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人徳?いいえモフ徳です。

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十一匹め

シェルムの来訪をやり過ごし、シラヌイがやった実験結果を考察しつつ時折来る客に対応している内に、昼になった。

「しらぬいー。おきろー。おーい」

ボーデンが膝の上で寝ているシラヌイに呼び掛ける。

「きゅぅ…?………くぅ…くぅ…」

「二度寝すんな起きろ」

「きゅあぁ~っ…」

と伸びをしたシラヌイが再びぐでぇっとなる。

そして、十秒ほどするとボーデンの膝から降りた。

「メシにするぞシラヌイ」

「ごはん?」

獣化を解いたシラヌイが聞き返した。

「おう」

「いらないよ。じゃあね、ボーデン」

そのまま裸足でペタペタと店の表に出ようとするシラヌイをボーデンが引き留めた。

「待てコラ。どうする気だ?」

「適当に錬成した物売ってからなにか買うよ」

シラヌイは昨日と同じように、水晶を造るつもりだった。

「却下だここで食え」

「迷惑でしょ?」

「じゃぁお前も手伝え」

「んー。わかった」

ボーデンに手招きされてシラヌイはキッチンへ通された。

「ボーデン。どんな材料がある?」

「大抵の物はあるぞ」

「じゃぁなんか適当につくるよ」




side in

現在、アタシは目の前の狐耳ショタの行動を注意深く観察していた。

このショタは『何か』を知っている。

さっきの燃素説否定実験もそうだが、妙に大人びている気がする。

「ボーデン。こむぎこ、しお、たまご、さとう、ぎゅうにゅう、もくたんってある?」

テーブルに座ったシラヌイがアタシに尋ねた。

「あるぞ」

「つかっていい?」

「おう」

「やった!」

でもなぁ…。この笑顔なんだよなぁ…。

この純真無垢で屈託の無い子供の笑顔。

こんな子供がいったい何を知っているんだって話だよ。

言われた材料をボウルと一緒に渡すと、何やら魔法を使い出した。

「くりえいと!えぬえーえいちしーおーすりー!」

塩と木炭と水から白い粉末を錬成した。

「シラヌイ、その粉は?」

「できてからのひみつ!」

ほら、また私の知らない物だ。

シラヌイはなんと言った?

『エヌエーエイチシーオースリー』?

そんな物質は聞いた事がない。

その間にもシラヌイは塩、砂糖、小麦粉、『エヌエーエイチシーオースリー』を混ぜた。

そこに牛乳と卵を割って入れた。

シェルム先生の息子って事だから箱入り息子で料理経験皆無と思っていたが、なかなかに器用な奴だ。

「ボーデン。あわだてきある?」

「あー…あるけど薬品用だな」

「つかえねー」

「おい今なんつったコラ」

「じゃぁふぉーくちょーだい」

「遠慮無くなってきたなお前」

アタシこれでもエリクサー作れる唯一の錬金術師なんだけどなー…

フォークを渡すとカチャカチャとボウルの中身を混ぜ始める。

「何作る気だよお前」

「ほっとけーき」

ホットケーキ?なんだそれは?

「よーするに、あまいぱんだよ」

「へー…。シェルム先生に習ったのか?」

「んーん。ひみつ。いつかボーデンにもはなせるひがきたらいいなっておもうよ」

一瞬だけ、そうほんの一瞬だけシラヌイが遠い目をした。

大人のような、諦めた目だ。

「ボーデン、ふらいぱん」

「はいはいっと」

すこし小さいフライパンを渡してみた。

シラヌイが何をするのか見てみたいのだ。

「くりえいとふぁいあー」

ての上に焔を灯してフライパンを温め始めた。

「あ、ばたーわすれてた………。
くりえいと…」

「ちょっと待てバター錬成する気かお前は。
無茶だろ。ちょっと待ってろ」

急いでバターを持ってきた。

「どのくらいだ?」

「ちょっとでいいよ」

バターを一欠片フライパンに落とす。

ジュッと音がして溶け始めたバターをシラヌイはフライパンを動かして全体に回す。

「おたま…あ、そだ…
くりえいとあくあ。しぇいぷしふと。
ふぇいずとらんすとぅそりっど」

お玉を持って来ようとした時、シラヌイは産み出した水を凍らせてお玉を作った。

あり得ねぇ!いくらシェルム先生の息子でも氷結魔法だなんて!

シラヌイは作ったお玉に尻尾を巻き付けて、ボウルの中身を三割ほどフライパンに垂らした。

確かに両手はクリエイトファイアとフライパンで塞がってるけど…

「なぁシラヌイ。それどこで覚えた」

「おもいつき」

さて、こいつは天才かそれともバカか…。

シラヌイはフライ返しも使わずに茶色い板状の物をひっくり返した。

「ボーデン。おさら」

「ほれ」

シラヌイの目の前に皿を置くと、フライパンの中身を皿に置いた。

「いがいとできた」

シラヌイはボウルの残り七割も同じようにして作った。

「かんせい!」

手の上の焔を消して、言った。

「で、この丸いのは何なんだ?」

「ほっとけーき、もしくはぱんけーきっていうたべもの。
ほんのり甘くて美味しい…はず」

はずって。はずってお前なぁ…。

「はちみつかめーぷるしろっぷをかけてたべてもおいしいよ」

「蜂蜜ならあるが」

「じゃぁそうしよう」

使った調理器具を流しに置いて、テーブルに座る。

「「いただきます」」

ホットケーキとやらに蜂蜜をかける。

ナイフで切って、口に運ぶ。

「………………うまい」

side out







「………………うまい」

呟かれたボーデンの一言にシラヌイはニヤリと笑った。

「どう?」

「なんで発酵させてないのにフワッとしてるんだよ…」

「重曹入れたからねー…」

「『ジューソー』?さっきの『エヌエーエイチシーオースリー』とやらか?」

「そうだよ。あれ入れると二酸……燃素が出て来てふっくらするんだ」

「燃素? お前さっき燃素なんて無いって…」

「はぐはぐ…」

「ごまかすな。いや可愛いけどさぁ…」

「みゅ?」

「素か。素なんだな?」

「なにが?」

「なんでもねぇよ…」

ほんのり甘い、優しい時間が流れる昼時だった。 
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