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リング

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44部分:エリザベートの記憶その二十二


エリザベートの記憶その二十二

「ただ一つ言えるのはニーベルングは自身の一族の身体に自分の心を憑依させることができます」
「心を」
「それはもう御存知だと思いますが」
「確かにな」
 タンホイザーはその言葉に頷いた。
「それを現実に目の当たりにした。私もヴァンフリートも」
「ジークフリート=ヴァンフリート氏ですね」
「やはり知っているか」
「あの方にノートゥングを提供したのは私ですから。ケーニヒ級の六番艦を」
「ケーニヒ級を」
「貴方が持っておられるローマは二番艦です」
「そこまで知っていたのか」
「ヴァルター級は今七隻あります」
 パルジファルは言った。
「そのうちの一隻は私が乗っています。そしてあとの六隻は」
「私とヴァンフリート、そして他の者が乗っているのだな」
「その通りです。そして貴方達に共通するのは」
「何だ」
「帝国と戦っているということです」
 彼はこう述べた。
「帝国とか」
「そうです。貴方もまたそうでしたね」
「私はただチューリンゲンとヴェーヌスを取り戻そうとしただけだ」
 タンホイザーはこう答えた。
「チューリンゲンは陛下と民の為だ。ヴェーヌスは」
「その女性の方も私は知っています」
「卿は何でも知っているようだな」
 タンホイザーのその言葉にはいささか皮肉も混ざっているように聞こえた。
「それまで知っているとは」
「またその方に御会いするでしょう」
「少なくともそれは今の世ではないがな」
 シニカルに笑ってこう述べた。
「ヴェーヌスは。もう死んだ」
「ワルキューレは今ヴァルハラ双惑星に向けて進撃を開始しようとしております」
「ヴァルハラに」
「ヴァンフリート氏が。自身の運命に従い」
「そうか」
 タンホイザーはそれを聞いて呟いた。
「彼の運命がどういったものかは知らないが」
「そして貴方もその運命に従うことになります」
「私もか?」
「はい。それはもうすぐです」
 パルジファルの言葉には感情は見られなかった。だがそこには何かがあった。
「また御会いしましょう」
 そしてこう言って踵を返した。
「女神に導かれて」
 こう言い残すとパルジファルが姿を消した。後には呆然とするタンホイザーだけが残った。
「女神・・・・・・どういうことだ」
 彼は何が何かわからないまままた呟いた。
「私がその女神に導かれて」
 何のことか全くわからなかった。彼は狐に摘ままれた様な顔になっていた。だがそれでも戻らなければならない時が来ようとしていた。彼は一先艦隊を率いて一時チューリンゲンに帰ることにした。何はともあれこの一帯の帝国軍は退けた。そして今後どうするか、方針を定めなければならなかったからだ。ラインゴールド等に防衛の為の戦力を置いたうえで主力を率いてチューリンゲンにまで下がった。
 彼はローマの自室でまどろんでいた。ベッドの中にその身を横たえていた。
 その彼に声をかける者がいた。それは夢の中であった。だが彼はその声を確かに聞いていた。
「公爵様」
 女の声だった。それが彼を呼んでいた。
「公爵様」
「誰だ?私を呼ぶのは」
 彼はその声に対して夢の中で応えた。
「女のようだが」
「私です」
 彼の目の前に一人の少女が姿を現わした。金色の髪と青い目を持った美しい少女である。タンホイザーは彼女の姿を見てすぐに驚きの声をあげた。
 
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