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短編達

作者:RIGHT@
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大学生そうゆな

 
前書き
前2話の奏輝と幸奈が大学生になったシチュエーションでの短編です 

 
「奏輝君、少しいいかしら?」
「どうしました?」

 大学から同棲しているアパートに帰る途中、暑さに耐えかねて涼みに行ったカフェで幸奈はそう話を切り出した。

「夏休みに入ったら、ゼミの歓迎会があってそれに誘われたの」
「ああ、俺の方も誘われました」

 因みに奏輝と幸奈は同じ大学だが別の学部でゼミも別々だ。

「その……行っても大丈夫?」
「それを決めるのは俺ではないですよ」

 俺は別の用事があったので断りましたけど。と付け足して奏輝は珈琲を飲む。

「予想通りの回答ね……」
「行きたいのなら行けばいいですし、行きたくなかったり、用事があれば断ればいいんですよ。あーでも……」
「でも?」

 少し考えてから奏輝は考えていた事を話す。

「歓迎会に出ないとなると後々気まずくなることもありますから、どちらでもなければ行った方がいいかもしれませんね」

 奏輝のその言葉に幸奈は納得してうーんとストローをグラスの中でクルクルと回しながら考える。

「そうね、行くわ」
「そうですか。あ、日時を聞いてもいいですか?」
「来週の土曜日で夕方六時から夜の八時までよ」

 分かりました。と奏輝は言って珈琲を今度は飲み干した。そこで奏輝はそうそうと思い出して一つだけ付け足す。

「くれぐれもお酒は飲まないようにお願いしますね」
「え?」

 何故? そもそも飲んだこと無いわよ? という表情で幸奈は奏輝の方を見る。

「前に俺と幸奈さんと幽人の三人で飲んだ時に、少し飲んだだけで相当暴走しましたから」

 覚えていませんか? と奏輝が聞くと幸奈は少し記憶を探ってから全く欠片も無いことを確認して頷いた。

「ど、どんな暴走をしたの……?」
「この場では言えないですね」
「そう言われると気になるわね……飲まないって約束するから、守れたら教えて?」
「普通に家で教えようと思ったんですが……分かりました」

 幸奈は小指を出し、『ゆびきりげんまん』をしてカフェを後にした。それを偶々見ていた店員は暖かい目で二人を見送った。
 そして土曜日の夕方、幸奈の服装は肩を露出している以外は大人しめなのだがその美しさを引き立てている。

「もう、何回も見てるでしょ?」
「何回見ても見惚れるんですよ」

 少し顔を赤くして恥ずかしがる幸奈に奏輝はニコニコと彼女の格好に素直な感想を送る。

「そんなお世辞言ったって何も出ないわよ?」
「俺が嘘だとかお世辞を言うのが苦手な事は幸奈さんが一番知ってますよね」

 だから本心ですよ。と付け足す奏輝の言葉で幸奈の顔は更に赤くなる。

「もう……あ、そろそろ時間ね……行ってきます、一応終わったら連絡するわ」
「分かりました。楽しんでくださいね」

 靴を履いた幸奈を送り出そうとした奏輝。しかし、幸奈はドアを開ける前にクルッと反転して彼の所まで戻ってきた。

「忘れ物ですか?」
「ええ。奏輝君、ちょっと屈んで?」
「? はい」

 幸奈の言葉に首を傾げながらも、玄関で更に開いた差を縮めるように屈んで幸奈の目線に合わせた。
 スッと幸奈の顔が横に行ったかと思ったら、奏輝の左頬に柔らかい感触が伝わり、囁きが耳に届いた。

「何も出ないと言ったけど、これなら幾らでもできるわね。勿論、奏輝君だけにだけど」

 不意を突けたのが嬉しいのかフフッと微笑んで幸奈は唇を触る。
 一方で奏輝は、された事を理解はしているがどう反応していいか分からず何度か瞬きしてから珍しく顔を赤くした。

「あ、改めて、い、行ってくるわ」
「あ、はい。行ってらっしゃい……」

 お互いに恥ずかしくなったのか幸奈は急ぎ足で今度は止まらず、勢いよく出ていった。

「……あれは反則ですよ……」

 ──大好きよ。

 キスとストレートな愛の言葉で奏輝は一人になった家で、思い出しながら破顔した。


 ゼミの歓迎会は二人の家から少し離れた場所の居酒屋で開催され、幸奈は約束を守りずっとソフトドリンクを飲んでいた。

「やっぱ桐凪さんも飲もうぜー! みんな飲んでるからさー」

 そうやって何度目かの酒を勧める言葉を口にしたのは四年生の、ゼミでリーダー的な存在である男子だ。

「ごめんなさい。私、お酒は飲めなくて……」

 何回目かになる断りの言葉を言い、幸奈はグレープフルーツジュースに口を付ける。

「幸奈ちゃん飲めないんだねー。なんかイメージだと酒豪っぽいんだけどなー」

 隣に座っていた幸奈と同じ学部の女子が意外そうにそう言う。

「飲むとすぐに睡魔に襲われて寝てしまうの。奏輝君の方がよく飲むわね……赤くなってる所は見たことないけど……」
「空浪君ってお酒好きなんだ! あの外見で強いって意外だなー」
「え? なになに? 桐凪ちゃんの彼氏の話? 聞かせて!」

 そこから女性陣は幸奈に質問の嵐を浴びせていった。

「それじゃそれじゃ写真とかあるの?」

 男女問わず、美人と評判な幸奈の彼氏がどんな人か気になったようだ。

「あまり多くは無いけど……数枚なら……」

 幸奈はスマホを起動させて二人の写真──は流石に見せるのが恥ずかしく、奏輝単体が写っているフォルダをタップして見せる。

「へーこれが……」
「ほうほう……」
「うーん……」
『『普通ね』』

 女性陣はバッサリと奏輝の容姿についての感想を述べた。後ろから男性陣も写真を見て「ナヨナヨしてんなー」や「ザ・もやしっ子か」「オレの方がイケメンじゃん。こりゃ桐凪ちゃん攻略できちゃう?」等と女性陣ちは聞こえないようにヒソヒソと話していた。
 尤も、幸奈の耳には届いていたが。

「そうね。確かに奏輝君の容姿は普通で、身体も細いけど……彼は誰よりも優しくて、誰かの為に動く彼は誰よりもカッコいいの」

 誰もが見惚れる笑顔で幸奈はそう断言した。それに頷くのは奏輝と幸奈の事を他の人よりも知っている大学で仲良くなった女子だけだ。

「ヒューヒュー! お酒もあって暑くなっちゃったわー」
「ご馳走さま、桐凪ちゃん」
「いつもはクールなのに彼氏君の事になるとそんな顔するんだねー」

 女性陣にそう冷やかされ、幸奈はハッと自分がのろけた事を自覚して顔を真っ赤にして俯き、黙ってしまった。

「す、少しお手洗いに……」
「あー、私もー」

 数分しても時折冷やかされるので幸奈はその場から逃げるようにその場から離れた。

「面白いこと思いついた──」

 離れるときに幸奈の耳に届いたのは男性の声で何か含みのあるものだった。何かとも思ったが、ゲームでもするのだろうと気に止めなかった。
 席に戻ると、勝手に席替えがされていた。少し戸惑ったものの、右側にリーダーの男子と左側に先輩女子だった為、普通に受け入れて席に着いた。因みに同じタイミングで席を立った女子はまだ戻ってきていない。
 先程頼んで、居ない間に届いたカルピスソーダを自分のものか確認してから幸奈はまた飲み始めた。
 ──あれ? 何か違和感が……?
 幸奈が覚えた違和感。それは、カルピスソーダの味もそうだが、周囲から異常に見られているような、そんな違和感だ。

「……?」

 一度、グラスから口を離してチラッと周囲を見るがメンバーは誰も幸奈の方を見ていなかった。
 ──さっきの件で自意識過剰になったのかしら。
 そこから、幸奈は思考がどんどんできなくなっていった。

「あれー? 幸奈ちゃん飲めるじゃーん。それサワーだよー?」
「ほら、やっぱり1杯くらい平気だって!」
「もっと行けるんじゃない?」

 幸奈の周りは、実質全員敵しか居なかった。やはり歓迎会という空気がそういう流れにしたのか、既に全員酔っているからか、盛り上げたい為か騙したように酒を飲ませてどんどん幸奈に酒を勧めていく。

「でも……そうき君と約束を……」

 そう言って1割程飲んだカルピスサワーを離して拒否する。その短い言葉でも既に呂律が綻びを見せていた。

「そんなの適当に流せば大丈夫だって!」
「破っちゃおうよー。だってお酒の席だよー?」
「せめて、これだけ飲んじゃおうよ!」

 確かに、出された─それも一度口を付けた─ものを残すのはマナーが悪いと思い、幸奈もこれだけならとカルピスサワーを少しずつ、少しずつ飲んで行った。

「あ、あれ? 幸奈ちゃん顔が赤いけどもしかして飲んだの? 大丈夫?」
「あ──」
「試しに飲んでみたら行けるっぽいんだよ!」

 幸奈が唯一、遠慮せずに言える女子が戻ってきて説明をしようとするも、リーダー男子に遮られて何も言うことは出来なかった。

「ふーん。そうなんですか!」

 その女子は納得したようで席替えで幸奈と離ればなれになった席へ移動していった。

──────────────────

 幸奈がカルピスサワーを飲まされてから数十分後、歓迎会はお開きとなった。

「お疲れ様! 二次会やる人はハメを外しすぎないようにしてね! 短い間だけどこれからよろしくぅ!」

 リーダー男子のその言葉に幸奈以外の全員が元気に返答して各々二次会やら、自宅やらを目指して去っていった。

「幸奈ちゃん大丈夫? 凄く赤いしフラフラだよ……? 奏輝君呼ぶ?」

 仲のいい女子がそうやって進言してくれるが幸奈は呂律の回らない声で

「らい、じょうぶ……」

 そうやって遠慮した。幸奈はあの後もう一杯、少し強い酒を飲まされて奏輝への連絡も忘れる程酔ってしまっていた。

「オレが何処か休める所まで送っていくよ! 君はどうする?」
「あ、私はこの後……」
「そうか。じゃあオレに任せて!」
「はい……幸奈ちゃんをお願いします……ではまた……幸奈ちゃんもまたね!」

 リーダー男子がそう言って女子から幸奈を切り離した。女子はリーダー男子に任せて別れの言葉を言って去っていった。

「……桐凪ちゃん、大丈夫かい?」
「らい、りょうぶ……」

 フラフラしてそう応える幸奈に、男は心配そうな、しかし作戦が成功したかのようなそんな顔だ。

「大丈夫じゃなさそうだね。ほら、肩貸すよ」
「ありらとう、ごらいます……」
 
 幸奈は言われるがままに男の肩を借り、そのまま歩き始めた。

「こんなに弱かったのか、そりゃ飲まないわけだ……」
「ねむい……おうち……」
「そうか……じゃあ、家に来る?」
「そう……くん……かえ……ごめ……ん、なさい……」

 既に脳が半分以上眠ってしまっている幸奈はマトモな受け答えも出来ずに男に連れられるがまま、人通りの少ない住宅街の方にどんどん進んでいってしまった。

「それにしても……」

 男が視線を幸奈の方に移して、舐め回すかのように眺める。幸奈にしては珍しく、肩の露出をしている服が少し乱れていて胸元が露出してしまっている。

「何人かこれで引っかけて来たけどまさかこんな上玉を釣れるとはな……彼氏君には悪いが……クク……少しだけ味見を──」

 周囲に人影は全くと言っていいほど無い。悪意しかない男の右手が幸奈の身体に迫ったその時

「失礼します」

 背後から、落ち着いたしかし敵意に満ちたそんな声が男の耳に届いた。咄嗟に振り向こうとしたらいつの間にか男は幸奈から離れていた。

「どうも、幸奈さんを介抱してくださるつもりだったようで申し訳ありません」

 何が起こったか分からず呆けている男の目の前には長身の、しかし細身で見るからに軟弱そうな長い前髪で右目を隠した優しそうな黒髪の男が先程まで肩を貸していた筈の美少女を両腕で抱き上げていた。
 当の彼女はその男の腕の中で幸せそうに、可愛らしい寝息を立てながら眠っている。

「……き、君は誰だ? 取り敢えず、桐凪ちゃんを返してくれないか」

 そんな質問をしなくても、男は目の前で幸奈を抱き上げる青年が誰かを理解しているが限りなく低い希望に賭けて強く出る。

「ああ、すみません。お初にお目にかかります、幸奈さんの恋人の空浪奏輝と申します。
返せ、と言われても彼女はモノではありませんよ。仮に所有権が発生するなら『俺の』でしょう?」

 ニコニコと淀みなく静かに優しい口調で奏輝は男の質問に答えた。しかし、その言葉を聞いた男は背筋が凍るような思いをしていた。

「……ああ! 君が桐凪ちゃんの彼氏君か! そうそう酔い潰れちゃったから何処か休めるところへ連れていこうと思ってたんだ!」

 まるで「いい人」を演じるかのように男は嘘とも真実とも取れない事を喋り始めた。

「そうですか。ちなみにこの道を通っていたようですが、ここからは住宅街で店はコンビニくらいしかありませんよ? もしかして引っ越してきたばかり……いえ、そんな事は有り得ませんよね。経営情報学部四年生の葛原尚哉先輩?」
「それは…………」
「答えなくても大丈夫ですよ。大体分かりますから」

 依然として奏輝は笑顔で、しかし追い詰めるように会話を進める。

「そ、それじゃあ、オレはここで──」
「もう少し時間を頂けませんか? 幸奈さんをこんな時間に、こんな所まで運んで頂いたお礼と謝罪……そして先程の歓迎会で少し聞きたいことがあるので」
「わ、わかったよ……」
 
 そして、男──葛原はここで断らずに留まった事を直ぐに後悔するハメとなった。

「先ずは介抱ありがとうございました。そしてお手を煩わせてしまい申し訳ありません。俺がもう少し早く来ていればよかったのですが……」
「そんな気にする事じゃないよ……オレも桐凪ちゃんがお酒ダメなの知らずに、進んで飲もうとするのを止めなかったからね……」
「……幸奈さんが、酒を自分から?」

 会話を進めていくにつれて葛原は奏輝の冷たさが引いていくようなそんな感覚を覚えた。

「そうなんだよ。きっと盛り上がった空気に流されて、そういう気分になったんだろうね」

 それを好機かと思ったのか、あくまで自分は悪くない。と嘘で塗り固めた説明をした。嘘を付くときの癖で、視線を奏輝から外しながら更に取り繕った言葉を並べていく。

「それから───


「つまらない嘘をつくなよ」

 その言葉に、葛原は驚いて奏輝を見る。顔は依然として朗らかな笑顔なのだが──前髪に隠れた右目、それだけは先程とは違って開かれていて、眼光が自身を殺そうかという程の鋭さを持っていた。

「ソフトドリンク……例えばカルピスソーダを頼んだ幸奈さんが席を離れている時にカルピスサワーと入れ替えて飲ませた。その後に飲めるじゃん等と言いくるめて飲ませて、酔わせてから更に一杯飲ませた……と、そんなところですかね?」
「な、なんで……わかっ……も、もしかして……!」

 見ていたのか、そう聞く前に奏輝はいえいえ、と言葉を先読みして否定した。

「ただの予想ですよ。もしあの場に居たらそれこそお開きになった瞬間に駆け付けますよ」

 葛原には、既に目の前でずっと幸奈をお姫様だっこしている青年が人間にすら見えない状態になっていた。
 逸脱した想像力、柔和な笑顔に隠した冷たさ、細身なのに女の子をずっと持ち上げているその腕力に戦慄していた。

「す、すまなかっ」
「謝罪は要りません。そもそも反省する気が無いでしょう?」
「っ! そ、そんな事は無い! オレは」
「分かるんですよ。貴方のように嘘をつくことに慣れていて出任せばかりを吐く人は特に」

 全て、奏輝の言うとおりだった。もうなにも反論が出来ず葛原は忌々しそうに奏輝を睨むことしかできなくなっていた。

「俺からの話は終わりです。貴方は何かありますか?」
「……ない」
「そうですか。時間を取らせてしまい本当に申し訳ありませんでした。最後に1つだけお願いを──」

 言葉をそう区切った瞬間、奏輝の顔がガラリと変わった。それを見た葛原は背中が一瞬で凍りつくかのような悪寒に襲われた。

「二度と俺の幸奈に触れるな」

 では、さようなら。とこれまた一瞬で笑顔に戻った奏輝が一礼をしてスタスタと去っていく。

「なんなんだよ……アイツ……」

 葛原は奏輝の圧力に負け、暫くその場から動くことが出来なかった。


「そう、き、くん……ごめん、なさい」

 奏輝の両腕で眠っている幸奈は時折奏輝への謝罪を口にしていた。それを聞くたび、「幸奈さんは何も悪くないんですから、謝らなくていいんですよ」と優しく声を掛けていた。
 アパートに着き、奏輝は幸奈をそのまま寝室まで運んでベッドの上に寝させた。

「ゆっくり休んでください。俺のお姫様」

 行きのお返しとばかりに、奏輝は寝ている幸奈の頬に軽くキスをしていつも通り同じベッドで眠りについた。
  
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