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老害

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第一章

                老害
 元針勇夫は日本球界においてメジャーで活躍しているシシロー以外に唯一人三千本安打を達成した人物である。
 この記録は長い間日本プロ野球において破られていなかった記録だ、だがそのだがその彼について八条大学体育学部でスポーツを学問的に研究している沢城貴丈は首を傾げさせていた。細い髪質の黒髪は右で七三に分けられている。面長で目は小さくすっきりとした顔立ちだ。背は一七六程で痩せた身体は中学高校の陸上部の部活の賜物だ。その彼が不思議そうに言ったのだ。
「何で元針ってあれだけの実績なのに監督もコーチもしていないんですか?」
「ああ、そのことか」
 貴丈の疑問に体育学部の教授である斎藤力が答えた、黒髪を長く伸ばし細い目を持っている。身体はかなりの大柄で脂肪は多少付いているが鎧の様な筋肉で全身を覆われている。かつてはレスリングの選手でありオリンピックでもメダルを獲得している。
「それはあの人の責任の」
「元針のですか」
「あれじゃあな」 
 苦い顔になってだ、元針は貴丈に答えた。
「監督もコーチもな」
「ひょっとして」
 貴丈はスポーツを科学的に学び将来は教師となり生徒達に教えようと考えている、だから人に教えることをいつも念頭に置いている。そのことから思ったのだ。
「元針って人に教えるの下手ですか」
「それもあるだろうな」
 斎藤は貴丈の言葉を否定せずに答えた。
「やっぱり」
「そうですか、選手としては立派でも」
「監督やコーチとしてはな」
「資質がないんですね」
「そうだろうな、あとな」
「あと?」
「試しに元針の言ってること聞いてみるといい」
 彼のそれをというのだ。
「テレビとかでな」
「ああ、サイケモーニングに出てますね」
 ここでこう言った彼だった。
「毎週」
「日曜の朝にやってるな」
「はい、それでですね」
「日曜の朝にな」
 まさにその時間にとだ、斎藤は貴丈に話した。
「観てそしてな」
「言ってることを聞けばですね」
「わかる、何で元針があれだけの実績で監督にもコーチにもなれなかったかな」
「名球会ですしね」
 二千本安打で入会となる、ピッチャーは二百勝か二百五十セーブで入会だ。言うまでもなくどれも相当に難しいことだ。
「名球会に入っている人はもう」
「監督にもコーチにもな」
「引く手あまたの人多いですね」
 その実績がものを言ってだ。
「やっぱり」
「そうだな、大抵の人はな」
「監督にもコーチにもですね」
「なってるな、むしろな」
「元針みたいにですね」
「どれもなっていない人の方が遥かに少ない」
「しかも元針は三千本安打ですよ」
 二千本どころかだ。
「そこまでの実績があるなら」
「普通はだな」
「監督やコーチになってますよ、それに」
 貴丈はここでさらに気付いたことがあった、それは何かというと。
「考えたら元針って解説者とかコメンテーターでも」
「出てる番組限られてるな」
「サイケモーニングだけですよね」
「殆どあそこだけだな」
「レギュラーですけれど」
「それもだ」
「番組観ればわかるんですね」
 そのサイケモーニングをとだ、貴丈は問うた。 
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