| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

リング

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

61部分:ローゲの試練その十五


ローゲの試練その十五

「私にか」
「はい」
 カイルベルトが彼に応えた。
「御会いしたそうでございます」
「パルジファル=モンサルヴァートか」
 ローエングリンは彼に面会を願うその男の名を口にした。
「確か武器の闇商人だったな」
 噂は聞いたことがある。帝国と対立する立場にある者達に武器や資金を提供しているという。だがその素性は誰も知らないということだという。
「如何為されますか」
「私に会いたいのだな」
「はい」
 カイルベルトは答えた。
「その為このミュンヘンまでわざわざ来たのか」
「その様ですが」
「ならば会わないわけにもいくまい」
 彼はこう述べた。
「会おう。そして会見場所は」
「港で行いたいとのことですが」
「わかった。ではそこで会おう」
「はい」
 こうしてローエングリンはパルジファルと会うことになった。港に向かうともうそこに黄色い髪に重い金属を思わせる服を身に着けた男が立っていた。
「はじめまして」
 彼はローエングリンの姿を認めると一礼した。
「私がパルジファル。パルジファル=モンサルヴァートです」
「卿がか。話は聞いている」
 ローエングリンはそれに応えた。
「はじめて。私がローエングリン=フォン=ブラバントだ」
「ブラバント閣下、よくぞこちらにまでおいで下さいました」
「何、卿は客だ。客を出迎えるのは当然のこと」
 彼はこう返した。
「だからそれは気にはしないでくれ」
「わかりました」
「うん。それで私への用件とは」
「これについてで御座います」
 彼はそれに応えて後ろを指差した。
「あれを御覧下さい」
 彼が指し示す先には一隻の戦艦があった。
「あれは私が乗っている艦です。名はグラールといいます」
「グラール」
 ローエングリンはその艦を見て目を凝らしていた。
「お気付きでしょうか」
「気付かぬ筈がない」
 ローエングリンはパルジファルの言葉に応えた。
「あれは。私のケーニヒと同じではないか」
「はい、同型艦です」
 パルジファルは答えた。
「ケーニヒ級七番艦」
 彼は言う。
「それがあのグラールで御座います」
「そうか、同型艦だったか」
 ローエングリンはそれを聞いて頷いた。
「他にもあったのか」
「私は他にもあの艦艇を所有しておりました」
「そしてそれはどうした?」
「ある方々に提供しました」
 その質問にはこう答えた。
「その中には。ヴェルズング閣下もおられます」
「ヴェルズングにもか」
「そうです。全ては帝国と戦う為に」
 パルジファルはそう言う。
「提供したのです」
「帝国を倒す為か」
「はい。その為に私は生きているようですから」
「生きているよう!?」
 不思議な言葉であった。首を傾げずにはいられない。
「妙なことを言うな」
「実は私は記憶がないので」
 パルジファルはそれに応える形で言った。
「自分が何者すらもわからないのです。そう、何者なのかも」
「だが名前だけはわかっていたと」
「はい」
 その質問には答えることができた。
「ですが」
「その記憶は戻ってきているのか?」
「少しずつ。しかしそれは太古の記憶からなのです」
「わからないな。どういうことなのだ」
 ローエングリンにも流石にわからなかった。
「太古からの記憶とは」
「何故太古からの記憶が甦ってきているのか。私にもわかりません」
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧