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真田十勇士

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巻ノ百四十六 薩摩入りその六

「ううむ、あと一歩でしたな」
「あと一歩で大御所殿の御首を取れましたな」
「いや、よくぞそこまで迫られました」
「真田丸での戦も見事でしたが」
「ははは、真田丸ですか」
 幸村は真田丸の話に応えて述べた。
「今は懐かしいですな」
「左様ですか」
「そう思われますか」
「真田丸のことは」
「今では」
「あの時の戦は最近の様で遠い昔の様にも思いまする」
 両方思うというのだ。
「どうも」
「左様ですか」
「その様に思われますか」
「今では」
「そうなのですか」
「はい」
 こう島津家の者達に話した、酒それも好きな焼酎を飲みつつ。
「どうも、しかしはっきりと覚えておりまする」
「その戦ぶりは」
「幕府の軍勢を一手に引き受けた戦を」
「まさにですが」
「いや、あの時はあの真田丸でどれだけの軍勢が来ようとも」
 その時の気概も話すのだった。
「凌ぐつもりでした」
「その思いのまま戦われ」
「そうしてですな」
「戦にも勝つ」
「そのおつもりでしたか」
「そうでした、しかしそれも」 
 ここでこうも言った幸村だった、ふと遠いそして残念そうな目になって。
「遠い昔です」
「そうですか」
「今ではですか」
「先日までの戦も」
「そう思われますか」
「激しい戦も終われば」
 そして思い起こせばというのだ。
「まさにです」
「遠い昔のことですな」
「言われてみれば我等もそうですな」
「九州での戦も」
「そして関ヶ原のことも」
「その全てが」
 ここで島津家の者達も遠い目になって述べた。
「まさにです」
「遠い昔のことで」
「それでいてすぐに瞼に思い浮かぶ」
「そうしたものです」
「ですな、これまで戦った全ての戦が」
 まさにとだ、幸村はさらに話した。
「遠い昔ですが」
「それでいてすぐに瞼に思い浮かぶ」
「そうした近いものでありますな」
「遠いが近い」
「そうですな、戦とは」
「不思議なものです、しかし戦の世は終わりました」
 幸村は確信を以て島津家の者達に話した。
「これから長きに渡ったです」
「泰平の世ですか」
「それが訪れますか」
「これより」
「そうなります」
 まさにというのだ。
「これで、民達は泰平の世を楽しめます」
「それでは我等もですな」
「戦うことはないですな」
「左様ですな」
「はい」
 幸村はまた答えた。
「二百年以上は続くかと」
「ううむ、長いですな」
「ではその間我等は常にです」
「右大臣様のご一族をお守りしていきまする」
「この薩摩の中で」
「そして真田殿も」
「はい、それがし達は薩摩で生きるつもりです」
 幸村もこう答えた。 
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