハラに対するボーダーラインの見極めをしたいと思っているのだけだ。極端な例だが、私から声を掛けられただけで『セクハラだ!』と騒ぎ立てるような子がいたら、それは仕事を進める上で大きな問題になりうるだろう?」
大淀「本当に極端ですが、確かにそれは問題ですね」
提督「だろう?そこで最初の話に戻るわけだ。事前に今からするセクハラの内容について許可を取った上で私がそれを行動に移し、それを受けた艦むすが私の行動をセクハラと判断するかどうかを確かめたい」
大淀「ふむ……」
そう言うと、大淀は考え込むように腕を組んだ。
これは彼女から許可を貰えるまであともう一押しだな。
提督「無論、嫌がるようなら絶対に無理強いはしないし、仮にその内容の話をした時点でセクハラだと言われたら私もそれ相応の罰を受けることを約束しよう」
大淀「ほう、例えば?」
提督「そうだな……。流石に憲兵のお世話になるのは鎮守府の運営に支障が出るので、ここはセクハラ被害(?)にあった子の言うことを何でも一つ聞くと言うことでどうだろう?無論、私に出来る範囲でだが」
大淀「『何でも』……ですか?」
私の言葉を聞いた大淀の目がキラリと光る。
これは間違いなく、釣れたな。
提督「ああ。まぁ流石に『提督を辞めてほしい』とか『〇んで欲しい』といったお願いは聞けないが、それ以外のものなら大抵のことは聞くつもりだ」
さぁ、彼女の反応はどうだ?
大淀「……まぁ、それほどの覚悟があるのなら私は何も言いません。提督はお人柄は理解しているつもりですし、本当の意味でのセクハラ行為はしてこないだろうとも思っていますしね」
提督「ありがとう。理解してくれたようで嬉しいよ」
ニコリと笑って私の考えを認めてくれた大淀の顔を見ながら私も思わず頬を緩める。
大淀「いえいえ。……それでは、皆さんにはちゃんと伝えて下さいね?」
大淀「青葉さん?」
提督「え」
しかし、それが間違いだった。
青葉「お任せください!明日の一面はこれで決まりました!『司令官の大胆宣言!セクハラ王に、俺はなるっ』!これは売れますよ~!」
提督「え?あ、ちょっ……」
青葉「それでは、早速編集作業に入りますので、青葉はここらでお暇させていただきますっ!ではっ!」
大淀「頑張って下さいねー」
提督「」
突然天井裏から現れたと思ったらこちらの話も聞かずに執務室から走り去っていく青葉の背中を、この部屋の主たる私は、ただ茫然と見送ることしか出来なかったのだった。
~おまけ(というの名の本番)~
提督「……ま、まぁ、考えようによっては私が事前にセクハラをしてくることを皆が一斉に知ってくれるわけだし、それはそれで問題はないか」
大淀「皆さんがそのことをどう解釈するかによって提督が受ける被害も変わってくると思いますけどね」
提督「それも覚悟の上さ。……さて、それでは大淀よ」
大淀「はい。何でしょうか、提督」
提督「早速だが、君にセクハラをしたいと思う」
大淀「……内容によります」
提督「君の体を……抱きしめたい」
大淀「そうですか。なら……はい」
提督「ん?」
大淀「何を呆けているんですか?私の体を抱きしめるのでしょう?」
提督「あ、いや、勿論そのつもりだが……本当にいいのか?」
大淀「私にとってはその程度はセクハラには当たりませんので。ほら、どうぞ?」
提督「……うむ。では、失礼する」
大淀「あっ……」
手を広げてにこやかに笑う大淀の体を、私を痛くない程度の力加減で抱きしめた。
その瞬間に感じる彼女の柔らかさと女性特有の甘い香り。
私の体全体が今、大淀という一人の女性を強く認識した瞬間だった。
提督「温かい……な」
大淀「私もです……」
提督「……痛くはないか?」
大淀「問題ありません。……寧ろもっと」
提督「ん?」
大淀「もっと強く、抱きしめて下さい……」
提督「……心得た」
大淀「んんっ……!」
先ほどよりも力を加えながら大淀の体を抱きしめる。
その際に彼女の口から漏れた甘い声が、私の脳髄を強く刺激していく。
普段の凛とした大淀からは考えられないほど蕩けきった声が、嫌でも私の中の雄の本能を滾らせてくるのだ。
提督「君の髪は綺麗だな。触り心地もいいし、何よりいい匂いだ……」
大淀「提督も……いい匂いです……。月並みですけど、男らしい……力強い、野生的な匂いです……」
提督「それは……褒め言葉と受けとってもいいのかな?」
大淀「勿論です。……お嫌でしたか?」
提督「いや……嬉しいよ」
大淀「あっ……。提……督……っ!」
お互いの髪の感触や匂い差異を楽しみながら、私達はそのまま数分程抱き合った。
私達以外誰もいない、仄かな月明かりが差し込む執務室の中で……。
提督「ふぅっ……この辺りでいいだろう」
大淀「えっ……もう終わりですか?」
暫くして私が大淀の体から手を放すと、彼女はそのわずかに上気した顔に残念そうな表情を浮かべながら口を開く。
提督「いやいや、これ以上は私が色々と我慢できなくなってしまうからな。ここまでが精一杯だ。君とて、これ以上は望むまい?」
大淀「いえ、私はそれ以上のこともウェルカムですが」
提督「……聞かなかったことにしておくよ」
真顔で爆弾発言をしてくる大淀に若干背筋を寒くしながら私は苦笑いを浮かべる。
時刻も既に午前0時に差し掛かっているため、お互いに奇妙なテンションになっているのだろう。
きっとそうに違いない、うん。
提督「おかしなことに付き合わせてしまって済まなかったな。業務も残っていないし、今日のところはここらで解散することにしよう」
大淀「……分かりました。では、お先に失礼いたします」
提督「ああ、明日もよろしく頼むよ」
大淀「はい。……ああ、それと提督?」
提督「ん?」
執務室から外に繋がるドアの前で立ち止まった大淀は、そのままゆっくりと私の方へと振り返った後にこう言った。
大淀「よろしければ……また、私のことを抱きしめて下さいね……?」
提督「……うむ。善処しよう」
大淀「楽しみにしています。それでは、お休みなさい」
そう言って急ぎ気味にドアを閉めた彼女の顔は、まるで熟れたトマトのような鮮やかな赤色に染められていたのだった。
後書き
ネクストターゲット:明石
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