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猫アレルギー

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第一章

               猫アレルギー
 高橋誠彦は妻の咲江が彼が会社から家に帰って着替え終えてから言ってきた言葉を聞いて思わず聞き返した。
「本気かい?」
「ええ、本気よ」 
 咲江はすぐに夫に答えた、テーブルの上の彼の遅い夕食を出しながら。
「もう子供達は皆家を出たし」
「結婚したり一人暮らしをはじめてな」
 就職、結婚、そして進学でだ。長男もその下の二人の娘も皆家を出てしまった。広いマイホームも今は二人だ。
 その家の中でだ、咲江は夫にこう言ったのだ。
「猫飼いたいのよ」
「犬がいるじゃないか」
 こう返した高橋だった。
「うちにはもう」
「花子よね」
 茶色の柴犬だ、二人にも時々帰って来る子供達にもよく懐いている大人しくしかも愛嬌のある犬である。
「あの娘もいるけれど」
「猫もかい?」
「花子がいると番犬になってお散歩をして寂しくないけれど」
 それでもというのだ。
「お家の中がね」
「花子は小屋にいるからな」
 家の外の犬小屋にだ、そこでいつも大人しく過ごしている。
「だからっていうんだ」
「そうなの、お家の中にもって思って」
「子供達もいなくなって」
「あなたがお仕事に出て私もパートがあるけれど」
 それでもというのだ。
「お家の中で一人だし二人でもね」
「そう言われると寂しいな」
「だからよ」
「猫もかい」
「いて欲しいって思ったのよ」
 こう夫に話すのだった。
「前から思っていたけれど」
「そうか、しかしね」
 高橋は妻の言葉を聞いて思った、身体は痩せているが腹はだらしなくなっている、顔の皺は増えて髪の毛もすっかり白くなっている。妻も顔のシミを気にしていて髪の毛のツヤは全くなくなってしまっている。二人とも身体のあちこちが不安になりだしている。
「奥さんは猫アレルギーじゃないな」
「猫ちゃんと一緒にいるとね」
 咲江も苦笑いで答えた。
「どうしてもね」
「くしゃみや涙が出るじゃないか」
「それでも猫は好きなのよ」
 アレルギーでもというのだ。
「だからね」
「難しい話だな」
「どうかしら」
「正直何とも言えないよ」
 妻の猫アレルギーを知っている夫としてはというのだ。
「このことは」
「無理かしら」
「アレルギー持ちだから」
 こう言うしかなかった、実際に。
「どうしても」
「けれど私としてはね」
「飼いたいんだね」
「そうなの、種類は何でもいいから」
 猫ならというのだ。
「ちゃんと世話もするしね」
「それは僕もするし」
 犬の花子の方も二人でそうしている、子供達がいなくなったのでその分も可愛がっている。
「そうしたことは心配していないけれど」
「問題は私ね」
「そうだよ」
 あくまでというのだ。
「奥さんの猫アレルギーだけれど」
「このことさえ何とかなったら」
「どうしたものかな」
 妻からその話を聞いてだった、高橋はその日は幾ら何でも無理だろうと思った、しかしその次の日だった。 
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