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78部分:ニーベルングの血脈その十


ニーベルングの血脈その十

「ここは俺とあんただけだ。さしだからな」
「つまり私に逃げ場所はないと」
「それはお互いだ。で、あらためてあんたに聞きたい。まあ座ってくれ」
「はい」
「別にあんたをどうしようってわけでもねえからな」
「では何をされるおつもりで?」
「だから聞きたいだけさ」
 ジークムントは答えた。
「あんた、帝国に恨み持っていないか」
「私が?」
「そうさ」
 ジークムントは言った。
「何もなしで帝国と戦っている俺にすんなりと施設や物資を提供したり、全面的に協力したりするわけがねえ。つまりあんたも帝国と何かあるってことだ」
「ここは元々第四帝国の忠実な勢力圏でしたが」
「それもあるか」
「はい。市民はニーベルングの支配をよしとはしていませんので」
「まずはそれがあるな」
「ええ」
 彼は頷いた。
「そして・・・・・・あんたはどうなんだ」
「私ですか」
「ああ。帝国を語るあんたの目、憎悪に燃えている」
「ほう」
 ボードレールはジークムントのその言葉を聞きにこやかに笑った。だが目は決して笑ってはいなかった。
「あんた、帝国との間に何があったんだ?」
「私には年老いた妻がおりました」
 それに応じてか彼はゆっくりと口を開きはじめた。
「かみさんか」
「はい。長年連れ添っておりましてね。子供はいませんでしたが長い間二人でやってきました」
「そのかみさんで何かあったのか」
「はい。妻はあの時バイロイトに出掛けていました」
「バイロイトに!?」
「長い間会っていない姉夫婦と会いに。ですがその時」
「そうだったのか」
「妻は私にとってかけがえのない存在でしてね。それが急にいなくなるということがどんなことか」
「わかるぜ。そこまで言うことはねえよ」
「どうも」
「そういうことだったのか」
「まあ些細なことです」
「いや、それを聞いてよくわかったよ」
 ジークムントは低い声で言った。
「あんたが。どうして俺を必要としていたのか」
「貴方にお願いがあったからです。そして貴方もそれを目指している」
「そうした意味で。俺達は同じだったんだな」
「そうですね」
「共に帝国と戦う身だってことか。立場は違えど」
「私は剣を握ることすらできませんがその剣のもとになる鉄を用意することはできます」
「そして俺はその剣で奴等を倒す」
「そういうことです。ですから後ろのことはお任せ下さい」
「ああ、わかったぜ」
 彼はその言葉に頷いた。
「ニーベルングはこの俺がやってやる」
「期待させて頂きます」
「そのかわり、後ろは頼むぜ」
「はい」
 二人は杯をまた合わせた。これを盟約の、暫しの別れの杯としたのであった。次の日ジークムントは出撃した。そのまま帝国軍を追うのであった。
「今帝国軍は何処にいる」
「只今入りました情報によりますと」
 ヴィントガッセンが彼に応えてローゲのスイッチを入れた。
「ドルトムント星系を壊滅させたそうです」
「ドルトムントをか」
「あの星系も帝国に対して反旗を翻していたそうですから」
「だが壊滅とはどういうことだ」
「星系にいた者を全て攻撃対象としたのです」
「何っ!?」
 それを聞いてジークムントだけでなくジークリンデの艦橋にいた多くの者が声をあげた。
「非戦闘員までもか」
「はい」
 ヴィントガッセンはそれに答えた。
「恐ろしいことに。そして星系にいた者全てが」
「何とういう奴等だ」
「そして星系への攻撃は何を使ったんだ?」
 だがジークムントはその激情をかろうじて抑えていた。人一倍血の気の多い彼であったがここは何とか抑えた。そして指揮官としてヴィントガッセンに問うた。
「あのファフナーという兵器か?」
 バイロイト、そしてヴァルターのいたニュルンベルグを壊滅させたあの謎の兵器である。それに関する情報も彼の下に入っていたのである。
「いえ、ファフナーはこの近辺では確認されていません」
「じゃあ通常の攻撃でか」
「はい。惑星を包囲し、宇宙から無差別攻撃を仕掛けたとのことです」
「そうか。どちらにしろとんでもない奴等だな」
 ジークムントは怒りを押し殺してこう述べた。
 
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